『推し、燃ゆ。』を読んで、推しがいる人生を思ひ描く。
「あなたには推しがいますか?」
こんにちは。肩幅ヒロシです。
『推し、燃ゆ。』読了しましたので、レビューしていきたいと思います。
1.あらすじ
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。」
推しのアイドルを「解析すること」に心血注ぐ高校生の主人公・山下あかり。熱狂的に応援していたアイドルがファンを殴り、炎上したところから物語は始まる。ネットで叩かれる推しに対し、茫然と心を痛める主人公。徐々に自分の生活の歯車まで狂いはじめる。炎上する推しとそれによって堕落していく主人公の生活が並行しながら進行していく。現代社会に生きる読者に自尊心や価値観の在り方について問いかけてくる作品。
2.色彩と対比
思春期の主人公の色彩鮮やかな推しへの想いとそれに逆行するモノクロで無機質な現実世界への絶望のコントラストがガンと読み手の価値観に語り掛けてくるような作品でした。
また、「リアルとデジタル」「骨と肉」「生と死」など対比的な表現がうまく描写されており、高揚する主人公の推しへの想い・感情とそれを色んな意味で冷酷な目で見る周りの大人たちの温度差を色濃く感じさせます。
明るいピンクの装丁からは想像できないほどに、残酷な物語であり、読み終わったあともしばらくはどんよりとした感情が胸の中に残っています。
主人公は勉強も生活もバイトもなにもできません。物語の冒頭では主人公は病気に罹患していることが明かされるのですが、どのような病気なのか。何もできないのが病気に起因するものなのかは最後まで分かりません。勉強熱心な姉に比べられたり、親にどれだけ説教されても推しに情熱をそそぐこと以外はなにもできないのです。
作中では主人公は推しについてのブログを書いており、その筋では有名ブロガーとされています。皮肉にもブログ内での主人公のキャラクターは「しっかりもの」として扱われているのです。
3.読み手としての共感
また少し別軸の着眼になりますが、
個人的にはまったく主人公に共感することはできませんでした。むしろ、主人公をとりまく環境に対して大きく同情することとなりました。
「読み手としての共感」という観点では、痛いほど共感できる人とまったく共感できない人の二極化するのではと感じ、自分は後者であると感じたのです。
これは決して面白くなかったという意味ではありません。
むしろそれが本作品に感じた大きな魅力のひとつであり、もしかしたらこれこそが作者の思惑であったのではないかと思わずにはいられないのです。
私自身が主人公に共感できなかったのは、自分の中に推しと呼ばれる存在がいなからであり、逆に推しを秘めた人たちは痛いほどに主人公に共感できるのではないかと思います。
主人公は作中において推しの存在を度々「背骨」と表現しています。実はこの表現は伏線となっており、最後のシーンで回収されたときには鳥肌が止まりませんでした。
4.装丁へのこだわり
細かいところなのですが、本の装丁。
ピンクのカバーを外すと真っ青な本体が現れます。
ページ以外はしおりにいたるまで、真っ青です。
青は主人公の推しアイドルのメンバカラーであり、この本自身の骨格も青色、つまり推しでできているということを表現しているのではないでしょうか。
なるとピンクのカバーは主人公の気持ちを表しているのか、、と思考を巡らせてしまいます。
もしそこまで計算されて作っていると仮定するとそのこだわり様が主人公の怖いまである推しへの想いにリンクして思わず鳥肌が立ちました。
5.最後に
今回、この作品を読んで、私自身主人公の気持ちを推し量ることはできませんでした。
しかし、自分にとって大切な尊い何かが生まれたとき、(例えば推しと呼ぶに相応しい存在に巡り合った時や子どもが生まれたりしたとき。)もしかしたら苦しいほどに主人公の気持ちがわかるのかもしれません。
もしまだ未読という方おられましたら、ぜひ読んでいただければと思います。
もう読んだよって方、ぜひコメントにて感想いただけると嬉しいです。
読者の心持や取り巻く環境によってがらりと視点が変わるこの作品。
この先長きにわたって読まれること請け合いです。
「あなたに推しはいますか?」
今日はこの辺で。それではまた。
肩幅ヒロシ