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記事一覧
『推し、燃ゆ』と親友の話
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」という鮮烈な書き出しがツイッター上で話題になっていた例の小説を読み切った。アイドルオタクの主人公が推しを推す話と聞いていたから、私の話じゃん!と意気揚々と手に取ったけど、私の話じゃなかった。
触れ込み通り、オタク特有かつオタク普遍の感情が、嫌味のない比喩とテンポのいい短い文章で表現されていて、共感するところも多かったし、この深度の自己内省を21歳という若さ
『永遠も半ばを過ぎて』
中島らも『永遠も半ばを過ぎて』読了。強炭酸が身体の中を一気に駆け抜けていくような、心地よい痺れと痛みを感じる作品だった。ラストは少し気の抜けたサイダーみたいだったけど、それは中島らも自身の愛という概念への希望に拠るものなのだろう。
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「ひとつ手に入れると、ひとつ失うのよ。何でも手に入れる男は、鈍感なだけ。失ったことは忘れてしまう。哀しみの感情がないのよ、わかる?」
「孤独というのは、「妄想
『桜のような僕の恋人』
私はジム・ジャームッシュ作品のような、いわゆる"何も起こらない映画"が好きです。人々の日常が淡々と描かれていて大きなことは何も起こらないけど、視点の切り取り方次第で日常は映画に・街は舞台になる。私はジャームッシュに人々の営みはただそこに存在するだけで十分に映画足りうるのだと教えてもらった。つまり自分の好みとして何かが起こる映画や、ここが感動ポイントです!って作り手に誘導されてる映画がかなり苦手なん
もっとみる塩田千春展:魂がふるえる
夏という季節は、木々が太陽を浴びて燦々と輝く一方で、死体が腐臭を放ちながら急速に朽ち果てていく、生と死のコントラストが最も色濃い季節だ。一番生きている実感がするし、一番死に近い感覚を覚える季節でもある。私の生まれた、大嫌いな季節。夏。
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8月14日、品川でのライブの前に森美術館で開催中の塩田千春展に行ってきた。前評判が良かったからそれなりに期待はしてたけど、それを上回るクオリティだった。
まず
『ぼくは麻理のなか』
人間を神格化した人間と神格化された人間の話。気軽な感じで見れるラブコメかと思ってたら意図せず登場人物全員の自意識がねじれこじれした話でつい一気見してしまった。分類的には「渇き。」に近い雰囲気。
一番ハッとしたのは、小森の人格が入った麻理が意図せずエロ本を見てしまうシーンで、「吉崎さんの眼球でそんなもの見ないで」と依が怒って麻理の目を覆うシーン。依は麻理の外面だけ見て分かったフリしてる連中たちを軽蔑
蓮沼執太『〜ing』@資生堂ギャラリー
資生堂ギャラリーで開催されている蓮沼執太のインスタレーションに行ってきました。
地階に降りるとまばらに散る一面の金属。
これ、全部YAMAHAの楽器の廃材らしい。廃材といえども楽器の上を土足で歩くのは実に背徳感のある行為で、終始ヒヤヒヤしっぱなしだった。爪先で蹴ると隣の部品と擦れ合ってくすぐったそうにカチャカチャと音が鳴る様子を見て、別に音楽なんてそんなに高尚なものじゃないのかもしれないな、と良
「君の名前で僕を呼んで」
繊細で優艶で、少し物悲しいピアノが何度もバックで流れる一方で、果物の潰れる音や放尿の音など、つい眉をひそめて耳を塞ぎたくなるような、私たちが普段臭いものには蓋と言わんばかりに無視している生活音もこの映画では容赦なく鼓膜をこじ開けて来る。エリオとオリヴァーの音楽の会話で一番印象に残っているのは、エリオが「今弾いているのはバッハをリストが編曲したら…、これはそれをブゾーニが編曲したら…」といたずらっぽ
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