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外国人の主体性に光を当てて、日本企業での就労を考察する

こんにちは、D&Iアワード運営事務局の堀川です。
8月からスタートした本連載では、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関連した社会学などの学術文献を紹介しております。
前回はこちら

前回までの3回は、「多様性」「包摂」「排除」「差異」などの概念が社会学でどのように論じられているかを、いくつかの観点から説明いたしました。
連載第4回となる今回は、多文化共生に焦点を当ててみたいと思います。

ご紹介する論文は「外国人の就労継続・離職を動機づける日本企業への認識――職場での国籍カテゴリーをめぐる排除と包摂」です。
著者の園田薫先生は、日本企業とそこで働く外国人労働者の関係を、「同床異夢」(園田 2023)という印象的な表現を用いて論じています。
非常に示唆に富む著者の論考の中ではごく限られた部分しかご紹介できませんが、今回は外国人の視点を扱った論文を、次回は企業の視点を取りあげた論文をとおして、著者が提示した知見の一端をお伝えしたいと思います。


1. 「外国人の就労継続・離職を動機づける日本企業への認識」の概要

本節では、典拠を明記していない引用箇所の丸括弧内は園田(2021)からの引用ページを示します。

日本的雇用慣行に原因を見出す問題性

園田はまず、日本で働く外国人労働者に関する研究を「人手」としての側面に着目するものと「人材」としての側面に着目するものとに整理しています(62)。
前者の研究は、労働力不足を補う人手として中小企業で働く外国人の非正規労働者を、制度的・構造的要因によって日本社会から分断される社会的弱者として描くものです(62)。

それに対して後者の研究は、日本人と遜色ない職業的地位達成が可能な優秀な外国人を焦点化するもので(62)、そうした人々は部分的かつ緩やかに日本社会への統合が進んでいることが指摘されています(是川 2019)。
外国人が日本で正社員として働くためには、就職に至るだけでなく、いかに定着するかという問題があり、社会的統合が進んではいても外国人労働者が日本社会から排除される側面があることは変わらず指摘されています(62)。
園田の研究は、後者の「人材」研究が扱ってきたような、専門性の高い外国人の就労に焦点を当てています。

外国人が日本企業に定着できず離職してしまうという事態は、日本的雇用システムに付随する問題として一般に理解されています(62)。
そのように理解されるのは、日本社会に適応した高い技能を持つ外国人材の獲得が、グローバル化への対応や創発効果を期待する雇用者側を主体として議論されるためであると園田は指摘しています(62)。
つまり、外国人の採用によるダイバーシティ・マネジメントという企業の雇用戦略を妨げる原因として、日本的雇用システムが理解されているということです(62)。
同時に日本政府の立場からは、日本経済の改善のために有能な外国人材の受け入れが推進されています(明石 2017)。

このように、企業レベルでも国家レベルでも、経済的事情から優秀な外国人を雇用すべきという議論をしているために、外国人雇用の問題は日本経済の根幹を支えている日本的雇用を批判する文脈で語られるのだというのが、園田の視点です(63)。
こうした社会的文脈のもとでは、日本企業で正社員として働く外国人材の雇用問題は、日本的雇用システムに外国人が適応できるか否かとして論じられます(63)。

このような議論の傾向に対して園田は、個別の外国人が日本企業で働くことをいかに主体的に選び、働く中でキャリアを選択しているのかという、外国人の主体性や主観性を見落とす可能性を持っているのだという重要な問題を提起します(63)。
これは言い換えれば、「日本企業で就労することを選択する外国人の主体性が、日本的雇用への適応という観点に矮小化されてしまう危険性」(64)のことだといえます。

