年末恒例「ヒット商品番付」を眺めながら考えたこと
公益財団法人流通経済研究所
主任研究員 鈴木 雄高
12月6日(水)の日経MJで「2023年ヒット商品番付」※1が発表され、東の横綱が「生成AI」、西の横綱が「大谷翔平&WBC」でした。その他、上位には、「アレのアレ(阪神38年ぶり日本一)」(西の大関)、「YOASOBI『アイドル』」(東の関脇)、「chocoZAP(チョコザップ)」(東の小結)、「VIVANT(ヴィヴァン)」(東前頭筆頭)などが名を連ねています。どれも、今年を代表するモノ・コト・ヒトですね。
今回は「ヒット商品番付」を眺めながら、気になる商品を紹介しつつ、考えを巡らせながら筆を走らせたいと思います。
食品や日用品のヒット商品
さて、「ヒット商品番付」を眺めて、スーパーマーケットやドラッグストア、コンビニエンスストアで販売されているカテゴリーやブランドをピックアップしてみると――
サントリー「こだわり酒場のタコハイ」(東前頭2枚目)
アサヒビール「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」(西前頭2枚目)
ライオン「電動アシストブラシ」(東前頭7枚目)
小林製薬「ケアナボン」(西前頭7枚目)
ワンプレート冷食(東前頭8枚目)
がありました。
全てを取り上げるのは紙幅の関係で難しいので、ここではいくつかの商品について見ていきます。
サントリーとアサヒビールの好対照な新商品
東西の前頭2枚目には、サントリーとアサヒビールのアルコール飲料が並びました。いずれも計画を大きく上回る販売数量を記録し、人気を博していますが、開発プロセスは好対照です。
照酒場での徹底的な現地調査と消費者調査を経て開発された「こだわり酒場のタコハイ」※2に対して、「ドライクリスタル」は、予測した未来(お酒との付き合い方がよりカジュアルになり、生活の様々な場面で多様な楽しみ方がされる未来)からバックキャスティングして開発されました※3。
現在の消費者を起点とするか、予想される未来を起点とするか。商品開発の考え方も手法も異なる2商品が、同じ時期に発売され、ヒットしているのは面白いですね。
マスクを外したら口と鼻をケアしよう
ドラッグストアで好調な売れ行きをみせた商品には、ライオン「電動アシストブラシ」や、小林製薬「ケアナボン」があります。
「電動アシストブラシ」は、日経MJの記事によると、通常の歯ブラシと電動歯ブラシの中間の位置付けで、「システマ」、「クリニカ」、「NONIO(ノニオ)」のブラシを選べる点と、2,000円程度という手ごろな価格が支持されているようです。電動歯ブラシを使ってみたいけれど、高額な商品には手が出しづらいという人にとって、電動歯ブラシのエントリー(入門)として最適かもしれませんね。
「電動アシストブラシ」は、これまでマスクで覆われていた口をケアする商品ですが、同じく、マスクで隠されていることが多かった鼻を洗浄する商品が「ケアナボン」です。
毛穴の汚れを鼻を洗浄液に浸して使います。眼を洗う「アイボン」に対し、鼻を洗う「ケアナボン」という商品名も小林製薬らしいですね。鼻を洗っているイラストが描かれた箱と、中に入っているボトルのシンプルなデザインが非常に対照的なところも面白い商品ですね。ボトルには、小さな文字で「KEANA BON」と書かれています(よく見ると「TSURU TSURU」とも書かれています)。
小売企業の開発商品
小売企業による企画・開発商品で番付に載ったものには――
セブン-イレブン・ジャパン「お店で作るスムージー」(西前頭8枚目)
良品計画「発酵導入美容液」(東前頭9枚目)
ワークマン「ICE×HEATERペルチェベスト」(東前頭10枚目)
があります。
良品計画とワークマンは、いわゆる製造小売業(SPA)で、付加価値を訴求する商品を毎年数多く発表していますが、今年も画期的な商品が支持を集めましたね。
セブン-イレブンの「お店で作るスムージー」はアップサイクルの好例
セブン-イレブンの「お店で作るスムージー」は、コーヒーマシンの隣などに置かれた専用のマシンで、購入者がセルフサービスでつくります。この商品は、「身体のみならず環境にも優しいスムージー」※4と謳われています。と言うのも、「通常は廃棄されてしまうブロッコリーの茎部分やこれまでは大きさや見た目の問題で規格外となってしまっていたいちご、バナナ、マンゴーも使われて」※5おり、食品ロス削減にも寄与しているからです。一石二鳥のスムージーですね。アップサイクルの好例です。
