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映画「ブルータリスト」を観たんです

* ネタバレのような、そうでないような


映画「ブルータリスト」

を先行上映で観て参りました。


100分(前半)+15分(インターミッション)+100分(後半) =215分



なんか年末からインターミッションあり作品を観続けている気がする。そろそろインターミッションのプロと自称できる気がしてきた。



しかし、

そんな長さを気にさせない迫力でした。



この映画は、

事前情報が少なければ少ない方が衝撃が強くで面白い

と思う。


はい、そうです。

いつものように情報がほとんどなかったワタクシです。


知っていたのは

主役の建築家を演じているのが

エイドリアン・“ボルゾイ”・ブロディ

である事。ボルゾイはミドルネームではないけれどね。


そして

ポスターにあるように
昨年、ベネチア国際映画祭銀獅子(監督)賞受賞し、
ゴールデングローブ賞を受賞
アカデミー賞に賞に10部門ノミネートされている


それだけでした。


なので、タイトルの「ブルータリスト」の意味を、

brutalからの派生だと思い、建築用語から来ているなど思いもよらず。


『ブルータリスト』のタイトルの元となっているのは、「ブルータリズム」。50年代イギリスから見られるようになった建築様式で、「ブルータル」とは「獣のような、荒々しい」の意。コンクリートやレンガが剥き出しになった外観で、装飾より構造そのものを見せる手法。ブルータリズムで有名な建築家にはル・コルビュジエ、マルセル・ブロイヤー、ウィリアム・ペレイラ、モシェ・サフディ、デニス・ラスダン、アリソン&ピーター・スミッソンなどがいる。日本では丹下健三の「国立代々木競技場」がよく知られている。

ELLE

ブルータリズム(Brutalism/またはブルータリズム建築)とは、第二次世界大戦後の1950年代、世界中で流行した建築様式。打放しコンクリートやガラス等の素材をそのまま使い、粗野な印象の建物のことを指す。

pen

なるほど〜。「国立代々木競技場」とか「国立西洋美術館」とかがそうらしい。そう考えると、時代的にも、日本でも戦後近代化の象徴的な建造物なのでは?と結論付けたりする。結構好き。



まあそんな具合に、
ほぼほぼストーリーも知らずに観ました。


オフィシャルサイトによると大まかなあらすじはこんな感じ↓。

第二次世界大戦下のホロコーストを生き延び、アメリカへと渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トートの30年にわたる数奇な半生を描き出したフィクションである。

第二次世界大戦後、無残にもすべてを奪われた建築家が希望を抱いたアメリカンドリーム。見知らぬ土地と異なる文化、その光と影に苛まれながら、家族への愛と建築への情熱をたぎらせ続けた30年――その切り拓かれていく半生を共に旅しながら、極上の没入体験を我々にもたらす唯一無二の人間ドラマが誕生した。

オフィシャルサイトから


そっか、オフィシャルサイトに既に書いてあった。ネタバレでもなかったのか。でも、忘れて観ちゃう人多いんじゃないですかね?

あれ?コレって実話?

みたいな。


実際、ワタクシは途中で実話と思い込み、実話としての違和感も覚えて少々混乱した次第。

でも、


この物語はフィクションです!



オフィシャルサイトにも書いてある通り。そのぐらい見とけよ…って自分につっこむ。


なので全米公開されると

「『ブルータリスト』事実確認:エイドリアン・ブロディの映画は事実を元にしているのか?」なんて記事が書かれているほどだ。(他にも似たような記事多数。)


冒頭に始まり、時々流れる

昔のニュース映像のような映像とナレーション

が、尚更、実話のような世界に観客を連れ込んでいく。


その映像は70mmフィルムで撮られていると言う贅沢さ。


その上にどこか大仰な雰囲気の音楽が被さって来る。アクションでもホラーでもないのにどこか煽られている感じがしないでもない。


映画のほとんどの舞台は

ペンシルベニア州ドイルスタウンと言う場所だけれど。

Wikipediaより


そこは実在するらしい。


その上、
主人公のラースロー・トートが映画の中で建設する【マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター】の説明が書かれた小冊子まで配られた。(小冊子は先行上映用の特典という記事もあるが、いつまで配られるかは不明だが。)


こうした

緻密に練られた実話への誘導。


それにまんまと踊らされるワタクシ…。


でも、

映画のメインとなるのは、【マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター】建設だけれど、

この建物は実在しない!


実話ではないから。




でも、映画の中ではどんどんと出来上がっていく様が見られる。


何度も言うが、本作は実話ではないのでラスロー・トートなるバウハウスで建築を学んだハンガリア人は架空の建築家だ。


では、【マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター】やその前の書斎を設計したのは誰か?


