「あずきバーは固い」企業の「中の人」が見落としがちな〝新しくなくもない当たり前〟#ずるい文章術 vol.5
こんにちは、奥山です。
最近、よく思うのは、ウェブって新しいものばっかりだなあっていうことです。ロングテールなんていう言葉はありますが、
やっぱり目立つのは「What's new? 」。
新聞社というメディアの世界はもっと極端です。
1度でも取り上げていたら、それはニュースじゃない。
だから、取材する前には必ず社内データベースで過去記事を調べるくらいです。
新しいのが当たり前。
だから、みんな最新情報で競ってしまう。
最新が強いのはわかっているけれど、この競争はけっこう過酷です。
新しいもの以外を出せなくなるのだから。
ニュースだったら、大事件の続報。
とにかく連日、報じるけど、だいたい2日目以降くらいから、何が追加情報かわからなくなります。
企業のサービスも同じです。
エアコンとか冷蔵庫とか電化製品って、毎シーズン、新製品が出ますけど、もはや新機能があるのかないのかわからない。
そういった情報を、「新しい出来事」であふれかえっているデジタル空間で発信しても、なかなかパフォーマンスは発揮してくれません。
古いものに目を向ける
そこで、発想を変えてみるのはどうでしょう?
自分たちの中にある「古いもの」に目を向けてみるんです。
新しさはないけれど、地道に続けてきたこだわりや技術はある。
それらは、どんな企業にもあるものです。
誰もが知る井村屋の「あずきバー」の秘密に迫った記事が、まさにそれに当たります。
ロングセラー商品「あずきバー」の知られざるエピソードを、井村屋に聞いています。固さの理由について説明する中で、添加物を入れていなかったり、材料を厳選していたり、製品へのこだわりを伝えています。
これらは、新しい情報ではありません。
でも、コンテンツとして多くの人が楽しめる内容です。
全然、新着情報ではないけれど、結果的に商品の効果的なプロモーションにつながったといえるでしょう。
同じように、豊島屋「鳩サブレー」の個包装の工夫について書いた記事があります。
包装の右下、鳩の尻尾付近だけ包みがくっついていることで「鳩サブレー」が動きにくくなり、割れるのを防いでいたというトリビアになっています。
実はこの工夫、25 年前に工場長だった現社長が機械メーカーの担当者と一緒に考えたものでした。
こんなところからも、お菓子メーカーとして品質にこだわる姿勢が伝わってきます。
「あずきバー」や「鳩サブレー」の記事は、ネットで話題になっていたのを見つけて取材をしています。実際に話を聞くと、Twitterでの盛り上がりからはわからなかった別のエピソードも出てきました。
しかし、それらのエピソードがもつ魅力について、企業の担当者は認識していませんでした。企業の中にいると、ある意味、これまでと同じことをしているだけとも言えるため、その面白さに気づきにくいのでしょう。
しかし、一歩外に出れば、一つの製品にかけるこだわりや思いは、十分、魅力的なコンテンツになります。
Twitterで話題になるのは、その中のごく一部にすぎません。
企業の中には、まだまだお宝が眠っているはず。
だったら自分たちでコンテンツ化してしまってもいいんじゃないでしょうか。
社内にいる熟練の職人、創業時から使っている機械や道具、日常風景と化している社内の風習。それぞれの事象から、自分たちが大事にしていることを語れるはずです。
ただ古くてもダメ
その際、気をつけたいのは自社の思いだけで終わらせないことです。
先ほどの記事がコンテンツとして成立しているのは、
「社会との接点」があるからです。
「あずきバー」の記事からは、消費者の味の変化を敏感に察知し、品質向上につなげるお菓子メーカーとしてのこだわりが浮かび上がります。
「鳩サブレー」の社長のエピソードは、仕事へのひたむきな姿勢を感じさせます。いずれもその価値は、物作りの現場すべてに共通しているものです。
新しいものに飛びつくことだけが正解ではない。
古いものの中にある、普遍的で共感を得やすいものに目を向ける。
「商品に対するこだわり」「ひたむきな姿勢」、普通の良さに気づく。
古いものの中にある良さは、放っておくのがもったいない財産だといえます。
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