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ゲーム屋人生へのレクイエム 8話
前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。試験の結果を待つ間ゲーセンの話でひとり盛り上がって、駄菓子屋のはなしのなかでタダでゲームを遊ぶ方法まで話が脱線したころのおはなし
「合格でした」
「ええっ?マジですか?」
「会社から試験の結果通知が届いてね。これが予想外の合格だったのよ。信じられなくてね。だって英語と数学はほぼ白紙解答だったんだから。ありえねえって思ったけど、確かに合格と書いてある。何かの間違いじゃないのかって疑ってさ。間違いじゃないとしたらよほど懐の深い会社か、誰でもいいから人材を集めようとしているのかのどっちかだと思ってさ」
「よかったじゃないですか。それでゲーム会社で働くことにしたんですね」
「いや、それがそう簡単じゃなかったのよ。まだ自衛隊に行くかどうか迷ってた。自衛隊の採用担当のおっちゃんには会社いかないって言って自衛隊の入隊試験受けたでしょ。合格して、ちょいちょいジープに乗っけてくれて喫茶店でコーヒーごちそうになったりしてたから、悪い気がしてね。嘘つきになっちゃうでしょ」
「そうですね。でもだからといって会社行くのをやめて自衛隊に入るのもどうかと思いますが」
「そうなのよ。まさにそのとおりなのよ。だから迷っちゃってね。どうしよう。どっちに行こう。考える。決まらない。考える。決まらない。この繰り返し」
「優柔不断ですね」
「君に言われるのもシャクに障るがそのとおりだったのよ。こんな感じで年を越してしまってね。いよいよどっちかに決めなくちゃならなくてね。そんで自衛隊のおっちゃんに言ったのよ。会社の試験に受かっちゃったって。そしたらおっちゃんが、わかった。会社に行ったらって。入隊合格資格は一年保留するから、もし会社が嫌になったら戻って自衛隊に入りなさいって言われてね。これでようやく決心がついて会社に入ることにしたのよ」
「長かったですね」
「長い道のりだったよ」
「いえ、話が長いっていう意味です」
「君。ゲームクリエーターになりたいんだよね?」
「ぼく、長い話が大好きなんです~」
続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません