神秘の火🔥不知火の里　宇城市歴史さんぽ① 【松合土蔵白壁群】

こんにちは。先週末に熊本県宇城市不知火（しらぬい）町の松合地区を散策してきましたのでそのレポートをアップします。松合地区は江戸時代、醸造と漁業で栄え、昔ながらの白壁土蔵の街並が残されており、まるでタイムスリップしたようなゆったりとした大人旅を楽しめました。そして図らずも、足利尊氏ゆかりの市指定有形文化財（写）と出会うことができたのが個人的には萌えました💓それでは、かつての港町の風情あふれる町並み散策を一緒に楽しんで頂ければ幸いです♪

今回の散策地はここ！
前回までの宇土市と宇城市は隣接しています。

散策ルート紹介

今回の散策ルートを赤字で示しています。地図画像は宇城市作成の散策マップを拝借しています。

因みに今回車は、宇城市のページに駐車OKと書かれていた「宇城市松合出張所」前の駐車場をお借りしました。それでは早速行ってみましょう🏃‍♀️

松合の町並み

集落の「本通り」入り口にある恵比寿様の祠。
港町らしくてワクワクしますね！

恵比寿様から歩いてほどなく、松合地区の氏神さま「大歳神社」が鎮座します。拝殿にてお邪魔しますのご挨拶。

境内から西側を見ると可憐な早咲きの桜？の先に雰囲気のある長塀が。

宇土半島有数の資産家（お醤油屋さん）のお屋敷跡だそうです。趣のある路地の先には立派な玄関がありました。

米屋の道反対に「松合ビジターセンター」があります。
こちらで散策マップや各種パンフレットを頂けます。

ビジターセンターの案内人の方の勧めで、この後すぐ近くの郷土資料館を見学させて頂きましたが、そこで何と、足利尊氏の書状と対面する事になるのです😳

明治36年建造の旧鈴木家居宅を利用した郷土資料館

資料館内には松合ゆかりの先人、劇作家・宮本研、千里眼・御船千鶴子、江戸初期のキリシタンで殉教した中島ミゲルなどの資料が展示されていますが、その中にどこかで見たような花押が印象的な古文書が。「不知火町の民家から発見された足利尊氏の文書」と書かれているではありませんか❗️写真撮影OKとのことだったので、以下に写真と読み下し文並びに説明書の引用を載せます。
※長いのでご興味のない方は読み飛ばして頂ければと思います。

表面

裏面

「読み下し」
（表）
筑後国藤吉又次郎種家　今は討死　子息光童丸謹言上　早　本領安堵の法に任せ、重ねて御下文を下し賜ればいよいよ軍忠を抽んと欲す　当国　三瀦庄藤吉村地頭職の事
副信
一通　将軍家御下文　建治元年（1275）十月廿九日　右地頭職は光童丸公祖父田尻四郎種継、文永蒙古合戦の恩賞として拝領せしめ知行相違なきの地なり、而して元徳以来収公され無足（知行なし）之間、愁歎する処、親父種家大田、清水合戦の時　御方に於て最前討死せしめおわんぬ。然れば早　御事書の法に任せて、安堵の御下文を下し賜い、元の如く下地（土地）返付され領掌せしむれば且に巳父種家の菩提をとむらうべくいよいよ軍忠を抽ん為、粗言上件の如し
建武（1336）三年三月日

