「海のある奈良に死す」読了
読了まで、かなりの時間がかかってしまった。遅読なせいだけではなく、勿論日常生活に時間を取られていた事もあるのだが、やはり正直な告白をするなら、読みにくかったのだ。
例によって、ネタバレをしないために一切の具体的な内容には触れず、あくまでも感想だけを抽象的に書くつもりでいる。
「何が」は省略して「どのように」読みにくかったかを述べれば、次のような事が原因だと思われる。
第一に、ストーリー的に短編でまとめられる内容を、強引に膨らませた感がある事だ。
問題となっているのは殺人事件な筈なのに、登場人物が事件そのものに迫って行こうとせず、読者の私にはどうでもいい事を追求している感じがするのだ。
第二に、私が歴史的な事に興味が持てないという事も原因だ。そして結局のところ、これらもあまり事件そのものと関係していない。
第三に、登場人物に魅力を感じない。
映像化されるなら、俳優は誰か?と考えながら読んでいたが、誰でも良いような気がして来るのだ。これは物語を読み進める際にはとても重要な事で、具体的に想像できるキャラクターでないと、まず、憶えられないし、頭の中で相関図が組み立てられない。
第四に、関西弁が読みにくい。
思い返すと、私はあまり関西弁で書かれた小説を読んだ事がない。
第五に、描写が肌に合わない。
これは小説と読者の相性の問題だから、あまり個人的な事情を持ち込んでも意味がないのだが、例えば、建物や風景がイメージ出来ないのだ。実際、それ程細かくは書かれていない。
そして最後に、これが最も重要で、最も読みにくかった理由になっている問題だが、「趣味が合わない」のだ。
以前私は「読者の知的好奇心を刺激する読み物は全て推理小説と言える」というような事を書いたが、これは即ち、謎というモノの美学の問題で、言葉で言い表すのがとても難しいのであるが、この小説を読み始めて、何かミステリの雰囲気を感じる人が、果たして居るのだろうか?と思える程、私にはサッパリ魅力的でないのだ。
それは言い換えれば、「ここには何か重大な秘密が隠されているぞ!」とワクワクするトリガーのようなもので、それは多分個人差の問題や趣味の問題なのではないかと思うが、少なくとも私にとっては、あまり真相を知ろうとするモチベーションが持てないシチュエーションなのだ。
最後に少しだけ内容について話すが、これは私の場合には、という事であるので、ネタバレにはならないだろう。
あくまでも私にとってこれは、「意外な犯人でも意外な結末でもなかった」のである。
犯人が判った訳でも、結末を予測出来た訳でもなく、単に意外ではなかったのである。
これは即ち、作者に読者をミスリードさせる気が無いと言う事である。少なくとも、ミスリードさせる仕掛けがない。
ただ闇雲に余計な情報を与えることで、混乱させようとはしているが、誰か一人の登場人物がスケープゴートにされているというわけではない。
また、終盤に明かされる真実には、それを醸し出す伏線がそれまでの章でまるで張られていないので、唐突に明かされたように感じるのだ。
しかも「書かれなかった」推理小説のトリックが使われているという曖昧さには、どうにもモヤモヤする。
私にとっては、この作品を読む事が、丸っと時間の無駄だったので、ここでAmazonに飛ばし皆さんにリコメンドする事もないのだが、この作品の真価を理解出来ないだけなのかも知れないので、この小説を好きだという方のご意見等、この場を借りてお聞きしたいところでもある。
2023.3.3