N=1「インサイト」で掴む、ローソンPBパッケージ問題の本質
みなさんこんにちは、シモウサです。今日は私の仕事手法の紹介として、ウサ流のブランディング手法を使って世の中の問題を紐解いてみたら何が見えてくるのかをご紹介します。
私の経歴についてはこちらをご覧いただきたいのですが、「デザインという手法を用いたブランディングのプロフェッショナル」と認識いただけたら、分かりやすいと思います。
ご相談いただく相手の壁打ち相手になりながらブランディング戦略を一緒に考える。そこから、戦術である、可視化としてのアウトプットに落とし込むことを得意としています。特に、「N=1を考えるマーケティングで、気づくことが難しいインサイトを掴み取り、これをブランディングに組み込むこと」が得意です。
先日、グラフィックデザインの国際コンペ「Graphis Design Annual 2021 (NY, USA)」にて、この手法を使った実績でブランディング部門にエントリーしたクリエイティブが、銀賞を受賞しました。※詳細はこちらをご覧ください。
今日は、分かりやすい事例を使ってご説明していきますね。
1)デザイン経営って何? インサイトって何?
日本のデザイン経営宣言で、デザインが資することができるのは「ブランディング」と「イノベーション」であり、その中でデザイン思考を使うことが大事であると言っています。これを言っているのは、日本という国です。しかし、なかなかうまく行かない現状が多いんです。なぜか。その理由は、ブランディングもイノベーションも、インサイトからアイデア展開するのが流れですが、そもそもの「インサイト」を掴み取るのが難しく、これを把握せずに、デザイン思考でよく見かけるブレストだけ真似る、といった、形だけをなぞるケースが多いためです。
デザイン思考でよく見かけるのは、エスノグラフィという手法を使ってインサイトを掴む姿です。これも、形は真似することができるのですが、慣れていないとなかなか難しいのですね。繰り返しですが、難しいのは「インサイト」を掴み取ること、です。
ちなみにインサイトとは何か。この定義ですが、ここでは「自分では全く、またはほとんど気づいていないか、あるいはうまく説明ができないような思考プロセスであるものの、その結果として、消費者の行動の源泉となっている心理」と定義しています。(引用:【学術論文】非営利団体イベントのデザイン戦略改善におけるインサイトの有効性)
私は主にデプスインタビューを使ってこのインサイトを掴み取っています。これを、ブランディングやイノベーションのアイデア発想に結びつけていくのが得意です。
2)ローソンPBパッケージで考える。なぜインサイトが重要か?
ところで、「気づくことが難しいインサイト」って、そもそもなぜ掴む必要があるのか?実は、この重要性を理解していないために、ブランディングやイノベーションのアクションが失敗した理由、成功した理由が分からない、という事態が起こります。
例えば、良いのか悪いのか、理由がよく分からないブランディングの事例で、最近、インサイトが原因であった事例がありました。「ローソンのプライベートブランドのパッケージ」です。色んな方々が色んな意見を言っていました。他との差異が分かりづらいので間違えて買ってしまった。ユニバーサルデザインの観点から、視認性が良くない。といった意見が多かったかと感じています。
しかし、なぜそれが良くないのか?といった意見は見かけませんでした。良いんじゃないかな、という意見も見受けられ、何が何だかよく分からない状態。全体的な印象としてはネガティブに受け止められている印象。まさに、「自分では全く、またはほとんど気づいていないか、あるいはうまく説明ができないような思考プロセスであるものの、その結果として、消費者の行動の源泉となっている心理」ですね。
インサイトを解説することで、この問題を、私なりに分析して説明します。N=1とはよく聞く様になったけれど、その成果に疑心暗鬼な方に、ぜひ読んでいただきたいです。
と、その前に。これを読んで下さっているあなたは、ローソンのPBパッケージに潜むインサイト(=消費者の行動の源泉となっている心理)、何が存在していたと思われますか?ご自身なりに、これが原因だったんじゃないか、とまずは一度考え、結論を出してから次をご覧になってみて下さい。一息ついて、10秒間で大丈夫ですので、考えてみましょう。
3)デプスインタビュー実例:ローソンPBパッケージ
論より証拠、N=1のデプスインタビューを実施したレポートがこの添付データです。
いかがでしょうか?このインタビューをするのに、おおよそ1時間の時間を使っています。後日詳しく説明しますが、インタビュイーが悩まずに答えられているうちは、深層心理に達していないのですね。沈思黙考を繰り返しながら、インタビュイーが自分でも気づいていない深層心理を深掘っていきます。
