「ジュエルワード」〔コイネージ【新造語の試み】16-2〕
努力、成長、思いやり。
本気、効率、要領よく。
勝利、正義、一心同体。
誠心誠意、おもてなし。
空気を読んで、お前のため。
とかく、日本語は"Ambiguous word"に溢れている。
"Ambiguous"とは、「2以上の解釈を許す曖昧さ」という意味であり、筆者はこれに「玉虫色」の意訳をあてた。
つまりは、「正しく、美しいが、いかようにでも解釈しうる玉虫色の言葉」。
そのような言葉を指す、
「ジュエルワード」
という造語を新たに提案してみる。
一つ一つの言葉自体は正しいし、美しい。玉虫色の宝石のように、万人を惹きつけてやまず、礼賛されて使用される。
一方で、これまた玉虫色の如く、見方や立場によってどのようにも解釈できる性質があり、人によって異なる見解を生じさせる。
いうなれば、「具体性に乏しい」言葉といえる。
例えば、「努力」。
確かに、「努力すること」は"正しい"し、推奨されるべき行動だ。
しかし、「努力」という"語句"自体に具体性はない。
努力して成功した者と努力したが失敗した者の差異、とりわけ後者の要因を、「努力」の言葉では説明できない。
もちろん、「努力が足りないからだ」という"月並な解釈"を投げかけるのは容易。「成功できてない努力は努力ではない」という者もいるだろう。
しかし、失敗した者にとって肝心なのは具体策および行動。「次どうすればいいか」だ。
このようなとき「努力」という"言葉そのもの"は、"解釈"および"解釈者"ごと光明となりえない。
例えば、「誠心誠意」。
売上不振に悩む飲食店経営者が、飲食コンサルタントに10万円でコンサルティングを依頼したとする。
そこで出てきた言葉が、「誠心誠意をもって接客すれば、お客はついてくるはずです」だとしたらどうだろう。
これが"前フリ"で、後に具体策や行動の呈示が続くのであれば問題ない(先に述べた後の"締め"でもしかり)。
しかしこれで"完結"ならば大問題。依頼者としては
「そんなんわかっとるわ!10万返せ!お前には二度と頼まん!」
となるだろう。
例えば、「効率」。
筆者は「大事なのは効率、効率、効率だ!」言いながら"手抜き"をし、仕事のクオリティーを大幅に下げ、結果赤字を出した者を知っている。
「効率」と称した"手抜き"など、あまりにも卑近といっていい事象だ。
「ジュエルワード」は「玉虫色に美しい装飾言葉」。 指輪の宝石であり、玉虫厨子のタマムシの羽。"彩るのに適している"。
教室の上に掲げるスローガン
(例「みんな仲良く、元気よく!」)、
オフィスの上に掲げる経営理念
(例「お客様の笑顔のために、誠心誠意精一杯」)、
個人の胸中に秘める座右の銘
(例「日々前進、日々成長」「努力は人を裏切らない」)、
チームで一致団結するための掛け声
(例「さらに向こうへ!プルスウルトラ!」「一人はみんなのために、みんなは一人のために!」)、
聞き手を惹きつけるためのキャッチーなつかみ
(例「客商売において重要なのは"QSC"、Quality Service Cleanlinessです。この店舗に当てはめると… 」)、
具体的かつ効果性ある話の締め
(例「いろいろ話してきましたが、結局大事なのは日々のインプットと努力です」)、
などとして用いるのが最適だ。
「ジュエルワード」に鋼のごとき実用性はない。
具体的な解決策や行動の呈示が重要な局面で、安易に用いるべきではない。
そして、「彩るのに適した、玉虫色に美しい言葉」ということは、
悪事や都合の悪いことを"脚色"するにも適している
ということを忘れてはならない。"手抜き"を「効率」と称したケースがそれだ。
(2022/9/11に投稿した記事の続編)