夏の魔物
【イラスト】
【お題】
嫌い
【登場人物】
拓也(幼少期10歳/青年期21歳)
:夏になると嫌なものが黒い陽炎のように具
現化され、見えてしまう主人公。宿題や
課題、就活など一般的に嫌がられるものを
拓也も苦手としている。他はいたって普通
の男性。
千夏に片思い中。
千夏(青年期21歳)
:拓也の大学での学友。拓也のことを気に入
っている。
母(34)
:拓也の母。
【本文】
〇 (夏)(夕方)ある家・部屋
ひぐらしが鳴く。勉強机には、ノートが山
積みになっている。
母off「拓也~、あんた宿題やったの? 拓也~
いるんでしょ返事しなさい!」
カーテンが揺れて、空っぽの部屋は夕焼け
に照らされている。
〇 住宅街・道路
息が上げた口元。
拓也、走る。後ろに迫る黒い影。
黒い影、走る拓也を飲み込む。
〇 (夏)ある大学・講堂
暗闇の中、微かに聞こえてくる千夏の声。
千夏off「……や。……たくや。……拓也!」
大学生の拓也、目を覚ます。
チャイムが鳴り、席を立つ生徒たち。
千夏、拓也を見つめる。
千夏「今日も爆睡だったね~。今日まともに授
業受けてないっしょ」
拓也、起き上がる。
拓也「(伸びをしながら)……どれくらい寝て
た?」
千夏「ずっとだよ。まじ寝すぎだから」
千夏、バッグを漁りノートを差し出す。
千夏「ん。今日の分」
拓也「(ノートに手を伸ばしながら)マジ助かる
わー」
千夏、ノートを引っ込めて手を出す。
千夏「その前に、今日の分!」
拓也「(眉をひそめる)……へいへい」
拓也、しぶしぶ財布を取り出し2000円を差
し出す。
千夏「(受け取りながら)毎度あり!」
〇 (夏)あるコンビニ・コピー機の前
コピーを取る拓也。
千夏、商品を物色する。
千夏「ねー、拓也」
拓也「んー?」
千夏「今日は何の夢見たの」
拓也「あー……」
〇 (回想)住宅街・道路
黒い影から逃げる拓也。
〇 (回想戻り)あるコンビニ・コピー機の前
コピー機を見つめる拓也。
拓也「夏の魔物に食われる夢」
千夏「なにそれ、意味わかんない」
拓也「俺にもわからん」
拓也の方に歩いてくる千夏。
千夏「暑さにでもやられたんじゃない?」
外を見る千夏。
木に蝉が止まって鳴いている。
千夏「馬鹿みたいに暑いしね、そりゃそうなる
わ」
拓也「(呟く)なんかそんなんじゃなかった気が
するけど」
千夏「そんなことよりさー。明日の就活、なん
か対策した?」
拓也「してると思う?」
千夏「してないと思う」
拓也「ご名答」
千夏「そんなんで大丈夫なんですかねー。拓也
くんは」
千夏、コピー機を見つめる拓也の顔を覗き
込む。コピー機がエラー音を発する。
拓也「あ」
〇 佳音のアパートの前
外階段を上る佳音。見送る拓也。
千夏「ほんとにお茶飲んでかなくていいの?」
拓也「うん。今日は帰るよ」
千夏「ふーん。女とデートか!」
拓也「ちげーよ!」
千夏「図星か!」
拓也「ちげーって!」
千夏、自分の部屋へと入っていく。
千夏「結果、聞かせてね」
千夏、いたずらそうに笑い、戸を閉める。
拓也「おい!」
拓也、溜息をつきノートのコピーを見る。
拓也の目の前に黒い影が現れ、飲まれる。
× × ×
再び玄関のドアを開けて顔を出す千夏。
千夏「そうそう、今日課題出てるから――」
誰もいない外。辺りを見渡す千夏。
千夏「帰んのはっや」
ひぐらしが鳴く。
〇 (夏)ある会社・面接会場
スーツを着る拓也。
外で蝉が鳴いている。
周りには黒い影がうごめいている。
× × ×
拓也、黒い影と共に黒い影に面接をする。
拓也、だんだん委縮していく。
〇 ある会社・前
会社から出てくる、黒い影。その中に拓也
の姿。
溜息をつきながら歩く拓也。
拓也、肩をたたかれる。スーツ姿の千夏。
千夏「落ちたか? 滑ったか?? 転んだ
か???」
拓也に笑顔が戻る。
拓也「やめろやめろ!」
千夏を小突く拓也。千夏、拓也の笑顔に安
堵する。
二人仲良く歩く後ろ姿。
周りの黒い影が普通の就活生へと変わり、
拓也の周りが明るくなっていく。
木に止まった、ひぐらしが鳴いている。
(おわり)
【あとがき】
小柳菜ノ花です。
今回、ものすごい多忙の緑川_桃にイラストを描いてもらいました。更新の日時が決まっていないので、「後で、線画だけ書いてくれる~?」とお願いしたところ、千夏のことをとても気に入ってくれたみたいで、とても凝って作ってくれました。
いつもありがとう(*´ω`*)
ちなみに、イラストは本文を読んでもらって、_桃が気に入ったところを切り取って書いてもらっています。なので、今回のイラストは_桃のお気に入りのシーンで、タイトルと全く関係ありません((
_桃の謎チョイスも楽しみながら、作品をご覧ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。