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夏のやつ。
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散歩白書

散歩白書

外での風と家の中で窓から通り抜けた風の感じ方は全く違う。

外で感じる風は、体の一面全体に吹き付けるようなもので、それはベッドに横たわっている時の柔らかさと似ている。そして、風は常に方向が変わっていくので吹き付ける面も変化していく。まるで寝返りを打っているときのように、柔からさの方向が変わっていくのだ。

窓から通り抜けてきた風は、総数が少ないので外よりも貧弱で優しい。通り道が狭くなって勢いを削が

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【短編】変わり目

【短編】変わり目

ひとりの青年が、薄暗い舞台袖でステージ上の様子をうかがっていた。
オレンジの長袖Tシャツに少し厚めのジャケットを羽織った青年は、眉をしかめながら左腕の時計を気にしている。左胸には松ぼっくりのブローチが付いていて、癖なのか、時計を見たあとに少しそれをいじる。腕を下ろしまた時計を見ていじるを繰り返す。
「アキおにいちゃん!」
突如後ろから呼ばれて、その青年、アキは振り返った。
そこにいたのは小さな子供

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夏祭り

夏祭り

遠くからむわっとした熱気とともに囃子のか細い音が漂ってきた。祭りが始まったのか。
わたしはゆらゆら揺らしていた脚を地につけ、立ち上がった。下駄を鳴らしながら提灯の群れへと向かう。
向こうからカップルらしき男女のペアが何組か歩いてくる。派手に着物を着ているのもあれば、ラフな格好のものもあった。その中に、わたしのように下駄を履いている女の子がいた。路地で彼氏とともにうずくまって足を機にしているようだ。

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短歌:花火

短歌:花火

曇り空

煙に隠れる

しだれ月

ファッションなのか

照れ隠しか

花火の短歌です。煙に巻かれたいです。

【ショートショート】幽霊の 正体見たり

【ショートショート】幽霊の 正体見たり

ある夏休みの日、友人と一緒に心霊スポットに肝だめしに行くことになった。
俺は怖いものが大嫌いである。子供の頃からずっとだ。夕食に出た嫌いな食べ物を残した時なんか、「もったいないおばけ」が出てこないかビクビクして、トイレに行けずにお漏らしした過去もある。
それならなぜ肝だめしなんかにいくのか。理由は一つ。峰に誘われたからである。峰は俺の幼馴染で、幼小中高とずっと一緒だ。つまり、おわかりだと思うが、俺

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【ショートショート?】双葉

【ショートショート?】双葉

大きな水田に一人の老人がしゃがみこんでいる。彼の足元に広がるぬかるみには、美しい若草色の双葉が等間隔に植えられていた。それらは朝露を纏って、ときたま光の加減で宝石のように光り、老人の目をすぼめさせる。老人の隣には竹で編まれた籠が置いてあり、中には大量の灰色で生気を失った双葉が無造作に突っ込まれていた。
老人は双葉を抜いては籠に入れる作業を先程からずっと続けている。ぷちっ。ぷちっ。その、確実に命を奪

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毎週ショートショートnote:海のピ

毎週ショートショートnote:海のピ

友人から海に行かないかと誘いの電話が来た。海なんてもう5年くらいは行っていないので二つ返事で受け入れた。

準備をする。海水パンツに浮き輪、あとビーチパラソルとか持っていこう。テンションが上がり、あれもこれもとリュックに詰める。

30分後、友人の車が俺のアパートの前に停まっていた。両脇に浮き輪とパラソルを抱えた俺を見て彼は笑う。

はしゃぎ過ぎだって。
あと、浮き輪はいらないぞ。現地調達できるか

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