N=1「インサイト」で掴む、スーパーマーケット売上低迷の解決策
みなさんこんにちは、シモウサです。前回に引き続き、今日は自分の仕事手法の紹介として、インサイトに関わる事例をご紹介します。
みなさん、お住まいの近くに、スーパーマーケットはあるでしょうか。そして、夕飯の食材をそのスーパーで買ったことはあるでしょうか。きっと、殆どの人が買ったことがあるのではと思うのですが、今日はそんな、スーパーマーケットが抱える売上低迷問題の本質を、ウサ流のブランディング手法を使って紐解いたら何が見えてくるのか、ご紹介します。
1)売上低迷のスーパーマーケット、利用客のインサイトを掴む
次に述べる状況、みなさんはブランディング相談を受ける立場と想定して読んでみてください。みなさんの所にスーパーのブランディング担当者が相談に来た時、みなさんだったら、この状況でどんなことをなさるでしょうか。それは、何が問題の本質と捉えてのアイデアでしょうか。
●状況
このスーパーマーケットは、進出先地域で一時は40%のシェアを確保していたが、徐々にシェアを落としつつあった。ネットスーパーなど、文化の移り変わりを考えると、シェア拡大の可能性は低かった。そこで、来店客の消費促進に取り組むことで、客単価を増やそうとしていた。健康志向のオーガニック食品に力を入れれば目標達成は可能というのが同社の見立てだった。ところが、仮説どおりに事は運ばず、どこから手をつけて良いか分からなくなってしまった。
なおこのスーパーは、マーケティング手法に基づく膨大な知識があった。店舗で買い物中の顧客の動きも把握し、売り値による客単価の変化も、混み合う日曜の午後にも充分対応できる駐車場の収容台数も抑えていた。店舗毎の食品品目数、価格やSKUの状況を説明させれば、立て板に水だった。
しかもこのスーパーは「対象セグメント」も完璧に理解していて見事なものだった。顧客区分ごとに抽象的なセグメントモデルも用意されていて、例えば夕方来店する25〜38際の女性客(仕事を持つ母親)が主に購入する商品も、さっと調べることができたし、客単価を最大化するにはどれくらいの通路幅が必要なのかとか、オーガニック食品に振り向けられるフロアスペースの割合も正確に計算していた。
この状況下で、スーパーのブランディング担当者はあなたのところに相談に来た。スーパーはお客の一人にインタビューをする機会を持つことができ、まずはヒアリングして欲しいという相談になった。あなたは今これから、その方にヒアリングしようとする場面。
ちなみにこの事例は、『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力』クリスチャン・マスビアウ[著]に出てくる事例に、私のほうで一部、加筆修正した例題文です。この本の中には、ひとつの答えが書かれています。ただし、みなさんが読んでいるこのシモウサのnoteでは、実際にシモウサがインタビュイーにインタビューし、本とは異なるインサイト、かつ、キーインサイトの可能性を秘めているインサイトを掴んでいます。
ところで、インサイトの意識なくして、この問題の解決を試みるとするならば、どんな方法があるでしょうか。この問題を尋ねてみて過去に出たアイデアとしては、例えば、マーケティングのフレームワークから、STP4Pで考えてみて、そもそものセグメントを変えてみる。実店舗だけの展開に限定しないとしたら、オーガニック食品を配達してみてはどうか?とか。んー、どうでしょう、確かに理に適っていそうな気もしますが、誰でも思いつきそうです。HOWを決める前に、そもそも、この問題は何が問題なのですかね。そして、問題の本質にきちんと対応している解決策なのでしょうか。
これを読んで下さっているあなたは、これからインタビューする方の心の深層に存在するインサイト(=消費者の行動の源泉となっている心理)、何が存在していたと思われますか?次を読み進める前に、ご自身なりに、これが原因だったんじゃないか、とまずは一度考え、結論を出してから次をご覧下さい。一息ついて、10秒間くらいで大丈夫ですので、ぜひ考えてみてください。
2)デプスインタビュー実例:売上低迷のスーパーマーケット
そして、前回同様に論より証拠、N=1のデプスインタビューを実施したレポートがこの添付データです。
いかがでしたか?なお、このインタビュイーは、「スーパーの売上げが低迷しているけれど、それでも自分はこのスーパーを使っている」という方ですね。以下に要点をかいつまんで書いてみますね。
実施したデプスインタビューでは、
「お金の価値観を子どもに伝えたいという気持ち」
が比較的浅い層に存在していました。具体化と抽象化をしながら、なぜそう感じるか、心理を深掘りした結果、深層には、
「身近には働かずに子どもの要望に沢山応えるお母さんがいる一方で、それを選んでいない自分に罪悪感を感じる」
「自分から遠くとも、社会で繋がっている人の存在を伝えたい気持ち」
といった心理があり、更にその理由の帰属先として、
「職業の違いは偉いか偉くないかの差ではなく、働くことは尊い事であり、母である自分も働いていることを伝えたい」
というインサイトを得ることができました。
一言でいうなれば、シモウサが結論づける、売上低迷で困っているこのスーパーをそれでも使い続けるユーザーの根底にある心理は、
「自分が頑張っていることを知って欲しい、認めて欲しい」
というインサイトです。
3)解決策を考えるうえでのポイント
