【今日の読書】『夜を乗り越える』又吉直樹
もし自分にとてつもない好きなものがあって、他人から
・なぜ好きなのか?
・どこが好きなのか?
と聞かれるとしよう。
尋ねる方はただの会話の流れ、軽い気持ちで聞いている。
そんなときに「うーん」と考え込まれても聞いた方は困る。
「いやいや、そんなに考えなくても」と言いたくなる。
聞かれた方ももちろん困っている。
たいていソレが本当に好きであれば好きであるほど、とても一言で言えそうもない。
真摯に答えようとすると、自分のこれまでの人生を語らないと説明できそうもない。
必然的に辿りついた好きなこと。
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そう。又吉先生が「なぜ本を読むのか」という設問に対して、マジメに答えたのが本書『夜を乗り越える』なのだ。
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一見彼の読書好きとは関係なさそうなエピソード。
幼少期。
父親の実家の沖縄で、親戚一同の前で不器用にカチャーシーを踊ってみせて笑いを取った後に、父親から物陰で「あんまり調子に乗るなよ!」と嫉妬された。大人の理不尽さ。
小学生時代。
何故か周りからガキ大将に祭り上げられて、隣のクラスのボスと喧嘩をする羽目になり続けた。
人と争うのがイヤでイヤでたまらないのに。
中学生時代。
自分の内と外のギャップに悩み続け、一転無口になった。
「何を考えているのかわからない」と思われた。
そんなときに彼は芥川龍之介の「トロッコ」に出会う。
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トロッコに憧れ、ある日トロッコに乗り込んでしまった少年に又吉は深く共感するのだ。
俺と同じでメッチャこいつ心の中でしゃべってるやん。
ここから彼の怒涛の読書人生がはじまる。
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お笑いのこと。
書くということ。
芥川賞受賞作『火花』のこと。
大好きな太宰治の魅力。
そして、小説を読むということ。
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彼の真摯な回答が詰まっている。
夜は乗り越えられた。多分。