2024年元旦の震災で休校になってしまった輪島漆芸技術研修所の学生さん達が同年6月に当工房に来られた折、「色漆の発色をよくする方法」について少しお話をさせて頂きました。 以下の内容は、その時に作成した資料です。 「色漆の発色について」 2024/6/13 丸山智裕 顔料濃度が同じとき、色漆の発色=漆自体の塗膜着色(茶褐色の濃淡) 漆の塗膜着色は、酵素反応の時にできるウルシオールキノンやキノン重合物に由来する(大藪, 阿佐見 1987)。 ウルシオールキノンの生
今回はいつもの漆の説明からちょっと脱線して‥、 「うるしの塗膜がどんな構造になっているのか?」についてのお話です。 このnoteでは、漆の塗膜構造を下のようなモデルでご紹介してきました。 主成分のウルシオールからできた重合体の海(含窒素物も一緒にいるよ)に、ゴム質の粒(水分が蒸発して干乾びた酵素ラッカーゼも一緒にいるよ)が泡のように散りばめられている‥というような塗膜断面の構造です。 現在ではこのモデルが一般的になっていると思うのですが、ちょっと前の本や学術誌では上の図
MR漆などの「ゴム質水球をより細かく分散した」高分散タイプの漆には、高い光沢の塗膜が得られることの他にもいくつかの特徴があります。 今回は、その特徴についてご紹介します。 ・硬化するのが早く、塗膜もより硬く強くなる 硬化した漆の塗膜は、塗膜一層がすべて均一な硬さになっているわけではなりません。 漆液には、主成分のウルシオールと含窒素物、水、水溶性のゴム質、酵素ラッカーゼなどが含まれています。 硬化した塗膜では、ゴム質と酵素ラッカーゼを含む「ゴム質水球」は、水分がおおむ
1999年以降、うるし精製の技術が大きく進化し、現在では乾性油を混合しなくても漆だけで光沢の調整が可能になっています。 これにより、他の樹脂成分や乾性油の入っていない「生漆」「透素黒目漆」「黒素黒目漆」の3種類の漆だけで、ほとんどのことができるようになりました。 ここで改めて、うるしの精製についておさらいします。 生漆を40℃以下の低温で加熱しながら攪拌して、「水分量を減らすこと」と「ゴム質水球を小さく分散させること」が、うるしの精製工程になります。 そのために、従来
「生漆」「透素黒目漆」「黒素黒目漆」の3種類を使うことができれば、その他の「漆」にはそれほど関心を払わなくても問題はありません。 何故なら、この3種類以外の様々な名称の「漆」は、「漆を主成分として、天然の樹脂や乾性油などを加えて塗料化されたもの」といっても間違いではない、ちょっと特殊な漆達だからです。 今回は、この「ちょっと特殊な漆達」がどういうものか、漆屋さんが決めた「漆の定義」にある「漆の分類」に従って紹介します。 - 漆の定義(分類) - 〈荒味漆および濾上げ生漆
うるしの精製とは、生漆を塗料として「より使いやすい性質に改質するための工程」です。 生漆は水分量が多く(15~30%)、この水分は塗料として塗ったあとに蒸発して飛んでいきます。 塗料の中で、塗膜に残らずに飛んでいく成分を「揮発分」といいます。 生漆は水分量が多いために「一度に厚く塗ることができない」とか、「顔料の発色が悪くなる」といった問題あります。 そのため水分を飛ばして、塗料として塗ったあとに揮発せず塗膜になる成分「不揮発分」を相対的に増やすようにうるし液を改質し
漆を販売している「漆屋」さんでは、実に多種多様な「漆」が販売されています。 ですが、「うるし」は結局「ウルシ」という木の樹液(樹脂)ですから、大元は1種類しかありません。 まずは、そこから枝分かれする「3種類の漆」について覚えていただければ大丈夫です。 これだけ覚えよう! 「① 生漆 」 「② 透素黒目漆 」 「③ 黒素黒目漆 」 木からにじみ出た漆を集めて、採取する際に入った木屑などを濾過したのが「生漆(きうるし)」です。 その生漆の中の成分をよくかき混ぜて、さらに水
はじめまして。 ここでは、「うるし」という素材についてのお話をしていきたいと思います。 ものづくりの職人でも、作品展に出品するような工芸作家でもない、ただの漆好きのうるし話にお付き合いください。 今回は、筆者の経歴についてお話します。 大学卒業後に工芸の専門学校へ行き、そこで「うるし」と出会います。 その後すぐには漆工芸への道には進まず、木工塗料やコーティング材料の研究開発の仕事に就きました。 その過程で、「うるし」を塗料や樹脂の視点から見つめ直して、改めて「うる