以下に要点をかいつまんで書くと、実施したデプスインタビューでは、
ローソンPBパッケージは、
「選択の余地がないという感じが好きじゃない」
「選択のための情報が足りないというか、提示しようともしていない感じ」
というネガティブな心理が比較的浅い層に存在していました。なぜそう感じるか、心理を深掘りした結果、深層には
「商品を選ぶ時間を短くして欲しいのに、その商品が何なのか理解する労力と時間がかかるほか、産地や原料、種類といった、商品を正確に判断することに、更なる労力と時間がかかることが不満」
といった心理があり、ほかにも
「パッケージから判断して選び、購入した商品の、中身の充実度合いを強調したパッケージと中身がそうではない場合にがっかりする」
といった心理がありました。更に深層を探ると、その理由の帰属先として
「パッケージは誇張されているのが前提で、選ぶ側は騙されたくないと疑ってパッケージを見ていてる。そんな中で、中身が何なのか分からないものは選ばない」
「選ぶ商品の中身が「成分=商品名」であること以上に、品質と量と価格、相応の中身であってほしい。損せず失敗せず、お金を無駄にしない、良いものを選びたい」
というインサイトを得ることができました。
一言で言うなれば、シモウサが結論づける、この問題の根底にある心理は、
「このパッケージに騙されないぞ。」
という、ネガティブなインサイトです。
全体的な印象としてはネガティブに受け止められている印象のある、ローソンPBパッケージ。雲を掴む様な、何が原因なのかイマイチ分からない印象の方も多かったと思うのですが、ここで上記のインサイトを言われると、どう感じられるでしょうか。
4)まとめ
このインサイトを知らされて、「自分もそう考えて選んでいるかも」と、感じませんでしたか?これが、N=1で爆発的な反応になる可能性を秘めている、「キーインサイトである可能性」です。
インサイトは無数に存在し、ポジティブに反応するものもあれば、ネガティブに反応するものもあります。ポジティブに反応する分には良いのですが、ネガティブに反応した場合、プロモーション活動の観点で考えると、自分たちが嫌われることに予算を費やす構図になります。この事例のインサイトは、ネガティブなキーインサイトである可能性が高い、ということです。
発表では、このPBパッケージに切り替えた後、売上高に大きな変化は出ていないとのことでした。きっとそれはそうです。例えば、惣菜や冷凍食品を買いにローソンに入った人が、パッケージが分かりづらいという理由で、少し離れたファミマやセブンに行く人はあまり居ないでしょう。お店を変えるのにかかる時間の方が、パッケージの中身を理解することよりも時間がかかるからです。
ここで忘れてはいけない大事なことは、「ブランディングの最大の目的は、自分のファンになってもらうこと」です。好感度調査をしたときに、宜しくない結果が出る気がするのですが、仮にもしそうであった場合、このパッケージ問題は、マイナーチェンジで済む話ではなく、抜本的なデザインの変更が求められる話であるということです。なぜならば、お金を払って顧客から嫌われている図式が成り立つ確証が取れたことになりますからね。
もうひとつ、大事なポイントがあります。それは、この手法は「N=1」、つまり、たった一人へのインタビューでこのインサイトを掴み、改善ポイントのスタート地点に立ったということです。通常マーケティングリサーチをする際、例えば電話調査であれば、どれくらいの時間とお金がかかるでしょう。そして、これらの方法ではインサイトを掴めないことも往々にしてあるのですが、本質を掴むためにかかる、時間とお金が圧倒的に異なってくるのが、もうひとつの大事なポイントです。
そして冒頭に戻りますが、私が実践しているこの手法は、無数に存在するインサイトの中でも、この「有効なインサイトを掴み取る」が全ての活動のスタート地点なのですね。これができて初めて、デザイン思考に繋げたり、ブランディングやイノベーションのアイデア展開に繋げ、最終的にはアウトプットとしてのデザイン制作物に落とし込んでいく、ということをしています。この「有効なインサイトを掴み取る」ことなくして、デザイン思考から次に続くアイデア展開、ブランディング戦略、イノベーション戦略を描いたところで、戦略は目的を達成できません。デザイン経営がうまく行かないのは、これが理由であることが多いのですね。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。後日、デプスインタビューの仕組みや、インサイトのことについて、より詳しく書いていきます。
もし興味を持っていただき、お仕事お願いしたいと思っていただけたら、こちらからぜひ気軽にお声がけいただけたら嬉しいです。笑