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作品づくりを通じて学ぶHigh Tech High(探究演習)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回はアメリカ・サンディエゴにある高校「High Tech High」の実践事例の紹介です。


探究学習について

学校の紹介の前に「探究」について少し書きます。

日本は、2020年度より小・中・高の学習指導要領で「探究」を最も重視すべきキーワードに位置付けています。一方的に先生から教えてもらうのではなく、生徒が主体的に調べて生徒同士や地域との活動を通じて、より深い学びが得られるという考え方です。

ここに、Project Based Learning(プロジェクト型学習)という学習スタイルが登場します。

PBLや課題解決型授業とも言われますが、生徒自身がテーマを設定して課題を見つけて解決していくなかでの学びです。アクティブラーニングをより授業全体に活かしたような活動です。

今回、紹介するHigh Tech Highもこの、Project Based Learningを全面的に取り入れている学校です。(紹介はもう少しだけあとで)

探究とは何なのか?

探究それ自体はとてもよい取り組みだと思うのですが、自分の中では何か足りない印象があります。それは、

「調べて発表するだけでよいのだろうか…?」

という疑問です。というのも、仕事でもこういったリサーチはみんなやってます。でもそこから、深い考察や発見をして何かを生み出す事業につながった例をほとんど見ないからです。文科省が求めていることは、知識を得るだけではなく、知識をどう活用するか?ということで、そこにつながる感じがしないのです。

そんなときに本でこの学校のことを知りました。

High Tech High

では本題に。High Tech Highはアメリカの公立校です。

この学校は、教育者であるロン・バーガーが掲げる「クラフトマン・シップ」という思想に強い影響を受けて、制作と作品づくりを通じた授業を行なっています。

ドキュメンタリー映画「Most Likely To Succeed」に、High Tech Highの活動が紹介されています。全編は有料ですが、興味のある人ならば購入して観る価値は十二分にあります。

High Tech HighではProject Based Learningを「生徒たちが発表成果物・制作物・出版物を作って一般公開するまでの一連のプロジェクトを、デザイン・計画・実行することで得る学び」と定義しています。つまり、調べたことをまとめて終わるのではなく、作品を通じた制作と展示や発表を行うことを重視した探究学習です。

つくって講評する授業

ここから先はこの本で紹介されていることをもとに書きます。昨年調べていた中で一番、心に刺さった本です。

High Tech Highの授業では、どのようなテーマでも次の点が含まれているように設計されています。

  • 本質的な問いを探究すること

  • 探究を通じて様々な科目を実践的に学習すること

  • 作品を制作し発表と講評を通じて協働性や内省性を身につけること

どういうことか。一例として、スーパーマーケットvsファーストフード店というプロジェクトを取り上げます。

生徒たちは現場に出て、どの地域にどのような店が存在するかを調べます。そして、地域ごとの所得層の違いや多様性なども調査します。このような活動を通じて、地学やサイエンスなど科目を横断的に学習します。そして調べた内容を本にまとめたり、レーザーカッターなどを用いてアート作品としての巨大な地図の作品を制作します。最後に、学校外の家族や地域住民を招いて展示と講評を行います。

生徒はこのような活動を通じて、科目を横断して主体的に学び作品を通じた自己表現や対話を通じた批判的思考を身につけます。

これの何がすごいのか?

僕がこの学校の取り組みを知ってすごいと思ったのは次の点です。

  1. 答えや正解が決まってないテーマになっている

  2. 自然に科目を横断している

  3. つくりながら考えている

  4. 作品のレベルが高い

  5. 批評・講評を重要な学びに位置付けている

まず1の「答えがないこと」について、日本の探究学習は、SDGsがテーマでどことなく結論が予定調和的になっているものが多いです。先生が教えようとすると答えをつくりがちですが、生徒自身が考える葛藤が探究には不可欠だと思います。前に紹介した美馬のゆりさんもこのことを言及しています。

2の「横断」について。Project Based LearningやSTEM教育は科目融合を前提としてはいるものの、今週は理科、来週は算数、といったようにパキパキ分かれている授業計画が多く、それでは融合にはなりません。High Tech Highはもっと自然体です。これは、阿部雅世さんが言及している「百科的な学び」に通じます。

3-5はものづくりをしてきた自分に刺さる点です。自分の印象ですが、日本で行われているProject Based Learningは成果の完成度が高くないことが気になってました。教員が教えられなかったり、制作する環境がなかったり、良いものに触れる機会が少ないことが問題だと思います。

ジョン・マエダさんが提唱したSTEAM教育を実践しているロードアイランド・スクール・オブ・デザインでは、モノとして成立する実在性と、なぜそれが必要かを問う批評性を理念に掲げています。ここまで目指さないと深い学びにはならないのではないかと自分は考えます。

これが僕がHigh Tech Highを「すごい!」と感じた理由です。

Project Based Learningの学習効果は?

さて、Project Based Learningは一見すると、テストの点数につながりにくい直接的な学びの印象を受けません。でもHigh Tech Highは、進学実績で成果を上げています。

  • 4年生大学への進学率:53.8%

  • カリフォルニア州立大学への進学率:17.2%と

これは、なんとサンディエゴ郡やカリフォルニア州の平均を2倍以上を上回っている数字です。本の中では、より深くプロジェクト型学習を実践していくほどスタンダードな学習項目を取り入れることが簡単になる、ということを進学実績の理由に挙げています。教師はプロジェクトと基礎科目の学習を融合するように意識して授業を設計しているということです。

学んだこと

High Tech Highの取り組みを通じて僕が思ったのは「探究には作品づくりの過程が欠かせない」ということです。

作品をつくる意味は2つあります。1つは作品とは答えがないこと。何をつくってもよい、でもつくったものに対する良し悪しは批評されます。もう1つは作品をつくる以上は責任が発生すること。自分の意思でつくりはじめたものは、自分と向き合うことになりるので、誰かのせいにはできないし、説明は自分でしなければいけません。

この「答えがない」「つくったものに責任を持つ」ということが探究には欠かせないのだと気づきました。「作品づくり」は自分の研究テーマの重要なキーワードになりました。

今日はここまでです。

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ジマタロ
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。

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