（裏）
尊氏花押
此所元徳以来　収公され云々　相伝の文書に任せ元の如く知行せしむべし　もし不実を構えれば　その咎を処すべき之状件の如し
建武三年三月廿九日

この文書は不知火町塩屋裏地区の高浜巴さん方から発見されたもので、足利尊氏の花押のある大変珍しい文書です。楮紙（コウゾを原料とした紙）両面を使い、表面には藤吉氏の旧領地回復の願状が書かれ、裏面には足利尊氏の返書（安堵状）が書かれています。
　表の文書の内容は、藤吉光童丸の先祖が蒙古襲来文永の合戦で得た恩賞地が没収され浪人してしまった。父は今度の大田清水の合戦（菊池武敏軍と足利尊氏側九州武士団との戦い）で討死したので、早く領地を元のように返還してもらいたい、という願状で、裏面にはこの□に対して領地の回復を許すという尊氏の返書が書いてあります。
　当時足利尊氏は、後醍醐天皇の建武政権に反旗をひるがえしたものの京都で反撃され、海路九州へ逃げのびます。それを迎え撃とうとする菊池・阿蘇の連合軍は尊氏軍と多々良浜（現福岡市）で戦いますが、結果は尊氏軍の大勝となり、その勢いをかった尊氏は一気に九州を平定し、再び大軍を率いて東上します。この文書の建武三年（1336）三月廿九日というのは、九州工作に成功した尊氏が全九州の武士を太宰府に集め、東上の軍勢をととのえようとしているもっとも慌ただしい時で、このことからも尊氏の九州在地勢力への配慮がうかがわれます。
　また、この文書にある藤吉氏先祖の文永の役の恩賞は建治元年（1275）10月29日とあり、これは当時、現在の松橋町竹崎の地頭で同じ文永の役で功績があった竹崎季長の恩賞受領と同日付であり、「蒙古襲来絵詞」に「文永の役の恩賞者百二十人」と書かれてあることの具体的事例として価値のあるものとされています。なお、足利尊氏の文書としては、これまで寺社に残されたものが殆どで、このように民家から発見されることはとても珍しいということです。

この書状は筑後国の藤吉氏の願状ということなので、肥後国松合の民家に伝承された経緯は分かりませんが、貴重な史料ですよね！元寇以来の九州の武士達の実情が垣間見れた気がします。藤吉氏は尊氏に味方したようですが、どちらについたとしても、九州の武士達は自領の安堵を得るために、命懸けで合戦に臨んでいたことがヒシヒシと伝わってきました。

解説書にあるように、足利軍と菊池軍が激突した建武3年3月2日の多々良浜の戦いに勝利した尊氏は、4月には上洛の途についていますから、この文書の日付の3月29日というのは九州を制した尊氏が上洛の準備をしていた頃でしょうか。尊氏は九州に落ち延びる際に『元弘没収地返付令』（鎌倉幕府滅亡時に没収された北条氏与党の所領をすべて返すという内容）を九州の武士達に出していたと言われるので、それをあてにして尊氏についた九州の武士達の、安堵を求める願状が尊氏の元に殺到していたのではないかと推測します。だとすれば尊氏さん、この時期、アイドルのサイン会並みに安堵状に花押を書きまくっていたのではないでしょうか笑
ここで菊池一族ファンとしては、菊池氏に触れないわけにはまいりません😤多々良浜での尊氏さんの対戦相手である菊池武敏さんは、後に懐良親王を奉じて九州を制覇した15代当主・菊池武光さんの兄に当たります。武敏さんは当時箱根・竹之下の戦いのため九州不在だった13代当主・菊池武重さん（同じく武光の兄）に代わって地元の留守を預かっていた武将です。因みに、武光さんはこの時まだ10代前半、懐良親王は7歳、2人の最強コンビが世に出るのはこれから10年以上後のことになります。

