「中古本を買っていいのか問題」への読書猿さんの回答から学ぶ
新刊本を買わず中古本を買うことは、著者・作者や出版社にダメージを与える「悪い行為」なのではないか?というモヤモヤを抱いていました(今も解消しきってはいない)。この「中古本を買っていいのか問題」に対して、『独学大全』などで知られる読書猿さんが回答され、それが納得感のある考え方だったので、記録しておきます。
質問投稿サービス「マシュマロ」で、学生さんから読書猿さんに寄せられた質問。「作家への印税や、書店の売り上げ」といった経済的側面から、本を中古で買うこと、図書館を利用することの是非を問うものでした。この学生さんは「本を買うなら中古の方が当然安くて買いやすい。だけどそれが全体的に見て良くないのなら、もうするべきではないししたくないと思いました」と切実な思いを訴えていました。
学生さんの声に「本当にそうだよね」と首を縦に振りました。実際、どうなんだろうと。業界の内情を知らない読者としては、表面的なお金の動きとして、古書店や図書館の利用は、作家や出版社の経済的利益にならないと直観されます。印税は新刊の売り上げに連動して支払われるものと理解しているからです。だとすれば、二次流通品に手を出すことは、ある種の「タダ読み」なのではないかとの恐れを抱きます。たとえば漫画の世界では、海賊版が深刻な問題だと指摘されていますが、それとどう違うだろうかと。
これに対して読書猿さんの回答は次のようなものでした。
ああ、そうか、と胸がすっとしましました。こう考えるとき、古本を買っていいのか問題を打開できるのかと。
読書猿さんの回答は「たくさんの本を読み、一人前の本読みに成長しよう。そして、いつかがんがん稼げるようになったら、山ほど本を買おう」という理路です。つまり、「読み続けよう」ということ。もしも、本を読み続けることに経済的な障壁が立ちはだかるなら、迂回路として古本や図書館を利用することは、何ら恥ずべきではないと言ってくれている。
「古本を買うか/新刊を買うか」という二者択一を設定すれば、それはとうぜん新刊を買う方に経済的利益の軍配は上がる。しかし、そもそも「本を読むか/読まないか」という選択肢ではどうか。「古本は悪だ」「図書館はずるい」という発想で、経済的余裕がないときに本を読む道を閉ざしたとすれば、一人の本読みが「読まない」という道へ進み、読書の世界から退場してしまう結果になる。それは、経済的に見れば大損害である。「一人前の本読みに育つ方が業界的には何千倍もうるおう」の意味することは、この裏返しではないかと思うのです。
たしかに、最初の選択肢に戻れば、古本よりも新刊を買う方が直接的な経済的利益を生める(印税の形で)。ただ、そもそも裕福なら、新刊を買うことをためらいはしない。私たちは「読みたいけれどお金が十分にない」からこそ、古本を買っていいのか問題にぶち当たる。そのときに、「読まない」方に、諦める方に足取りを進めないで、と読書猿さんは呼びかけている。
読み続ける限り、新刊を買う道筋は残されている。就職してから、年を取ってから、それは分からない。でも大切なのは、読むことを諦めないことなのではないか。
読書猿さんの投稿に呼応し、作家の柞刈湯葉さんも学生さんを応援する。
新刊か古本か貸本かに関係なく、この世界に「読みたい」気持ちがあるからこそ、新しい本は生まれる。「読みたい」が多様であるからこそ、本も多様になる。
胸を張るまではいかない気もしますが、私も、とにかく読み続けたいと思います。
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