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ゲーム屋人生へのレクイエム 31話
前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。アメリカ赴任を待つ間にゲームのセールスをすることになる。自分の実力とは無縁にバカ売れするゲームを目の当たりにしてセールスとは何ぞやと考えたころのはなし
「ちょっとブラジル行ってきてくれか?」
「またですか?もう何回もそんな話してますよ」
「だってしょうがないだろう。本当なんだから」
「よっぽどブラジルに縁があるんですね」
「大ありよ。社長と韓国出張しているときにさ、社長が言ったのよ、ブラジルに子会社を作ったって。びっくりだよ。腰が抜けるかと思った。そんな話何も聞いてなくてさ」
「社長に聞いたんですか?どうしてですかって?」
「聞いた。アメリカでの商売が思うようにいかない。アジアも厳しい。だから南米に打って出る。そういう事だったよ。ブローカーの商売ってさ、売り手と買い手が同時に存在して、値段の条件が同じになって初めて成立するって話したじゃない。27話だったかな。
ブローカーは在庫を持たないからね。いつも商売がある訳じゃないし、自分の都合で商売できない。そしてブローカーはメーカーからは煙たがられる」
「どうして煙たがられるんですか?」
「そりゃブローカーは無法者だからだよ」
「無法者?どういう意味ですか?」
「ブローカーは世界中お客がいればどこだって売る。金さえ払ってくれれば誰にでも売る。メーカーはそれぞれ社内の縄張りがあるって話したじゃない。確か30話。
アジア、アメリカ、ヨーロッパってそれぞれの縄張りで商売する。ブローカーはそれを荒らすのよ。余ってるところから買って売れてるところへ流す。ここへは売らないでねって約束しても知らん顔して売る。
メーカーにとってブローカーは余った在庫を引き取ってくれる救世主の時もあれば、売れてる市場に割り込んで商売の邪魔をする悪魔の時もあるのよ。
目立たない規模で商売するぶんにはメーカーも世話にもなってるから目をつぶってくれるけど、派手に市場を荒らすとメーカーの本社が介入してくる。荒らされた市場からブローカーが邪魔するってクレームがくるからね。本社が介入してくると商品を売ってくれなくなる。すると商売ができなくなる。だからブローカーはおとなしく、目立たないようにしないといけないのよ」
「じゃあそうすればよかったんじゃないですか?」
「社長はそうしなかったのよ。ちょいと派手に荒らしすぎた感はあったけど、社長にしてみれば食っていくため、社員を養うためにやってるという大義名分がある。とは言えメーカーににらまれてしまっては商品が手に入らないから困る。そこでアメリカには見切りをつけてブラジルへ進出すると決めたんだよ。ブラジルはメーカーの目が届きづらい。場所によっては無法地帯みたいなところもあったしね」
「じゃあよかったんじゃないですか?ブラジル進出」
「よかねえよ。景気ガタ落ちのところへ行って商売できないでしょ。22話を参照しなさい。そのことが書いてある」
「で、どうしたんですか?説得したんですか?」
「それが、さらに驚くべき話を聞かされたのよ」
「続くって感じの終わり方ですね」
「うむ。ねらってみた」
続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。