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【おすすめ本】読んだら、別の本になる(早瀬耕/未必のマクベス)
来週ウガンダ🇺🇬から帰国予定です
今週もこんにちは。日本は衆院選ですね。肌寒くなってきたそうですが、みなさんお元気でお過ごしですか。
長年直せていないのが、色んな作家の作品をつまみ食いする癖です。一人の作家を深く読み込んでみたいのに、ついつい誘惑に負けて読んだことのない作家にばかり手が伸びてしまう。
でも、誘惑に負けて良かったこともあります。早瀬耕さんの「未必のマクベス」と出会えたこともその一つでした。
▼▼今回の本▼▼
主人公はIT企業に勤める中井優一。彼は香港の子会社に出向し、システムの暗号化方式とその復号方法を探す企業と開発者の争いに巻き込まれます。暗号化方式の鍵を握るのは高校時代の初恋相手、鍋島冬香。優一は「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」という謎の予言に導かれて、彼女との再会を願いながら、自身の過酷な運命に対峙していきます。
・・・不思議なあらすじです。「で、どんな話?」と聞かれたら困る。サスペンスか恋愛小説かスパイ小説か、それすら迷います。本屋のポップには、中身の紹介は一切なく、「どうか最初の1ページだけでも立ち読みしてほしい」と大きな文字で書かれていました。読む前は「中身を教えてよ」と思ったけど、読んだら「そうなるよなあ」と苦笑い。
普通、書き手は筋や登場人物を絡めて小説を練り上げていきます。だから読み手もぼんやりと設計図が見える。でも、本作はどのように作られたのか、見当がつきません。多分、早瀬さんは原型が溶けるほどに書き直したんだと思います。それくらいシーンによって色が違うのです。
例えば、サラリーマン小説。
「まだ主任の俺が、新任課長にため口をきいちゃ駄目だな」
(…)
「昼休みに、そんなことを気にしなくてもいいだろう。それに、伴は浪人しなかったから、入社年次では俺の上だろ。平成五年入社か?」
例えば、ハードボイルド。
「マフィアや蛇頭が拳銃を使って人を殺すのは、犯人を分かりやすくするためです」
「分かりやすく?」
「警察にとっては、事件を早く片付けられれば、犯人は誰だっていいんです。拳銃を持っている人間が犯人で、トリガを引いた人間は、どこにいてもいいということです」
ぼくは、暗殺者の講義を受けながら、バンコクで馴染みのブローカーがいるビルの階段を上がった。
例えば、恋愛小説。
あのさ、こんなことを二十年も経ってから伝えても仕方がないけれど、高校を卒業した春休みに、ぼくは小川理恵にRadio Daysで卒業祝いをしようって誘われたんだけど、それを断っていたんだよ。十八歳だったぼくも、君と二人でRadio Daysに行きたいと思っていた。
色んな文章が混じり合って、ある本を読み進めるうちにいつの間にか別の本にすり替わっている、そんな印象を受けます。一冊の本を読むことが、そのまま何冊も本を読むことになるような稀有な作品。どこまで早瀬さんが狙ってそれをやったかは分からないけれど・・・。捉えどころがなくて、でもチャーミングな一冊。徹夜本を探している方はぜひ。
(おわり)
▼▼前回の本▼▼