そこで園田が採用するアプローチは、外国人がいかなる要因の連関のなかで当該企業への就労継続・離職を動機づけるのかを、当人の「内的キャリア」(Schein 1978=1991)に注目して分析するというものです(65-6)。
園田の整理によると、内的キャリアとは、労働者の主観的な認識に着目し、仕事と家庭と自己成長の関連性が絶えず変化するという動態的な視点でキャリアを把握するための概念です(66)。
これによって園田は、外国人の不断のキャリア選択を「経済合理性の側面だけに限定せず、その生活実相を含めて考察すること」をめざします(66)。
そのための調査として、日本的雇用慣行が色濃く残る日本の大企業で働いている外国人にインタビューを行っています(64)。

調査は2016年に始められ、調査対象者20名のうち2020年時点で離職している7名に対してはどのように日本企業での離職を決意したかを、就労を継続している13名には当該企業で働き続ける意思とその理由についてを尋ねています(65)。
外国人の在留資格や年齢層を限定して労働環境等の前提をそろえたうえで、エスニシティ、ジェンダー、日本での滞在歴などが異なる対象者を選んだ結果、上記20名中7名(離職者3名、就労継続者4名)が事例分析の中心となっています(64-5)。

語りから見える外国人労働者の姿

日本企業での就労継続を望む外国人へのインタビューから、園田は「現在の関係性を延長させるという意思決定によって就労継続を望む」というキャリアの選択様式を明らかにしています(66)。
これは先行研究で指摘されている、日本の長期的な雇用関係を理解し、長期勤続規範を内面化している外国人の姿とは異なるものです(67)。

上記のようなキャリアの選択様式は、パートナーや母国の家族との関係によっては日本で暮らすことができなくなるという可能性を常に考え、永続的な選択を避けようとする特有のキャリア観に支えられていると園田は指摘しています(67)。
一時的な雇用関係をその都度更新し、延長した結果として日本企業で長く働くことはありえても、長く留まることを目的として働くことは意図されていないというのが、園田が分析した調査対象者に見られた共通点です(67)。

「延長」の選択に際し、職場環境に対する肯定的な評価がされていたことを園田は説明しています(69)。
そこで園田が特に注目するのが、「外国人であること」がいかに職場内で意識される/されないのかという点です(69)。
ここで分析対象となっている4名の語りでは、自分が外国人であることを意識させない職場環境だという認識が、企業内で齟齬なく働いているという実感につながっていたそうです(69)。
たとえばある対象者は、韓国人であることでグローバルエリートとして認識され、苦手な英語を用いた職務を強要されたために職場環境に不満を抱いていましたが、異動先の部門は外国人の比率が高く、以前のようなストレスを感じない職場環境であるため、就労継続の意思を持つようになったそうです(70-1)。

これに対し、すでに離職した外国人へのインタビューから明らかになったのは、必ずしも組織内部だけでなく当人の置かれた外的な環境によって離職が促されることです(72)。
日本企業で働くという就労先の選択は、日本で暮らすという居住国の選択を前提としています(72)。
そのため、日本での滞在という選択が揺らいだときには同時に、今後も日本企業で就労すべきかについての葛藤が生じていたことを、園田は論じています(72)。
ある女性の対象者は、周囲の日本人社員が日本での暮らしと当該企業で生涯働くこととを前提に結婚する様子を見て、「自分も同様の選択ができるのか」と思案した結果、離職を選択したといいます(72)。
園田の分析によると、配偶者選択とキャリア選択における齟齬は、家父長的なジェンダー規範を備えたアジア系の女性において特に顕著に見られたそうです(73)。
これを園田は、配偶者との居住国の選択が男性主体で決定されるとする認識構造が人々の思考と行為を規定しているためだろうと説明しています(73)。

他の対象者の例を挙げると、勤続3年目に離職したある調査対象者は、職場の環境や人間関係に満足し、就労継続の意思を形成しつつあったそうです(73)。
しかし配置転換となり、外国人で借りられるアパートがほとんどないうえ移動には車が必須となる地域に異動となったことが、離職を決意させたといいます(73)。
周囲の日本人社員のようにローンを組んで住宅や自家用車を購入することは、その対象者にとっては日本での長期的滞在の決定を伴います(73)。
そのために地方への配属を会社から命令された時点で、長期的に日本で滞在するか離職して日本を離れるかの二者択一を迫られた状況だと、この外国人労働者には認識されたのです(73)。

