(カリスマ・コンサルタントを)信じる者は救われると謳うやや新興宗教的な中小コンサルティング会社は少なくありませんが、知床遊覧船の沈没事故とビッグモーターの不正事件に同じ経営コンサルタント(株式会社武蔵野、小山昇代表取締役社長)が悪影響を与えていたと昨年 / 先日から報道されています。
ビッグモーターについては、環境整備の一環として、店舗前・工場前の歩道(公道)の街路樹の根元に大量の除草剤を散布していたことも糾弾されています。(雨水で洗い流され河川や海へ流れ込む除草剤が、海産物を介して、人体に摂取されるリスクは高そうです。)
渦中の兼重宏一副社長(息子さん)は出席しませんでしたが、昨日行なわれたビッグモーターの記者会見(辞任会見)で、兼重宏行社長は殆ど全ての責任を現場で働く社員に転嫁していました。
【決定版】朝一番の掃除で、あなたの会社が儲かる!(小山昇著、ダイヤモンド社、2014年)の中では社長が自ら現場へ足蹴く通っていたと紹介されていますが、急成長(8倍)を遂げたこの10年の間に現場へ出かけることはなくなったようです。また、5年ほど前から社長が半ば隠居してゴルフ三昧の日々をおくる一方で、様々な権限を委譲された副社長(息子さん)他が現場を回っていたとも報道されています。代替わりに連れてどんどん悪い方向へ進んだと、大勢の元社員が証言しているそうです。
さて、YouTube、Twitter、他にはビッグモーターの元社員による暴露発言が次々と掲載されていますが、その多くがオーナー初代社長と二代目副社長の取り巻き衆(役員や幹部社員)は耳障りのよい情報と手段を択ばず荒稼ぎした数字しか上奏していなかったと批判しています。
事情は大きく異なりますが、日本中で霊感商法を展開した経済部隊が(一種のオーナー社長である)教祖に重用された旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の成果至上主義と相通じるものがありそうです。
尚、ビッグモーターではBP部門(板金塗装部門)のみならず整備部門においても、類似した内容の整備点検で費用を二重に請求したり、実際には行っていない車両の整備点検を行ったことにしたり、新品部品の代金を取りながら中古部品を使用して修理した事例も多数あったようです。それらが原因となって物損事故や人身事故が発生していないことを祈るばかりです。
教祖・文鮮明氏は現金を持ってくる人間を重宝した
伝道部隊よりも力を持った経済部隊 韓国本部が日本を経済部隊と呼んだ真因
資金調達と信者獲得を同時に満たす宣教方法。こんな統一教会教祖の指示を受けて生み出されたのが霊感商法だった。
北海道大学大学院教授 櫻井 義秀
世界平和統一家庭連合(旧統一教会。以下、統一教会)のグローバルな宣教活動資金のほとんどは日本で調達されてきた。
日本の統一教会の経済活動の萌芽は1960年代、「献身」する青年信者たちが廃品回収や花売りなどの物販をしていたことに始まる。献身とは、無給に近い待遇で活動することだ。
1970年代後半になると、韓国で安く仕入れた朝鮮人参茶や高麗大理石のつぼなどを日本で高く売る商売を始めた。このビジネスを軌道に乗せたのがハッピーワールド社長(当時)の古田元男氏だ。韓国の一和や一信石材といった統一教会系企業から輸入し、全国の系列販売会社が卸売りする商流を構築した。販売員はほぼすべて統一教会信者だった。
古田氏は稼げるビジネスモデルを確立しただけでなく、教団に多額の献金ができる仕組みまでつくった。献身者たちを従業員として雇えば月々の給与は一人数万円で済む。むろん、それでは最低賃金を下回ってしまうため帳簿上は一般企業と同等の給与額を人件費として計上。中抜きした金を韓国の教団本部に送金する原資とするのだ。帳簿上は中抜きされていないので会社の利益は人件費(の差額)分だけ圧縮でき、法人税も最小限に抑えた。
古田氏の名は教団の幹部リストにこそ登場しないが組織内では大幹部扱いだったとされる。
統一教会には初代会長で国際勝共連合の会長も務めた久保木修己氏という人物がいたが、文鮮明氏は政治や宗教の話をしてくる久保木氏より、現金を持ってくる古田氏を重宝した。伝道部隊(久保木)より経済部隊(古田)のほうが上位にいた点に日本の統一教会の特徴がある。
今年7月19日、韓国本部元ナンバー2・郭錠煥氏が会見を開き、日本の統一教会を「経済部隊」と呼んだのは、韓国本部が日本を集金マシンと位置づけてきた経緯を知っているからだ。
1980年代以降、文氏は日本に対し、資金調達のミッションと信者獲得を同時に満たす宜教方法の開発を迫った。生み出されたのが霊感商法だ。
人の哀しみや生活の苦しさを聞き出し、運勢を転換するためと称して高額のつぼや印鑑、多宝塔を買わせる販売方法だ。
それも1回売って終わりとはしない。後日、購入者を霊場と呼ばれるホテル会議室やマンションの一室に呼び出し、霊能師役の信者らが家系の因縁や霊の恐怖を語り、さらなる購入を迫った。これを繰り返すうちに信者にしてしまうのだ。
霊感商法による資金調達と信者獲得は一定の成功を収め、味を占めた韓国の教団本部はさらに日本に送金を迫った。こうして霊感商法は過熱していく。
ところが1990年代後半になると霊感商法への違法判決が相次ぐ。特定商取引法違反で販売会社が摘発される事件も起きた。教団は一般市民を相手に物を売りつける手法を改め、信者にした後で献金を吸い上げる形へと切り替えた。相手が「信者」であれば宗教法人内の話となり、マインドコントロールされた人間がどんなに高額献金をしようと「信教の自由」を前に行政は介入できないからだ。
目下、政府では霊感商法など悪徳商法への対策検討会が開かれている。統一教会の戦略の変遷を踏まえた対策を期待したい。
統一教会系企業は、さすがに今は従業貝に献身はさせていない。懸念するのは、かつて年金にも社会保険にも入れてもらえずに働いていた元献身者の老後だ。生活の苦しい人々が続出するのではないか。
櫻井 義秀(さくらい よしひで)北海道大学大学院教授。1961年山形県生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程中退。共著『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』で統一教会の全体像を描く。