「うるし」の説明 その1 うるしの分類と成分
漆を販売している「漆屋」さんでは、実に多種多様な「漆」が販売されています。
ですが、「うるし」は結局「ウルシ」という木の樹液(樹脂)ですから、大元は1種類しかありません。
まずは、そこから枝分かれする「3種類の漆」について覚えていただければ大丈夫です。
これだけ覚えよう!
「① 生漆 」 「② 透素黒目漆 」 「③ 黒素黒目漆 」
木からにじみ出た漆を集めて、採取する際に入った木屑などを濾過したのが「生漆(きうるし)」です。
その生漆の中の成分をよくかき混ぜて、さらに水分を飛ばしたものを「精製漆(せいせいうるし)」と呼びます。
そして精製漆には、茶褐色透明な「透素黒目漆(すきすぐろめうるし)」と、真っ黒で不透明な「黒素黒目漆(くろすぐろめうるし)」の2つがあります。
① 生漆(きうるし)
漆といえば、赤や黒で塗られた漆器をイメージされることが多いかもしれません。その漆器の表面に塗られている赤や黒の漆は、実は「精製漆」です。
精製前の生漆は、漆器でいえば赤や黒の精製漆のさらに下の層、いわゆる「下地」という部分をつくる作業で用います。
下地の作業では、生漆をベースに糊・木粉・砥の粉や地の粉(粒子の細かい土)等を混ぜて、漆の接着剤や漆のセメント、そして漆のパテのような下地材料を作り、それを木の上に何度か塗り重ねて下地層を作り、その上に精製漆で塗装をします。
また、木工のオイルフィニッシュ塗装のように、木目を生かすために「塗っては→拭き取る」という作業を何度も繰り返して、木にうるしを染み込ませる塗装方法〈拭漆(ふきうるし)、摺漆(すりうるし)などと呼ばれる〉にも用いられます。
生漆は、ほぼ木から採取したままの「うるし液」です。
うるし液は、ウルシオールという樹脂成分の中に、水と水溶性成分が不揃いな水球を作って、不均一に分散している状態の液体です。
その成分の構成はおおよそ以下のようになっています。
生漆(うるし液)の構成
「ウルシオール」65~80%
樹脂の主成分、ウルシオールとまとめて呼んでいるが、構造の似た複数の化合物たち
「含窒素物」2~3%
ウルシオールに溶けていて、水分を分散させる役割、糖蛋白とも表記されます
「ゴム質」5~7%
うるし液中にある水に溶けている水溶性多糖類
ゴム質という名前だがとくに弾力性などはなく、アラビアガムのような性状
⇒ゴム質の溶け込んだ水は球状になって分散しているため、「ゴム質水球」と呼ばれる
「ラッカーゼ」約0.2%
うるし液が漆膜になるため(硬化するため)に必要な酵素
水の中でしか活動できないため、「ゴム質水球」の中にいる
⇒漆の硬化は、空気中の水分を介してうるし液中のゴム質水球に入ってきた酸素を取り込んで活性を得る酵素「ラッカーゼ」が、うるし液の主成分であるウルシオールを酸化させることで硬化反応が進んで成膜する
「水」15~30%
ゴム質とラッカーゼを内包しつつ、ウルシオールの中で不均一に分散している
⇒漆の硬化にはラッカーゼの活動拠点として、この水分がある程度必要
※ 天然物のため、成分比率は一定ではありません。
② 透素黒目漆(すきすぐろめうるし)
別名、「赤呂色漆」「木地呂漆 ※1」「無油朱合漆 ※2」など
生漆の成分を均一に撹拌し、水分量を減らす「精製作業」を経た精製漆。
水分量が減った分、生漆の時よりも粘度が高くなります。
漆工芸では、生漆で行った下地作業の後に何層か塗り重ねて、表面の仕上げ塗装に用いられます。
生漆に比べると塗膜の褐色が薄いため朱漆や白漆、緑色の漆などといった「色漆」を作る場合にはこの系統の漆に顔料を混ぜて、「色味のついた漆」を作ります。
透素黒目漆は専門的な定義で「透無油精製漆」と呼び、この漆の精製後や、なやし・くろめの途中段階でロジンやガンボージなどの天然樹脂や荏油などの乾性油を添加して、漆の褐色の濃さや光沢を調整した「透有油精製漆」という漆が作られます。
樹脂や乾性油を含んでいる分、漆特有の茶褐色の色味がさらに薄くなるので、「色漆」を作る場合には、より顔料の発色の良くなる「透有油精製漆」を使う場合もあります。
「透有油精製漆」には、「朱合漆」「赤中漆」「春慶漆」「木地呂漆 ※1」「無油朱合漆 ※2」などがあります。
※1 「木地呂漆」は地域により、「透素黒目漆」や「赤呂色漆」を指す場合もあれば、ガンボージなどを添加した漆を指すこともあります。
「木地呂漆」を購入の際は、漆屋さんに中身を確認してください。
※2 「無油朱合漆」は地域により、「透素黒目漆」や「赤呂色漆」を指す場合もあれば、ロジンや乾性油などを添加した漆を指すこともあります。
「無油朱合漆」を購入の際は、漆屋さんに中身を確認してください。
③ 黒素黒目漆(くろすぐろめうるし)
別名、「黒呂色漆」など
「精製作業」の段階で水酸化鉄を添加し、黒色に着色した精製漆。
この黒色は、漆の中に「黒い顔料」が混ざって黒く見えているわけではありません。
黒豆を煮る時に鉄くぎを一緒に入れるように、漆の精製時に加えた水酸化鉄の働きによって、うるし液中の樹脂分(ウルシオール)自体が黒い色に変化しています。
古来の黒漆は、生漆や透素黒目漆に掃墨(はいずみ)などの黒色の顔料(ランプブラック、カーボンブラック)を混ぜたものでした。
精製時に鉄成分を加えてウルシオール自体を黒色化させるようになったのは、大正時代以降ではないかと考えられています。
黒素黒目漆は専門的な定義で「黒無油精製漆」と呼び、この漆の場合も透素黒目漆と同様に、天然樹脂や乾性油を添加して、漆の性状を調整した「黒有油精製漆」という漆が作られます。
「黒有油精製漆」には、「艶呂漆」「黒中漆」「真塗漆」「箔下漆」などがあります。