このインサイトを知ったとき、意外に思われませんでしたか?良く考えられがちな対処策とは異なり、スーパーの売上減少と直結していないように感じますよね。しかし、このインサイトに共感なさった方、多いのではないでしょうか。もしくは、パートナーからそう言われたことがあるという方もいませんか?インサイトの定義は、
「自分では全く、またはほとんど気づいていないか、あるいはうまく説明ができないような思考プロセスであるものの、その結果として、消費者の行動の源泉となっている心理」(引用:【学術論文】非営利団体イベントのデザイン戦略改善におけるインサイトの有効性)
でした。まさに、インタビューする側もされる側も、気づいていないか、うまく説明できない思考プロセスかつ、爆発的ヒットになる可能性がある、キーインサイトである可能性を秘めています。
ここではポイントが二つあります。
ひとつめは、このスーパーが大事にすべきお客さんはどんな方々なのか。言い方を変えると、スーパー側が選ぶべきお客さんは誰か、と言うことです。確かに、何が原因でお客さんが離れていったのかを知ることは気になりますが、「ブランディングの最大の目的は自分のファンをつくること」の観点から考えると、売上減の状況下でも、自社で購入くださるお客さんは、なぜ自社を選んで下さるのか。理解していそうで理解していないこの真理をしっかり把握しておく必要があります。
ふたつめは、その大事にすべきお客さんは、どこの誰か。そして、どんな生活をしていて、自社はその人にとってどんな存在なのか。もう少し言うと、どんな存在になりたいのか。そして、その人がスーパーで夕食を買うことは、どんな意味があるのか。これを理解することが大切です。
ペルソナを設定するんだよね、と思われる方もいるかも知れません。ただし、ウサ流のブランディング手法では、ペルソナを設定しません。なぜか。ペルソナは、誰かの特徴と誰かの特徴を混ぜた末に、架空の人物を作ります。結果どうなるかというと、存在しそうで存在しない架空の誰かが生まれるのですが、ペルソナを作ってしまうことで、あたかも実際に存在しているように感じて安心し、そもそもの前提を疑う必要がある場面で思考停止を招く結果になりがちです。
よくよく考えてみると、そんなペルソナを生み出した側の願望に都合の良いひと、居ないでしょう。となってしまいます。ではどうするか。あなたの身の回りにいる、具体的な個人に当てはめて考えます。
ああ、いるいる!これ、ウチの嫁さんだ!とか、これ、ウチのおかん!となったら、相当なリアリティが伴います。その、超具体的ないち個人にとって、スーパーはどんな存在なのか。これを考えることが大事です。
4)有効なインサイトを掴んでからの、デザイン思考を使った解決策の提案事例
先日も書きましたが、この「有効なインサイトを掴み取る」ことなくして、デザイン思考から次に続くアイデア展開、ブランディング戦略、イノベーション戦略を描いたところで、戦略は目的を達成できません。デザイン経営がうまく行かない理由です。
なお、シモウサが教える授業の学生さん達に、この有効なインサイトを掴んでからデザイン思考を使って解決策を考えてもらう、という授業をしたことがあります。アイデアレベルではありますが、なかなかユニークです。いくつかご紹介しますね。
1) 商店街の肉屋のおじさんが、時間限定でスーパーでコロッケを揚げて売り、働くお母さんのちょっとした話し相手になってくれる提案
商店街の肉屋さんが揚げるコロッケって、なんであんなに美味しいんだろう。というアイデアからの展開。競合相手とのコラボですが、サザエさんの三河屋のサブちゃんみたいに、もっと個人対個人の気持ちのやりとりがあったら。夕食の食材を買うプロセスで、「奥さん、今日も美人だから、ひとつおまけしちゃうよ!」とか、そんなちょっとした会話をしながら、忙しい買い物の中でも、少し気持ちが緩んで笑顔になれる瞬間があったらステキ、という提案。
2) 土日限定、こどもの初めてのお使いサポートサービスの提案
事前申込み制で、警備員のおじさんが、自宅とスーパーの間の子どもの移動を少し離れた距離から見守り、初めてのお使いを成功させる提案。誰かの為に働くことの意義を伝えたいという、インタビュイーの根底にあったインサイト。我が子に、自分の力でちょっとハードルの高いお手伝いを成し遂げてもらうことで、誰かの為に働く意義を感じてもらう、という提案。子どもが身につける目印をスーパー側の店員が見つけたら、スーパーは熱烈歓迎し、熱烈応援する。他人でしかなかったスーパーのレジのおばちゃんから応援されることで、社会の見知らぬ誰かも、体温を持つひとりの人なんだと、感じてもらう提案。
いかがでしょう?なかなか、斜め上を行くアイデアで、オーガニック食品を使って売上単価を上げるには、、なんて考えていたら、まず出てこないアイデアですよね、笑
思い出していただきたいのは、「ブランディングの最大の目的は、自分のファンになってもらうこと」で、ファンになってもらった結果、次の購買行動に繋がって売上が上がるのです。この観点に立ったとき、学生さんのアイデアながら、デザイン思考を使った、らしさのある、ユニークなアイデアになっています。
5)お知らせ
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。後日、デプスインタビューの仕組みや、インサイトのことについて、より詳しく書いていきます。
もし興味を持っていただき、お仕事お願いしたいと思っていただけたら、こちらからぜひ気軽にお声がけいただけたら嬉しいです。また、この記事にスキいただくことも嬉しいです、笑