「カルチャーモデル」を7Sで捉える『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#17】
8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。
「ビジネスモデル」を7Sで捉える
事業(ビジネスモデル)を先ほどの7Sと対比させるような形であえて7要素での整理をすると、たとえば次のような構成となります。
・Proposition:プロポジション(顧客への提供価値)
・Strategy:ストラテジー(事業戦略)
・Business Development:ビジネス開発(事業開発やパートナーシップ)
・Product Development:プロダクト開発(製品・サービスの開発)
・Promotion:プロモーション(広告・広報などのコミュニケーション)
・Value Chain:バリューチェーン(調達・製造・販売チャネル)
・Sales:セールス(販売促進や営業・顧客接点)
ミッションを達成するため、カスタマーバリュープロポジション(顧客への提供価値)を定義し、それを実現するためのストラテジーを決定し、7つの要素を計画します。
7つの要素はそれぞれ重要ですが、図案の中心に位置し、各要素の指針となるのがストラテジーです。
いかに経営資源を配分し、意思決定を行い、課題を解決するか。そして顧客価値をどのように提供するか。
このストラテジーが各要素の中心となり、その事業での自社の勝ち筋を定義し、整合性の取れた7つの要素に整理をしてゆきます。
そして、このまとまった計画のことをビジネスモデルと呼ぶわけです。
ただこれはあくまで計画でしかありませんので、この事業戦略を実行する「オペレーション」があってはじめて、顧客に価値が提供され、売上や利益となって還元されることになります。
なお、ビジネスモデルに関するフレームワークは、新規事業に適した「ビジネスモデルキャンバス」や、主にマーケティングで使われる「STP」「4P」など、無数にあります。本書では事業(ビジネスモデル)はメインテーマではありませんので、ビジネスモデルの詳細については他の書籍に譲ります。
ここでの7要素の整理は一例としてのフレームワークにすぎないという点はご留意ください。
「カルチャーモデル」を7Sで捉える
一方、組織(カルチャーモデル)は次の7要素で構成されます。
・Stance:スタンス(組織としてのあり方)
・Shared Value:シェアドバリュー(行動指針)
・Structure:ストラクチャー(組織の構造・形態)
・System:システム(制度)
・Staff:スタッフ(人の採用や育成)
・Skill:スキル(組織としてのスキル、強み)
・Style:スタイル(組織風土)
本来、7Sの一番上には「Strategy:ストラテジー(戦略)」が入りますが、ストラテジーはビジネスモデル側で機能するものであり、「ビジネスモデルとの両輪としてのカルチャーモデル」としては、ストラテジーは組み込むべきではありません。
それに代わるものとしてここでは独自に「Stance:スタンス」という要素を追加しています。
スタンスとは、自社が取るカルチャーの方向性を決めることで、主に経営のリーダーシップスタイルのあり方によって定義されるものですが、本書で提唱するカルチャーモデルの中核的な存在となりますので、第2章で改めて詳細に説明します。
このスタンスに基づいて、自社独自のバリューを定義します。バリューがカルチャーモデルの各要素を束ねる中心的な存在です。
前述のように、バリューはビジネスモデルでいうストラテジーと同じ役割を果たすものとして、自社の組織としての勝ち方・戦い方を定義します。このバリューを中心に、その他のSを整合性の取れた形で言語化し、制度などとして導入してゆくことで、カルチャーモデルをつくり上げてゆきます。
実行の役割を担う「ピープルマネジメント」
しかし、これら7つの要素を設計したとしても、現場の各部門において実行されていなければ絵に描いた餅となります。
その実行の役割を担うのが「ピープルマネジメント」です。
ピープルマネジメントとは、各部門のマネージャーが主体としてメンバーに働きかけ、ミッションを達成すべく組織をマネジメントすることです。
その方法として、目標管理やコーチング、コミュニケーションや人事評価などさまざまなアプローチが考えられます。
各部門長によるメンバーとの日々のやり取りによって実行され、7Sとして定義したカルチャーモデルが組織に浸透していくことになります。
このとき、マネージャーによって行動や言動が異なっていると、組織として一貫したカルチャーの醸成ができなくなります。
そのため、7Sを可視化・言語化することによって、組織全体へとカルチャーを浸透させてゆきます。
つまり、これら7Sを組織活動として行った結果、そのアウトプットとして生み出されるのがカルチャーなのです。
「カルチャーモデル」を設計するということ
まとめると、「カルチャーモデル」を設計することとは、設定されたビジョン・ミッションを実現するために、カルチャーの方向性を決め、整合性のとれた7Sを設計し言語化する営みのことだと言えます。
そしてそれがピープルマネジメントによって組織において実行され、日々の行動や言動として現れることで「カルチャー」として組織に存在してゆくのです。
ここでの言語化とは、後ほど詳しく述べますが、アップルの「Think different」の例のように、一言で表現して浸透させることもあれば、グーグルの「re:Work(リワーク)」やネットフリックスの「カルチャー・デッキ」など、詳細な文書として言語化される場合もあります。
また、どんなカルチャーが理想的なのかは組織によって異なります。
カルチャーモデルの7要素をいかに定義するか。そしてどんなカルチャーをつくるべきかについては、この後の第2章で解説していきます。
著者プロフィール
唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)
Almoha LLC, Co-Founder
大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。