マクドナルドの復活を支えた「4つのアクション」宣言『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#9】
8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。
マクドナルドの復活を支えた「4つのアクション」宣言
もう少し、私の話を続けましょう。
私が日本マクドナルドに入社したのは2005年、原田泳幸氏が代表取締役会長兼社長兼CEOに就任し、デフレ不況下で傾いた業績の巻き返しを図ろうとしていました。
アップルの日本法人を率いた原田氏の手腕のもと、日本マクドナルドは不採算店舗の整理を進め、新商品・サービスを投入し、5年ほどで業績を回復させました。
けれどもその勢いにも陰りが見られ、売上高が減少に転じた2013年、原田氏に代わって、サラ・カサノバ氏が代表取締役社長兼CEOに就任しました(念のため強調しておきますが、両名とも素晴らしい経営者で、本当に多くを学ばせてもらいました)。
サラ(普段からSarahとカジュアルに呼ばれることを好んだのであえてサラと呼びます)は、私が新入社員として配属されたマーケティング本部で当時、本部長を務めていました。
彼女は社会人になりたての私にも、「あなたはどう思う?」「なぜそう考えたの?」と問いかけ、一人ひとりの意見に耳を傾ける人でした。
そんなサラがCEOに就任したことで、組織風土の変化が徐々に起こっていました。
トップダウン型で強力に改革を推し進めてきた原田氏のマネジメントに慣れていた組織は、サラの「あなたはどう思う?」「なぜそう考えたの?」という問いかけに慣れておらず、当初は困惑しているように感じられました。
「早くサラに決めてほしい」「どうしてサラは指示をしてくれないのだろう」……。
トップダウン型の組織からボトムアップ型の組織へのトランスフォームに苦労しているように私の目には映っていました。
そうした中、さまざまな要因が重なり、2014年、2015年と2期連続で日本マクドナルドは赤字を計上することとなります。
業績の立て直しに取り組む2015年、社長室長に就任した私は、組織を覆ういわゆる停滞感のようなものをなんとかしなければならないと考えました。
ボトムアップ型の組織へと変革し、会社としての成功体験を積むために、プロジェクトを立ち上げました。社員一人ひとりが働く意義を見つめ直し、自分たちの「バリュー(行動指針)」をつくり出すプロジェクトです。
全国各地にある店舗には、既に「Q・S・C & V」という行動指針がありました。
「Q・S・C & V」とはつまり、「Quality(品質)・Service(サービス)・Cleanliness(清潔さ)& Value(価値)」のこと。
Q・S・Cを徹底することによって、お客様に最高の店舗体験という価値を届けようということです。
Q・S・C&Vは全国全店に浸透し、非常に強い行動指針として機能していました。
けれども、これは店舗でこそ有効な行動指針ではあるものの、本社で働くメンバーにとって何を大切にすべきなのかが明文化されていなかったのです。
そこで、本社スタッフから公募制でメンバーを集め、プロジェクトチームを編成。
本社にいる約600名の全社員も巻き込んで3カ月にわたりワークショップなどを開催し、本社スタッフの行動指針をボトムアップ型で考えました。
その結果生まれたのが、「Be! CUSTOMER(まずはお客様になって考えよう!)」「Go! GEMBA(まずは現場に行こう!)」「Work! TOGETHER(まずはチームで取り組もう!)」「Act! FIRST(まずは発言・行動しよう!)」という4つのアクション宣言です。
自分たちの課題を洗い出し、行動をどう変えるべきなのか。
お客様に最高の店舗体験を届けるために、自分たちにはどんなことができるのか。
本当の意味で自分ごととして考え、課題から自分たちの大切にすべきバリューを定めたことで、組織のカルチャーは少しずつ変わっていきました。
社長の指示を待つのではなく、率先してアイデアを出すこと。
しかもそのアイデアは、現場の課題や要望を踏まえ、顧客ニーズをつかんでいること……。
このようにして、日本マクドナルドの本社におけるカルチャーは徐々にボトムアップ型のスタイルに馴染んでいったのです。
この活動は数ある業績回復のための施策のごく一部ですが、翌年の2016年には黒字に転じ、日本マクドナルドは復活を遂げることができました。
もちろん、マクドナルドのV字回復は、約3000店舗の店長はじめ、現場のスタッフ一人ひとりの努力あってこそのことです。現場の強さこそが、マクドナルドの最大の強みであることは間違いありません。
一般的に、業績が悪いときは、後ろ向きな言動が増えたり、他部門のせいにしたりと、組織の雰囲気は悪くなりがちなものです。そうしたときでも、マクドナルドでは本社が一枚岩となって店舗スタッフをサポートし、全社一丸となってお客様のための行動を取るべく努力していたのです。
業績回復は、マーケティング活動や、クルーの採用・育成の支援、サプライチェーンによるコスト最適化など、あらゆる活動を一つ一つ積み重ねた結果です。
これは個人的な見解ですが、「4つのアクション宣言」という形でバリューを可視化し、カルチャーを醸成したことが、組織としての連動性を高め、たくさんの活動を推進することに大きく寄与していたと、私は感じていました。
著者プロフィール
唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)
Almoha LLC, Co-Founder
大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。