離職を決意した外国人は、日本企業を離れるという自身の行為に対する正当化の論拠として、日本的雇用慣行に言及する傾向があったそうです(73)。
そのとき日本的雇用慣行は、日本人以外の労働者を疎外するものとして言及されます(73)。
ここでの園田の主張として重要な点は、日本的雇用慣行への批判的な言明が外国人の強いキャリア志向から導かれているという先行研究に対し、離職を企業側の要因によってわかりやすく説明するための「動機の語彙」(Mills 1963=1971)として日本的雇用慣行への批判がなされている可能性を指摘していることです(74-5)。

動機の語彙とは、自分や誰かの行為を解釈したり説明したりし、その行為の意味を理解するために用いられる様々な語彙のことです(井上 1997: 24)。
これはC・ライト・ミルズが提示した概念で、動機はある行為の原動力となる内的状態であるという一般的な見方に対し、動機を行為者の外側に位置づけたものです(井上 1997: 24)。 

離職の理由を説明する中で日本的雇用慣行に言及する外国人の語りから園田が読み取っているのは、自分が日本的な制度や慣習において蔑ろにされているという、国籍をめぐる認識です(75)。
そして、日本的雇用慣行が離職理由として前景化するのは、企業内において周囲とは異なる自身の国籍が強く意識された結果であると考察しています(75)。

外国人労働者の内的キャリアに着目した園田の分析は、日本企業での労働に対する主観的な意味づけを分析対象とするため、就労継続あるいは離職の理由として何かひとつの解を示すものではありません(75)。
だからこそ園田自身が述べるように、国籍や性別、滞在歴といった客観的指標が「いかに日本企業で働くことの物語に組み込まれるのかという内的キャリアを精査すること」が、外国人の日本企業での就労を論じるために重要となるのです(76)。

2. 潜在/顕在する国籍の差異

以上が園田(2021)の概要です。
就労継続を望む外国人とすでに離職した外国人とで置かれている状況は異なっても、共通して明らかになったことがいくつかあります。
本節ではそれらを、①就労先の選択と居住国の選択、②国籍というカテゴリーの自己認識、の2点に整理します。

①就労先の選択と居住国の選択

前節では、日本で暮らすという就労の前提が揺らいだために離職に至った例を挙げました。
就労先の選択と居住国の選択との複雑な関係がキャリアと不可分であることは、就労継続を望む外国人にとっても同様です。
園田によると、就労継続の意思がある調査対象者であっても、その意思は「定住にかかわる選択や、現状の変化を余儀なくされる選択肢によって後景に退きうるもの」(園田 2021: 71)でした。
このため、企業での長期の就労は当初から意図されているのではなく、「一時的な関係性をその都度更新するという発想」(園田 2021: 67)のもとで結果として長期の雇用関係に至る場合があるのです。

これは「外国」で働く場合の全てに当てはまるのではなく、日本を「外国」とする場合に特有の発想であるかもしれません。
というのは、「日本での滞在が在留資格の更新によって担保されるという日本社会への定住にかかわる諸制度」(園田 2023: 168)の存在が背景にあるためです。

このような複雑な状況のもと、外国人にとっては日本企業での就労は必ずしも最良ではなく、「セカンド・ベストな魅力を有する選択肢」(園田 2024: 36)と捉えられている可能性にも園田は言及しています。

②国籍というカテゴリーの自己認識

前節で説明したとおり、働く中で自身の国籍が意識されるかどうかが就労継続を望む者と離職した者とで異なっていたことが、園田(2021)によって示されました。
就労継続を望む調査対象者は、自分が外国人であるということを意識させない職場環境であることを、就労継続の意思と関連づけて語っていました。

