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ゲーム屋人生へのレクイエム 106

オンラインゲームに参入することを決めたころのおはなし

「オンラインゲーム市場に参入することを決めたんだけど、パッケージゲーム、いわゆるカートリッジやディスクとかの既に存在するマーケット向けのゲームも開発しなくてはならなくてね。本当は舵をオンラインゲームに完全に切りたかったんだけどできなかったんだ」

「なんでできないんですか?やればいいじゃないですか」

「未知のマーケットに100%舵を切るということはあまりにリスクが大きい。だからリスクヘッジをして既存のカートリッジやディスクのゲームも扱うことにしたんだよ」

「でもそうすると売れ残りの値引きや返品の要求がありますよね?」

「そうだ。それを回避するには低予算で制作して売れ残らないような数を出荷すればいい。大きな儲けを期待しない商売を考えたんだよ」

「儲けが少ない商売ってやる意味があるんですか?」

「一円でも黒字なら儲けだ。この会社は市場では無名と言ってもいい。無名の会社が何をやっても話題にはならない。だからまずは会社のプレゼンスを作らなければならない。プレゼンスというのは存在感という意味だ。市場に製品を供給し続けて知名度を上げる。早く言えば会社のブランドを作るということだよ」

「とにかくゲームを発売し続けるということですね?」

「それは違う。ただ何も考えないで乱発するだけでブランドはできない。ブランドは個性だ。ゲームのテーマだったりデザインだったり音楽だったりキャラクターやロゴなど統一されているコンセプトが必要なんだよ。ブランディングってやつだ。

身の回りにあるブランドもの、このブランドというのは高級な装飾品という意味ではないぞ、食品、衣服、電気製品、なんでもいい、何か統一されたコンセプトがあるはずだ。

例えばソニーは一流家電メーカーだ。ソニーという名前が付くだけで信頼できるし、何か新しいことをやっているんだなという印象がある。これがブランドだ。けれどソニーは炊飯器や洗濯機は作らない。白物家電はやらないというコンセプトだ。あまりにも生活に密着しすぎるものは避けて、生活の中で余暇を楽しむための家電という位置づけを狙っているように見えるな」

「へえ。あまり考えないで普段使っているものにもブランドがあるんですね」

「製品開発はそのブランドを作るし、同時に守るということをやっているんだ。はなしが少し逸れたけど商品を市場に供給しないことにはブランドは作れない。だから損をしないように万全の注意をはらってマーケティングをしなければならないんだよ」

続く

フィクションです

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