プロダクションデザイナーのジュディ・ベッカーと言う女性だった。


彼女の作品はほぼ観たことがなかったが(『ブロークバック・マウンテン』『キャロル』ぐらいか?)、本作で俄然興味を覚えた。

https://lampoonmagazine.com/article/2025/02/12/the-brutalist-movie-laszlo-toth-was-real-designer-judy-becker-interview/

インタビュー記事がないかと検索をかけたら英語版をいくつか発見。なかなか面白かった。

意訳すると、彼女は設計する際に、

「ラスローがどんな人か、彼の作品がどんなものかを考え、作品は彼自身と彼の経験からの物だと考え、誰かのコピーを作りたくなかった」

と語っていて、

【マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター】の教会の十字架については

「安藤忠雄の『光の教会』を少し参考にしました(見ました)。映画の中でのモノがそれに似過ぎない事を確認するためにね。教会の光の十字架は脚本に書かれていて、(安藤忠雄作品とは)異なります。似てしまうが、そう見えない事を確認したかった。モダニストによる教会をたくさん見ました。それらに似過ぎないようにするために」

「ブルータリストの建築に深く入り過ぎないようにしました。私はそれ自身を研究し過ぎないようにしています。自分自身から作り出したいから。私の頭の中にはインスピレーションやイメージのかなり大きな図書館があるんです。特別な物や知らない物以外は、他の物から影響を受けたくないんです。コピーを作りたくないし、自分自身のモノを作り出したいから。」

と語っています。


架空だからこそコピーにしたくなかったのか、オリジナリティへの追及なのか。純粋にオリジナリティへの追及と考えましょう。

その後、ラロスのアメリカで初めての場所となる従兄弟の店について語っている所で、ハンガリーまで家具を送らなければならず…とあり、ワタクシの中で、「ん?アメリカへのハンガリー移民の話では?」となった。

それで更に検索をかけたところ

全米都市の価格は急速に高騰し、ブタペストの広大な工業地域をニューヨークとフィラデルフィアのシーンに使用する事となった。

な、なんと、撮影部分はハンガリーで製作されていたとは…。コレまたある種の運命なのか?


更に別のインタビュー記事を読んでいくと、

彼女のブラディ・コーベット監督との最初に会話は象徴となる【マーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター】の建設についてだった。「どう進めるかを知る必要がありました。どこを実際に建設して、どこを仄めかすか。」

仄めかし部分はCGなのかミニチュアなのかは不明。そこが知りたいんですけどねぇ〜。また、こんな記述がある。

重要な点は建築物に建築家の戦後のトラウマを反映させる事でした。脚本には
トートと彼の妻が収容された収容所の兵舎の記述があると言う。ホロコーストの恐怖に加えて、建築物は自由と言う概念と夫婦間にある何らかの通路も表現する必要があったと言う。

確かそのあたりはラストの部分で語られている気がします。その辺りを思い出しつつ、もう一度映画を観てみたら、何か違ったものが見えるのかもしれません。


正直言うと、数ヶ所ストーリーとして違和感を覚えるところがあった。なんて言うか、置き去り?みたいな感じ。そのせいで、あれれ?コレって実話?実話じゃない?って言う疑問も出てきて、尚更、どう進むんだろうと没入していった。


この映画には

実話だと思わせる様々なトリックと
俳優の演技、
70mmで撮影されたワイドで現実的映像、
そして大仰な音楽の
重なり合ったパワフルさがあった。


俳優の事を書くと、記憶以上のボルゾイの鷲鼻に驚きつつ、もっと驚いたのはガイ・ピアスだった。

ワタクシは途中まで彼が出演している事を忘れておりました。それもどうかと思うが…。

ワタクシの印象は25年前の『メメント』での痩せ細った顔だったからかもしれない。その後の作品も観たはずなんですけれどね。


最後に


映画制作におけるAI使用に関して、批判が起きているらしく、監督はハンガリー語の発音に関してAIを使用したと言っているのかな?ワタクシはAIの使い方としては良いと思うんですけどね。


考えたら、5年前でさえ、ハンガリー語の部分もハリウッドでは英語を話させていた可能性は大きいわけで…。そこを吹き替えであれ、AIによる改善であれ、ハンガリー語で会話をさせているのに、ワタクシ感動したわけです。おぉ!英語じゃないぜよってね。なんだか、エミー賞独占の「SHOGUN」で、ヒロユキサナダが日本語にこだわったのに通じるようです。




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