ここで興味深いのは、自分が外国人であると意識しない職場環境は「自分が働いているのが日本企業だという認識を薄れさせ、企業へのコミットメントと愛着を生んでいる」(園田 2023: 162)ことです。
つまり園田の分析によれば、「『日本企業だけど』働きやすい」(園田 2021: 69-70)という語りに見られるように、就労先が日本企業であること自体は就労継続の意思に肯定的な意味をもたらしていないようです。
この点が、日本企業で働く外国人は日本的雇用慣行を選好しているという先行研究での(あるいは一般的な)理解とは異なる知見です。

園田の議論をもとに考えを進めてみると、「自分が外国人であると意識しない」というのは、職場環境に不快感を抱いていない状態から導かれることであるかもしれません。
言い換えると、日本人と同等に扱われているとしても、マイノリティとして配慮を受けているとしても、職場環境が良好だと感じられているならば「外国人」としての自己が際立つことがないのではないかという可能性です。
私がこのように考える理由は、離職を決意した外国人がその理由を日本的雇用慣行に結びつけて語るという園田が提示した論点にあります。
職場環境に違和感や不快感を見出したとき、それを「『日本的』なるもの」(園田 2021: 75)によって説明しようと試みることにより、自己が「『日本的』なるもの」から排除される存在であると認識してしまうのではないでしょうか。

3. 結び

今回ご紹介した文献の背後にある園田の関心は、「1社の日本企業と1人の外国人労働者がいかに関係を結び、持続し、解消するのかというミクロな関係のあり方」(園田 2023: ii)を明らかにすることです。
この関心を支える問題意識を著者は、外国人を雇用することの困難を雇用慣行や価値観などの文化の違いのみに帰責することは、現状の問題を「仕方がない」と容認することを可能にしてしまうからだと説明しています(園田 2023: i)。

次回も引き続き園田の研究を紹介し、学術的知見としてだけでなく、D&Iの実践のための足がかりとなるような気づきを読者の皆さまと共有したいと思います。

D&Iを社会の「あたりまえ」に。

4. 書誌情報

$${\textsf{\underline{\text{今回紹介した文献:}}}}$$

園田薫、2021、「外国人の就労継続・離職を動機づける日本企業への認識――職場での国籍カテゴリーをめぐる排除と包摂」『ソシオロジ』第66巻第2号: p61-79。

$${\textsf{\underline{\text{本ページで引用・参照した文献:}}}}$$

  • 明石純一、2017、「海外からいかに働き手を招き入れるか――日本の現状と課題」日本政策金融公庫総合研究所『中小企業の成長を支える外国人労働者』同友館: p137-79。

  • 井上俊、1997、「動機と物語」井上俊ほか編『現代社会の社会学 岩波講座現代社会学 第1巻』岩波書店、p19-46。

  • 是川夕、2019、『移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題』勁草書房。

  • Mills, Wright C., 1963, “Situated Actions and Vocabularies of Motive,” I. L. Horowitz ed., $${\textsf{\textit{Power, Politics, and People: The Collected Essays of C. Wright Mills}}}$$, New York: Oxford University Press, p439-68(=田中義久訳、1971、「状況化された行為と動機の語彙」青井和夫・本間康平監訳『権力・政治・民衆』みすず書房、p344-355).

  • Schein, Edgar H., 1978, $${\textsf{\textit{Career Dynamics: Matching Individual and Organizational Needs}}}$$, Mass: Addison-Wesley Publishing Company.(=二村敏子・三善勝代訳、1991、『キャリア・ダイナミクス――キャリアとは、生涯を通しての人間の生き方・表現である。』白桃書房)

  • 園田薫、2023、『外国人雇用の産業社会学――雇用関係のなかの「同床異夢」』有斐閣。

  • 園田薫、2024、「日本企業における外国人雇用の人事管理上の特徴と課題」『統計』第75巻第8号: p33-40。

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