これからの高齢者は、 「ミツバチの働き」 を目指そう [ 前編 ]〜医療費はもっと効率化できる!?〜
『DESIGN MY 100 YEARS 人生100年時代、「幸せな老後」を自分でデザインするためのデータブック』に収録されている特別対談を公開!自分や親の老後が気になってきた人、介護をビジネスにしたい人、高齢者医療にかかわっている人必読です。
平成最後の夏、「[落合陽一・小泉進次郎 共同企画]平成最後の夏期講習(社会科編):第1回・人生100年時代の社会保障とPoliTech」というイベントが開催されました。そのなかで、登壇者の安宅さんが「この国は高齢者にお金を使いすぎて、若者にはちゃんと投資できていない」と発言したのに対し、本書の著者・大石氏が「使ったお金は必ずしも高齢者を幸せにしていない」と応え、盛り上がりを見せました。そこで、具体的にどこが問題で、どうすればよいのか、今後高齢者にはどのような役割が期待されるかについて対談することにしました。
リソースは未来と成長に向けるべき
大石:最初に、安宅さんが考える日本の課題は何ですか?
安宅:僕の見解では、根源的な問題は2つあると思っています。
まず、「未来と成長に向けてリソースが十分に使われていない」という圧倒的に大きい問題。そもそも、高齢者の年金や医療・介護に国のリソースをつぎ込む状態に歯止めがかかっていないために、財源がまったく足らなくなって、次世代の人材育成や科学・技術の開発にリソースを十分に投下できないという由々しき事態が起こっています。もう1つは、「今の時代において社会に必要だと考えられる人材像と、国が育てようとしている人材が根本的にずれている」という問題ですね。
国の財源配分の問題により、「高等教育機関や国立研究所の競争力」が失われ、適切な給料が払えないために人の流出が続き、大学教員・研究者・学生が「B クラス化」しています。一方で、「理数素養、デザイン素養が欠落した人材育成」が行われています。「スケール型経済人材」ばかりが生み出される一方、「必要なデータ、デザイン人材が枯渇」しています。事業育成の視点でも「オールドエコノミーに過度の偏重」が行われ、「産業保護規制がデータ利活用を前提とするサービスの立ち上げを阻害」するという馬鹿げたことになっている。
この5年から10年のうちに抜本的な改革をしていかないと、この国もいよいよどん詰まりになるにもかかわらず、いまだ文系型官僚的人材を大量に育てるモデルから脱していないのです。(下図参照)
大石:それは、国が目指すべき人材開発ビジョンが間違っているということですか?
安宅:そうですね。衝撃的なことに、人口5千万しかおらず、少子化が日本以上に進む韓国と比べても、日本の理工系の大卒の数は年に10万人も少ないのです。韓国やドイツは大卒の3分の2近くが理工系なのに、日本では23%しかいない。アメリカでは理工系は3割強に過ぎませんが、18歳人口だけを見れば4倍いますのでこの問題はありません。
また、大半の大卒はデータやAI の力を解き放つために必要な情報科学、計算機科学の基礎素養が欠落しています。各領域を時代に即して刷新していくためには、これらに加え、デザイン素養を基礎として持つ応用・境界領域の人材を生み出すことが必須なのですが、そのような人材像が共通認識になってすらいないのが実情です。
いま、未来に向けてバランスよくリソースを使うことで、負の循環を正の循環に変え、さらに優秀な人間を生み出していって、新しい波に乗るという流れが必要です。
地方のインフラへのリソース投下も問題
大石:リソース投下の問題でいうと、安宅さんは「地方問題」にも警鐘を鳴らされていますよね。
安宅:はい。いま、15歳未満の平方km あたりの人口が1人しかいないとか、郵便局員が1人もいなくなったという町村が現実に出てきています。
人がいない問題というのは、大半は技術によって解決するはずだというのが僕の見解です。技術の力を使えば、人間は自然とともに豊かに生きられるのではないかと考え、有志の中で「風の谷」プロジェクトを始めています。
一方、現在は、人がいなくなって破綻しかかった町村をなんとか維持するために巨額の公費が使われています。市区町村レベルで1人あたりの予算を見ると、驚きの数字が出てきます。(下図参照)
たとえば、東京の目黒区は1人年間三十数万ぐらい。他の県庁所在地、松江市だと50万。でも、奥多摩に行くと120万。気仙沼で130万です。
村おこしで有名な島根県海士町は、なんと1人約260万。実は、特別会計も入れたら300万を超していて、4人家族で約1,300万もかかっている。
途方もない財移転をして無理やり回しているのです。まったくサステイナブルではありません。さらにその内訳を見てみると、インフラのコストだらけなんです。郵便、消防、バス、特に重いのが道路と上下水道。国道だと、1キロあたりなんと億単位でかかります。今、土木だけで、月間約2兆円ずつも使っているような状態なんですよ。医療費や電源・通信インフラコストなどを含まなくとも、こうなので、問題の深刻度は極めて高い。
大石:無理に公共工事をつくっても、そのときは雇用が生まれていいんでしょうが、そこから先はどうするのか。結局、全体のビジョンがないわけですよね。
安宅:そうですね。マクロで見て未来につながらないことはやめるべきだと強く思います。1兆円を突っ込んでも、5、10年後に3兆、5兆になって返ってくることはやるべきですが、7,000億ぐらいしかリターンがないものは極力削り落としていかないと、サステイナブルな未来はつくれません。
いかに医療費を減らしていくか
大石:国のリソース投下を見直すべきだというお話ですが、高齢化問題については、どう考えます?
