餓鬼
食べても食べても食べ足りない
まるで地獄に堕とされた餓鬼のようだ
摂取したカロリーがどこかで消費されてくれれば文句はないのだが
残酷なことに全て醜い贅肉へと変わる
毎月生理のたびにこんなことを繰り返しているのだから
着れる服も段々少なくなって
昔持っていた思い出のワンピースやニットやシャツを
断腸の想いで売りに行ったら200円ですとか言われてキレそうになった
風呂に入るたび変わり果てた自分の姿から目を逸らす
くびれよ、何処へ行ってしまったの
程よく筋肉のついた長い脚は肉のロールケーキの中に隠れ
今や完全に足を閉じることもできない
冷蔵庫を漁っているときの私の目は
爛爛と輝いていることだろう
何も食べるものがないときは卵をありったけ
大量の油を入れたフライパンで目玉焼きにする
これは腹持ちがするのでなかなかいい
おなかがやっとのことで満たされると眠くなってくる
これだけの量をたいらげた直後に寝たりしたら
またどれだけ太ることだろう
でも睡魔には勝てずにベッドへ潜り込む
目覚めたら今より少し醜くなっている自分を承知で
おばあちゃんはどんなに食べても全く太らない人だった
その遺伝子をどうして受け継ぐことができなかったのか
悔やんでも悔やみきれない
食べすぎて腹が重い
だからまた横になる
そしてまた太る
そのスパイラルは最も欲しくない永遠だ
旦那とのセックスレスはもうずいぶんになる
まだスタイルのよかった頃の私を
抱いてくれた彼の温もりはもう思い出せない
でも彼のせいじゃない
誰だってこんなデブは抱きたくないだろう
ダイエットしようにも毎月のこれが襲ってくるので
ちょっと痩せてもまたすぐに元通りだ
もしくは我慢の反動で
餓鬼がより一層活発になるかもしれない
八方ふさがりだ
藁にも縋る想いでいたので
そこにつけ込まれて
悪徳業者から5万円のサプリメントを買わされた
もちろん一切の効果などなかった
私はどこまで醜くなってゆくのだろう
末恐ろしいけれどもどこかで諦めている
病気のようなものだ
治らない類の
痩せてもう一度お洒落な女に戻ってくれと
旦那ももう言ってこない
二人して諦めている
私の中に巣食った餓鬼を
追い出す方法など存在しないと
健やかなるときも病めるときもと誓った二人は
これが病めるときなのだと悟っている