【創造性を引き出す鍵:オズボーンのブレーンストーミング手法と学校教育での実践】
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
対話的な学びや、協働的な学びにおいて、ブレーンストーミングは欠かせない手法の一つです。
ただ、教育現場を見ていると、「ブレーンストーミング」という言葉が独り歩きしており、成果や課題をよくよく考えないまま、「はい、話し合って!批判は禁止!」というような指導も散見されます。
また、どうしても、自分と異なる意見や、マジョリティ(必ずしも正しいとはいえないものであっても)と異なる意見に対しては、口を出したり、文句を言ったりする児童生徒もいます。
改めて、教師自身が、ブレーンストーミングの意義や原則、活用例や課題を知ったうえで、子供たちには有意義で、創造的な対話をしてほしいと願っています。
1. ブレーンストーミングの背景と定義
ブレーンストーミング(Brainstorming)は、アレックス・F・オズボーン(Alex F. Osborn)が1948年の著書『Your Creative Power』で提唱した発想法であり、創造的なアイデアを効率的に生み出すためにデザインされたグループ活動の手法です。
この手法は、当時の企業文化における「批判的な空気が創造性を妨げている」という課題意識を背景に考案されました。
オズボーンは広告代理店の経営者として、多くのプロジェクトを成功に導く中で、グループダイナミクスの重要性に気付き、個々の創造性を引き出すための具体的なプロセスを理論化しました。
ブレーンストーミングの核となるアイデアは、「個人の創造性は適切な環境と方法で最大限に発揮される」という信念に基づいています。
そのため、特にグループでの創造的活動において効果的なフレームワークを提供します。
2. ブレーンストーミングの基本原則
オズボーンのブレーンストーミングには以下の4つの原則が設定されています。
これらは、創造性を抑制せず、参加者が自由にアイデアを提案できる環境を作るための基礎となります。
1. 批判を禁止する(Defer Judgment)
アイデアの良し悪しを議論せず、批判的なコメントを控える。否定的な発言を避けることで、参加者が心理的な安全性を感じ、自由に意見を述べられる雰囲気を作ります。
例: 他人のアイデアに対して「それは現実的でない」といった反応をしない。
2. 自由奔放な発想を奨励する(Encourage Wild Ideas)
常識にとらわれない突飛なアイデアを歓迎する。
革新的なアイデアは、一見非現実的に見えることが多いため、それを受け入れる姿勢が重要です。
例: 学校の行事で「無重力空間をテーマにした体育祭」といったユニークな提案も否定せず受け入れる。
3. 量を重視する(Go for Quantity)
質よりも量を重視し、より多くのアイデアを出すことを目標とします。
多くの選択肢があれば、その中から価値のあるアイデアを見つけやすくなります。
例: 10分間で最低20のアイデアを出すといった具体的な目標を設定する。
4. アイデアの結合と改善(Combine and Improve Ideas)
他人の提案を基に新しいアイデアを生み出したり、改良を加えることを奨励します。
この過程で、個別のアイデアが統合され、より実用的かつ独創的なものとなる可能性があります。
例: ある生徒が出したアイデアを別の生徒が「こうすればもっと良くなる」と改良する。
3. ブレーンストーミングの効果と心理学的背景
ブレーンストーミングは単なる発想法にとどまらず、心理学的な理論に裏打ちされています。
オズボーンは、特に以下の点でその有効性を主張しました。
1. 集団の力を活用
グループ内の多様な視点や経験を活かし、個人の限界を超えた発想を引き出します。
例: 同じ課題に対して、異なる専門性や経験を持つメンバーが斬新なアイデアを出し合う。
2. 創造的抑制を解放
批判が禁止されることで、自己検閲が減少し、参加者が自由に発言できます。
心理学ではこれを「心理的安全性」として説明できます。
3. 認知の多様性の促進
グループ内のアイデアの数が増えることで、新しい視点や発想を得やすくなります。
このプロセスは、「セレンディピティ効果」とも関連しています。
4. モチベーションの向上
他者と意見を共有し合うことで、メンバーの内発的動機が高まり、活動全体が活性化します。
4. 学校教育におけるブレーンストーミングの活用
ブレーンストーミングは、その柔軟性と汎用性から、学校教育のさまざまな場面で利用されています。
以下では、具体的な活用例と効果について詳述します。
4-1. 授業での活用
1. 国語
作文活動で「読者に感動を与えるための結末のアイデア」を話し合う際に活用。
批判を控え、全員の意見をリストアップすることで、個々の発想力を育成します。
2. 社会科
地域課題をテーマに、「観光客を増やすための施策」をブレーンストーミングで議論。
例: 地元の特産品を活用した新商品アイデア。
3. 理科
科学実験の改良案を考える場面で使用。
例えば、「どうすれば実験の失敗を減らせるか」という問いに対して、生徒同士でアイデアを出し合います。
4-2. 課題解決型学習(PBL)での活用
プロジェクトの初期段階
課題解決型学習の導入時に、グループでアイデアを出し合うことで、目標設定やプロジェクトの方向性を明確化できます。
具体例: 環境問題をテーマに「学校でできるエコ活動」を提案する。
4-3. 学校行事やクラブ活動の企画
文化祭や体育祭のテーマを決定する際、生徒が主体的にブレーンストーミングを行い、多様なアイデアを反映させることができます。
具体例: 「体育祭をもっと盛り上げるための新競技を考える」。
5. ブレーンストーミングの課題とその克服
課題
1. 発言が偏る可能性
グループ内の特定のメンバーが発言を独占すると、多様性が失われる。
2. 批判禁止の限界
批判が完全に排除されない場合、参加者が発言を控える可能性がある。
3. 時間管理
活発な議論が進む中で、時間配分が難しくなる場合がある。
克服方法
1. 明確なルール設定
ファシリテーターが積極的にルールを説明し、遵守を促す。
2. 発言機会の平等化
全員が均等に発言できるよう、順番を決める。
3. タイムキーピングの徹底
各段階で時間を区切り、議論が長引かないよう管理。
6. 具体的な授業案の例
テーマ: 地域の魅力を発信する方法を考えよう(中学校社会科)
1. 導入
地域の現状や課題について調査結果を共有し、生徒の関心を高める。
2. アイデア出し(ブレーンストーミング)
「どんな方法で地域の魅力を発信できるか?」をテーマに、生徒が自由に意見を出す。
批判は禁止。
3. アイデアの整理
出されたアイデアを分類し、実現可能性や効果を検討する。
4. 最終発表
クラス全体でベストなアイデアを選び、発表する。
このようにブレーンストーミングの活用で、創造的思考を養うことができます。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