長々と失礼しました🙇‍♀️それでは先に進みます👟

緩やかにカーブする「本通り」を西へ進みます。

老舗の仕出屋さんとお地蔵様の間を山側の住宅地に向かってのびる趣のある石段

そうこうしていると左手に集落の中心に位置する「仲西船溜り」が見えてきます。船溜りの前はトイレ併設の綺麗な広場となっていて、休憩がてらゆっくり寛げます。

「仲西船溜り　安政2年（1855）肥後藩第一の漁港として完成。最盛期には出船千艘入船千百艘と言われるように繁栄した。」

仲西船溜りの本通り向かって反対側には、路地の間を抜ける参道が趣深い天満宮。そして天満宮の一つ右手の路地が

松合散策いちばんの見所『汐見坂』（なぜ軍手？）

汐見坂の名前の由来は、「松合の漁師がこの坂道より汐の満ち引きを見て漁に出ていたので、いつしか汐見坂と呼ばれるようになった。」そうです。以下、汐見坂ギャラリー↓

汐見坂入り口付近から山側を望む

「阿波屋　創業文政十年松合食品株式会社」の屋号プレート。現在も「松合食品」として続く味噌・醤油で有名な食品会社です。

熊本県に多いなまこ壁の形。瓦を水平に並べ、しっくいで八角形に縁取りしている点が特徴。

汐見坂から仲西船溜りを望む

それでは、汐見坂を右にそれて山側の一つ先の通りに向かいます。そこには明治時代、千里眼として一世を風靡した御船千鶴子さんの生家後があります。

御船千鶴子さんは明治19年に医家の次女として松合に生まれ、「千里眼」とも呼ばれる透視能力を持った超能力者だったそうです。親族の治療院で透視能力を使った治療を行ったりしていましたが、後に東大の博士達からその能力を研究・実験の対象にされ、ある実験でインチキを疑われてバッシングを受けたりしたことを苦に20代の若さで自ら命を絶たれたそうです。思うにこういった超能力って、そもそも科学で解明しようとするものではないと個人的には思います。そっとしておいてあげて欲しかったです。因みに千鶴子さんは、映画化された小説『リング』やテレビドラマ『トリック』、漫画『ゴールデンカムイ』でもエピソードが取り上げられているそうです。

それでは、集落の西の端の道を南に下ります。道すがら一際大きなお屋敷が右手に見えてきましたよ〜↓  廻船問屋『船津屋』さんのお屋敷跡です。

右手にコテ絵も立派な蔵

船津屋さん南側正面より

廻船問屋『船津屋』は、松合が交易港としてさかえたころの大商家で、細川藩へ魚の献上を許された名家だったそうです。船津屋では毎朝、捕れたた魚を馬車に積み、半日かけて熊本城に届けていたそうです。

屋敷の横には、献上する魚を洗った井戸『御用ガハ』が残っています。

船津屋さんから少し東側に進むと、文政30年（1820）に架橋された市指定有形文化財の眼鏡橋（石橋）があるようなので、行ってみたのですが↓

残念ながら、改修工事中でした〜💦今でも現役で使われているそうなので、こまめなメンテナンスは欠かせないでしょうからしょうがないですね。因みにピンク味は少ないですが、この橋の石材も馬門石だそうです。

橋も通行止めなので、船津屋から道を南下して、不知火海（八代海）沿いの国道266に一旦出たいと思います。

道すがら出会った、明治8年に植えられ、漁師さん達の憩いの場を提供しているというアコウの木。

海沿いの国道に出ました。対岸は八代市です。

集落の西の端にある和田船溜りを回り込んで集落内に戻り、ゴールの仲西船溜り前広場に戻ります。

途中、松合祈念公園の慰霊碑にお参りしました。
平成11年（1999）の台風18号の高潮・高波被害では、松合でも多くの犠牲者が出ました。

仲西船溜りに戻って来ました。

長閑な漁村の風景です。

あとがき

土蔵白壁の建物が立ち並ぶ松合の町は、落ち着いた風情でゆったりと観光を楽しむ事が出来ました。また、時折出会う地元の方々も、こんにちはと声をかけてくださり、1人の年配女性からは道すがら「デコポン」まで頂き、皆さんとても気さくで優しい方々でした。

宇城市は、足利尊氏の文書解説でも紹介されていましたが、『蒙古襲来絵詞』の主人公、竹崎季長の所領があったところでもあります。宇城市内に竹崎季長のお墓や縁の史跡もあるようなので、近く訪れて記事にしたいと考えています。
次回は、同じく宇城市不知火町にある、現在SNSで全国的に話題となっているパワースポット、永尾神社をご紹介予定です。本記事のタイトルにある神秘の火・不知火についても次回解説予定です。次回も宜しくお願い致します❣️
※年初に予定していた人吉球磨の史跡巡りの記事は、もう少し調べ物をしてから着手したいと考えています🙇‍♀️

散策中に地元の方から頂いた不知火町特産の「デコポン（しらぬい）」

最後までお読み頂き、ありがとうございました😊

【参考資料・ホームページ等】
・下萬屋発行　松合物語　パンフレット冊子
・宇城市教育委員会　宇城市の指定文化財
・宇城市　松合散策マップ
・宇城市ホームページ
・Wikipedia

アクセス情報はこちらから↓

松合白壁土蔵群 | 観光地