スピークアウト
スピークアウト
1.海辺
波の音がする。花柄のワンピースを着た女性が歩いている。風が吹いている。後ろから、カメラを持った男性が歩いて来る。彼女の姿をパシャパシャ撮っている。楽しそうな雰囲気だった。5m程離れた場所にバスが止まっている。2人はそのバスに乗る。一番後ろの広い席に座る。後ろには海辺の風景。
2.バスの車内
先程のカップルはお喋りをしている。
女性はカフェラテを飲んでいる。男性はカメラをたまに構えて撮影する。
桜「カフェラテってミルクティーだよね?」
翼「えっ、カフェラテはカフェラテでしょ」
今川桜はカフェラテを飲む手を止める。芦田翼はカメラを彼女に向け続ける。
桜「私気づいちゃったんだよね」
翼「何を?」
桜「この世界は見せ物小屋だって」
翼「ボクはカフェラテを信じてるよ」
桜はスマートフォンを取り出して音楽を掛ける。
桜「音楽鳴ってても、誰も文句言わないでしょう」
翼「だってボク達の他は運転手さんだけだよ」
桜「お客さんはいなくないの、いるの」
翼「なんか今日、スピリチュアルじゃない?」
桜「ほら、いるでしょう」
よく見ると、2人の前にも、男性と女性が座っている。30代の夫婦に見えた。
桜「なに話してるんだろう?」
翼「聞かない方がいいよ。込み入ってるだろうし」
彼らから少し離れた席に座る、小島玄気と、里美は幸せそう顔で会話している。
玄気「この子が生まれたら、なんて名前付ける?」
里美「そうね、外国でも通じる名前にしたいわ」
玄気「ベニっていうのはどうかな?」
里美「いいわね、アイミも素敵よね」
玄気「いいね、どこにもない僕らの子どもだけの名前にしたいなって思ってた」
里美「難しい注文だけど、名前ってずっと残るものだものね」
玄気「僕らみたいな無名の一人にはなって欲しくないんだ」
里美「有名になって欲しいの?」
玄気「なにかをなす人になって欲しい」
里美「そうね。女の子も、そういう時代よね」
玄気「パウロやヨハネのようになって欲しい」
里美「宣教師になって欲しいの?」
玄気「新しい時代をつくって欲しい」
里美「じゃあ、英語でつけるのはどう?」
玄気「この世にない言葉にしたい」
ザーという砂嵐の音が鳴る。里美の口元がにわかに動く。再び、桜と翼。
桜「私、お腹空いた。カフェに行かない?」
翼「カフェでいいの?ランチも食べられる時間だよ」
桜「少食になったんだ。最近あんまりお腹空かないんだ」
翼「前は大食いだったのに、不思議だな。いいよ、アロハカフェ行こう」
桜「私、そのカフェ好き。映えるし」
運転手「大麦。大麦」
翼「着いたよ。降りよう」
翼と桜はバスを降りる。そこには、ハワイアンテイストのカフェがある。2人は店内に入って行く。黒人の店員が人数を確認する。桜は、2と指を出し、カップルは真ん中の席に対面で座る。2人はメニューをみて料理とドリンクを選んでいる。
桜「私、オリジナルハンバーガーのランチセットにするわ。決めた?」
翼「早すぎだよ。まだ決めてない」
桜「目つぶって。私がパッとメニュー開くから、適当に指差して決めよう」
翼「メニュー当てゲーム?いいよ」
桜「絶対高いの、選ぶんだろうな、ふふふっ」
桜は神妙な顔でメニューを開き、翼は恐る恐るメニューの端っこを指差す。
翼「はい、決めた。これにする」
桜「毎度ありがとうございます。5段バーガーになります。ドリンクはいかがなさいますか?」
翼「5段も食えるわけないよ。しかもサイドメニュー、ナチョスにポテト、ナゲットまで付いてるじゃん」
桜「決定事項なんで、お客様、返金は致しかねます」
翼「わがままな客ですみせんね。わかりましたよ」
桜「すみません」
黒人の店員が注文を聞きに来る。
スタッフ「はい、いかが致しましょう?」
桜「オリジナルハンバーガーランチセットとドリンクはミネラルウォーターで」
翼「コーラとか、メロンソーダ、じゃなくていいの?」
桜「いいの、大丈夫だから」
翼「ボクは、5段バーガーのスペシャルセット、ドリンクはコーラLで」
スタッフ「オーケー。オリジナルとファイブのスペシャル」
店員は厨房に下がり、2人はお喋りを始める。
桜「あとでその写真ちょうだい」
翼「いいよ、SNSにあげるの?」
桜「そうよ、可愛く撮れてたら」
翼「可愛いよ。そのピアスも素敵」
桜「わかる?ビスチェで買ったの」
翼「パーマも、巻いたんだ。可愛い」
桜「今日は、翼君ち行くからね。オシャレしちゃったんだ」
翼「オレも、ハンモックDIYしたよ、ホラ」
翼はカメラの画面を桜に見せる。
桜「器用ね、こんなのも作れちゃうんだ」
翼「冷蔵庫と、洗濯機以外なら作れる気がする」
桜「テレビも?電子レンジも?」
翼「今のオレならできると思う」
桜「パソコン作って(おねだりするような表情で見つめる)」
翼「実は、インスタントラーメンはボクが発明したんだ」
桜「そんなわけあるか」
黒人の店員が料理を運んで来る、にこやかな表情でカップルを見ている。
スタッフ「お待たせしました。オリジナルとファイブです」
翼「高っ。サグラダファミリアみたい」
桜「そんなの加味して頼んだんでしょ」
翼「加味してない。横幅もえげつない」
桜「幅は予想外だった。写真無かったし。持ち帰ってもいいんですか?」
スタッフ「この場で食べ切っていただきたく(申し訳なさそうに言う)」
桜「わかりました。ペロッと食べ切ります」
スタッフ「ありがとうございます(ニコッと笑う)」
翼「僕の言葉でしょ。それ」
桜「気にしないの。ルール無用」
翼と、桜はペロリとハンバーガーを食べ切り、お会計をした。
外には、夕焼けが輝いていた。
2人は、またバスに乗って遠くへ向かって行った。
ここから先は
¥ 300
noteは毎月更新しています。東京を歩くたびに僕の世界はアップデートされています。その日本一の都市で日々起こる日々の現象を描いていきます。お気に入りの記事があったらいいねコメントしてください。