視点の自由研究No.121「視点_カチンコ」
皆さんは、カチンコという撮影道具をご存知でしょうか?映画のメイキングなどで見られる撮影スタートの合図を出す、あの道具です。道具としての価値をお伝えしつつ、今回はそこからアナログの使い道を考えてみたいと思います。
「音との同期」
さてカチンコの最も大きな役目、それは現場の音と映像の同期です。同期、つまり映像のタイミングと音声のタイミングを合わせるということ。なぜそんな必要があるのかと言うと、かつて映画の主流であったフィルム撮影で必要だったからです。実はフィルムでの映像の撮影において音声をフィルム内に焼き付けることはできません。
ですので、現場で音は別に録音しておいて、編集時にその音を合わせています。書いているだけでも面倒な作業なのですが、フィルムならではの質感やテレビの解像度がSDのような低い時代においてはフィルムの解像度の高さは貴重で、やはり大きな予算の映像制作では使用されています。
最近でもごく稀にですが、フィルムの撮影は行われています。ですが多くの撮影現場ではデジタル化が進み、データでの映像収録が当たり前になっています。当然、音声も同時に収録できるためかつてあったような音合わせということも少なくなっています。
「カチンコ」
それでも今日も撮影現場にはカチンコが入っていることがあります。映画やドラマ、CMの撮影現場では当たり前のようにカチンコを打っています。(カチンコは打つという表現をします。)なぜでしょう?
多くの場合は役者さんが芝居の世界に没入するためのきっかけ作りになるためとも言われたり、スタッフの本番への集中力を高めるためとも言われています。ちょっとした式たりでもあり、おまじない要素もありつつ、確かに現場で聞くカチンコはいいな、なんて思ってもいる。
しかし、実は今でも「同期」する意味で大活躍するカチンコがあります。
それが、2カメラなどの複数でのカメラ撮影です。
「アナログ」
2カメラで同時に収録した場合、編集時にはそれを同じタイミングで編集したいのは誰しも思うことでしょう。最近の編集ソフト(プレミア)ではAIで音声を解析し、そのタイミングを自動で調整してくれる機能も装備していますが、やはりカチンコを打っていると格段に編集しやすいのは間違いありません。つい先日も自分のお仕事でそのありがたみを実感しました。
今では撮影時に儀式的にも使われているカチンコですが、このアナログな一手間が編集時に大いに役に立っている事実。
AIの普及によるデジタル化は映像業界も大きく変化させていますが、実はカチンコなんていうひどく原始的なアナログ作業が最後の一手間を楽にしてくれてもいる。全てのデジタル化も面白くない。何かアナログな一仕事が人間にとってやりがいや気持ちよさにもなっている。
カチンコを見ているとそんな人間という動物の感性を見ている気がしています。
映像でお困りの方、静岡で撮影されたい方、ぜひ一度お声掛けください。