安宅:高齢化問題については、基本的には3つのことをやるべきだと思います。
1つは、年金に課税する。年金は所得なのに、なぜか課税されていません。年金60兆円に5%でも課税したら3兆円ですから、未来は大きく変わります。
2つ目は、医療費の負担率を見直す。これは過去にもやってきたことですが、高齢者も2 ~ 3割負担で、われわれは3割を4割負担にする。
3つ目は、とにかく無駄を減らすことです。
大石:いま、40兆円の医療費のうちだいたい3割が高齢者医療に使われています。高齢者を幸せにしない過度な医療をやめれば1割減って4兆ぐらい浮くんじゃないですか?
精神病院に入院している認知症高齢者が自宅に帰ったら、医療費が3分の1になります。最期に管をつないで肋骨を折りながら心臓マッサージをするのをやめたり。また、高齢者だけでなく、若い人もそうですが、タクシー代わりに救急車に乗らないようにしたりとか、いろんな無駄を省いていくと1 ~ 2兆は軽く浮くように思えます。
安宅:それはぜひやりましょう。年金に課税する、医療費負担を上げる、無駄を減らす、の三位一体改革で。今の計算で5兆は浮きましたし。年に5兆あれば、未来は激変するでしょう。
大石:あとは、治療費を先に自費で全部払ってもらって、あとで返金するようにすると、さらに医療費は減ると思いますよ。これも高齢者だけでなく、すべての世代ですが。
安宅:間違いないです。軽い風邪でも病院に行く人いますよね。
大石:そうそう。後から7割バックされるけれど、最初に自腹で2,000円ではなくて6,000円払う。そうすると、その治療に6,000円の価値があったのか、と考えるきっかけにもなりますよね。こんな工夫はいろいろできます。
安宅:本当は、救急車もアメリカのように実費化するべきです。実費化すると、たぶん1回あたり5万円を超すと思います。これを個人の保険でカバーすることにすれば、無用な利用は劇的に下がります。
大石:IT の活用場面もいろいろあると思います。
遠隔診療も技術的には実現可能ですが、まず6か月対面でかかってないと、遠隔診療の適応にならない。救急の場面では使えないんですよ。AI も使えます。イギリスには「バビロンヘルス」というアプリを使った仕組みがあります。救急車に乗ろうとする前に、チャットボックスで「あなたは熱がありますか」「いつから出ていますか」「咳はどういう咳ですか」と答えに応じてどんどん聞いてきて、それに答えると「救急車を呼びなさい」とか「薬局でこの薬を買って飲みなさい」というメッセージがくる。医療費の効率化に効果が出ているらしくて、こういう技術も入れながら制度全体を変えていくことが必要ですよね。
別に救急車は乗りたくないけれど、不安で念のため医者に診てもらいたくて乗っている人もいますから、アプリで「アスピリンを飲んで寝ていれば大丈夫」と出たら、救急車に乗らない人も増えると思うんですよね。
安宅:そういう工夫で減らした医療費がIT やAI人材を育てるリソースに回って、それがまた医療費を節減する……素晴らしい循環ですね。
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