食品ロス削減とアップサイクルによる商品開発は、かなり相性が良いと思います。流通経済研究所では、食品ロス削減に関する調査や報告を長年行っていますが、今後、攻め(アップサイクルによる商品開発)と守り(食品ロス削減)を関連付けた活動事例を取りまとめて紹介したら、多くの方にとって参考になるかもしれませんね。
セブン-イレブンの商品開発力には定評がありますが、他のコンビニエンスストアや、スーパーマーケット、ドラッグストアなどの小売企業各社も、セブン-イレブンに負けない、ユニークな商品を生み出していただき、私たち生活者を驚かせてほしいと思います。
お知らせ:「流通大会2024」
ここで、本稿の内容に関連するお知らせがあります。流通経済研究所は、2024年2月5日・6日・7日にセミナ―「流通大会2024」を開催します。「顧客への価値創造につながる商品・売場・DX」というテーマを設けた2月5日(月)には、本稿で取り上げたヒット商品づくりと関係する内容のプログラムを組んでいます。
味の素株式会社の岡本達也氏(執行役常務 食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長)より、「真の生活者価値を生む、味の素社マーケティング革新への挑戦」と題したご講演をいただきます。生活者のインサイトをとらえ、新たな価値を生み出す仕組みをつくるための、マーケティング、組織、文化変革などの取り組みについてお話しいただく予定です。
本稿でも商品を紹介したセブン-イレブン株式会社の青山誠一氏(取締役 常務執行役員 商品戦略本部長 兼 商品本部長)より、「セブン-イレブンが創造する新たな顧客体験」と題したご講演をいただきます。機能的価値、経済的価値に加えて社会的価値(食品ロス削減に寄与するスムージーは、社会的価値を提供する取り組みでもあります)も追求しているセブン-イレブンが、顧客体験をどのように提供していくのか、お話いただけると思います。
あなたはいくつ買いましたか?
ところで、本稿では、8つの商品、または、カテゴリーの名を挙げましたが、今年、買ったものはいくつありましたか?
サントリー「こだわり酒場のタコハイ」
アサヒビール「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」
ライオン「電動アシストブラシ」
小林製薬「ケアナボン」
ワンプレート冷食
セブン-イレブン・ジャパン「お店で作るスムージー」
良品計画「発酵導入美容液」
ワークマン「ICE×HEATERペルチェベスト」
私が買ったのは3つでした。もっとも、今年はまだ終わっていないので(本稿執筆日は2023年12月6日です)、年内に上記商品のいずれかを新たに購入する可能性もあります。買った場合は、流通経済研究所公式X(旧Twitter)でお知らせします。気になる方は、是非、Xをフォローしてチェックしてくださいね。
▼流通経済研究所 公式X(旧Twitter)アカウント
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〈注釈〉
※:冒頭の画像は Bing Image Creator で生成したものです。
※1:ヒット商品番付は、相撲の番付に倣って作られています。東が西よりも高く、地位は高い方から順に、横綱、大関、関脇、小結、前頭と続きます。前頭は、筆頭(1枚目)、2枚目、3枚目と、数字が大きくなるにつれて地位が低くなります。番付は、日経MJが、消費動向や世相を踏まえて、売れ行きや開発における着眼点、産業構造、生活者心理に与えた影響などを総合的に判断して作成したものです。
※2:ITmediaビジネスONLiNE「メガヒットのレモンサワーに続け タコハイって何味? サントリーの謎めいた商品が爆売れした背景」(2023年10月23日)https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2310/23/news040.html、2023年12月6日閲覧
※3:マイナビニュース「新しいビールとの付き合い方! ALC.3.5%の『アサヒスーパードライ ドライクリスタル』が新登場」(2023年10月6日)https://news.mynavi.jp/kikaku/20231006-2779571/、2023年12月6日閲覧
※4、5:株式会社セブン‐イレブン・ジャパン公式Webサイト「お店で作る!スムージー」https://www.sej.co.jp/products/smoothie.html、2023年12月6日閲覧