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ここまでわかった犬たちの内なる世界〜#09イヌはにおいを階層化できる〜 カレーの匂いは「カレー」ではない

☻最終更新 2025/01/15  【においを階層化するとは?】の項 英語表記を加筆
イラストのキャプション、参考文献の抜けを補充


前回まで2回にわたり嗅覚についてお話しました。イヌは、私たち人間の見えないものを「鼻で見る」ことができるという事実の一端がおわかりいただけたと思います。


今回も、引き続き犬の嗅覚について深掘りを試みます。



においを階層化するとは?

イヌは嗅ぎ取る能力がすぐれているだけでなく、においを分析することができます。様々なにおいが混じりあっているなかで、じゃまなにおいを無視し、特定のにおいを嗅ぎ出すことができるのです。

訓練を積んだ爆発物探知犬は、仮にテロリストが爆発物にシャネルの香水をふりかけて持ち込んだとしても、簡単に見破ってしまいます。
これはまだ序の口です。 

米国税関国境警備局(CBP)の犬部門を司るクラーク・ラーソンによれば、密輸業者がセロハンに包んだ マリファナを玉ねぎで囲んで 密閉容器に入れ、 それをガソリンで満たされたタンクに浸したとしても、 税関で働くビーグル犬なら、それでもなお薬物を嗅ぎ分けられるそうです。

なぜなら、イヌはにおいを階層化(layering)してとらえることができるからです。


「においの階層化」( ”odor layering”)のわかりやすい例を挙げましょう。

たとえば、カレーのにおいは人間にとってはあくまでも「カレー」です。ところが、イヌには、においを構成するターメリック、クミンシード、シナモン、カルダモン、クローブ、ナツメグ、ローリエ、キャラウェイ、フェヌグリーク等々の各スパイスまで嗅ぎ分けることができるのです。

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進化の秘密は「狩り」にある


このような驚くべき能力を、イヌたちはどこで手に入れたのでしょうか?

イヌの鼻は狩りで進化したと考えると、答えが出ます。

ネコ族に比べ瞬発力に欠けるイヌ族は、長距離を走り抜いて相手を追跡するという手段をとりました。
においで獲物の居場所を突き止めるだけでなく、特定の個体のにおいを嗅ぎ分けることができれば、狩りはスムーズにいきます。
たとえば、群れから切り離されイヌに追われていたシカが、また群れに戻るようなことがあっても、見失うことなく、とことん追い詰めることができます。
イヌたちはこの「嗅ぎ分ける」能力を発達させ、狩猟時代を生き抜いたのです。


嗅覚受容体遺伝子にまつわる意外な事実


ここまでのお話だと、イヌの鼻は飛び抜けて鋭いに違いないと思い込みがちですが、哺乳類の嗅覚受容体遺伝子を調べた東京大学大学院農学生命科学研究科の近年の研究では、意外とも言える事実が明らかになっています。

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