好きな映画を語りたい 第十二回 スカイ・クロラ The Sky Crawlers
こんにちは、こんばんは、初めまして。ダンカと申します。
普段はもすら屋という個人サークルでクトゥルフ神話TRPGのシナリオを書いています。
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好きな映画を語りたい 第十二回は2008年公開『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』です。
そもそも私は押井守監督の大ファンで攻殻機動隊やらパトレイバーやらを見た流れでこの映画にも辿り着いたのですが、やはり押井ワールドの味が強いこの作品は大学生の頃の私にとてもよく刺さりました。
なんとも言えない読了感というか、空気感を味わう作品と言うか……おすすめはしたくても世界観説明以外全てがネタバレになってしまう&個人の考察が入ってしまうのでなかなか今まで人におすすめしたことがなかったのですが、一年間映画語りを続けて来た今なら言葉にできるかなと思って語らせていただきます。
また、先日フォロワーさんと雑談中におすすめの小説の話になりまして、私はいつも通り京極夏彦の作品をアキネイターしながらおすすめしていたんですが、フォロワーさんからは森博嗣の小説をおすすめされまして。調べたら『すべてがFになる』や『スカイ・クロラ』が代表作と出てきて、ああ、久しぶりに観たいなと思ったタイミングだったのもあります。
ちなみに『すべてがFになる』は本屋さんで見つけることができたのですでに購入しており、近々集中して読んでみるつもりです。楽しみだなあ。文体とかが気に入ったら『スカイ・クロラ』の原作も読んでみたいです。
というわけで、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』について語っていきましょう!
ネタバレを含む部分は注意喚起を途中で入れるので、まだ映画を見ていない人もよかったら途中まで読んでいただき、そして気になったらぜひ映画を見てください!
概要(ネタバレなし)
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(原題: スカイ・クロラ)は2008年に公開された日本のアニメーション映画です。
監督は押井守、音楽は川井憲次、主演は加瀬亮、助演は菊地凛子です。
監督の押井守の代表作は先ほどもちらっとお話しましたがやはり『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』と『機動警察パトレイバー』でしょうか。『機動警察パトレイバー the Movie』はこの間ちょうどリバイバル上映をやっていたので映画館のスクリーンで見て来ました!やっぱり演出とかキャラクターの所作・シーンの見せ方がかっこよかったです。あと『機動警察パトレイバー the Movie』でも『スカイ・クロラ』でも出て来る「夜中にバイク2ケツでダイナ―に行くシーン」が大好きで、監督と趣味が合うなあと思っています。
音楽の川井憲次はアニメだけでなくドラマや映画、ゲームなど様々なメディアで作曲をしているサントラ界の大御所です。押井監督作品でもたびたびタッグを組んでおり、『機動警察パトレイバー』や『攻殻機動隊』でも劇判を担当していました。私は『スカイ・クロラ』のメインテーマが大好きで聞いただけで鳥肌が立つほどなのですが、とあるシナリオでKPさんが私の探索者のシーンに流してくださり、場面もぴったりで読み上げだけで泣きそうになったのを覚えています。ありがとうございます。
主演の加瀬亮は本業は俳優をされている方です。私はドラマの『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』が大好きで、先にSPECのドラマで加瀬さんを知っており、そのあとDVDを借りて『スカイ・クロラ』を見たのでびっくりしました。声の感じから俳優さんっぽいな~とは思ったのですが、こんな少年っぽさを残した演技もできるんだ……と感心しました。
助演の菊地凛子は加瀬さんと同じく本業は俳優をされており、日本だけでなく海外の映画にも出演されているようです。私が見たことある中だと『パシフィック・リム』が印象的です。CMにも多数出られていますね。
概要のところを書いていて気付いたのですが私は日本の映画を紹介するのがもしかして初めてですか?洋画の方が良く見ている率が高いのですが邦画も好きだしアニメも好きなんですよ。ええ。特に好きなのは『亀は意外と速く泳ぐ』とか『トゥーヤングトゥーダイ』とか……。癖が強いって?そのうちまた紹介します。
それではこの先はネタバレありで本編を語って行きましょう。
本編(ネタバレあり)
さて今回はちょっといつものように前後編に分けるのが難しいためまとめて語っていくことにします。本当に言語化が難しい作品だ……。でも自分の感じていることをまとめるためにも、筆を取らせていただきます。
ここからネタバレを含みますので、まったく知らない状態で映画を視聴したい人は気を付けてください!
それでは行きましょう~!
好きな映画を語りたい 第九回 トップガン でも語ったので分かるように、私はもともと戦闘機というのが好きです。もちろん戦争などはない平和な世の中であって欲しいとは思っているのですが、それはそれとして戦闘機という技術の結晶の美しさ、戦闘機パイロットという人間離れした人々と彼ら彼女らが過ごしている日常というのにとても興味があります。
今回はまさに、「人間離れ」ではなく、通常の人間ではない特殊な立場の「キルドレ」が主人公です。「キルドレ」達は映画を見る限りだと「人間」だとも言われていないんですよね。設定的には大人になりきる前の思春期の男女の姿のまま、ずっと変わらず殺されるまでは死ぬことがない存在だそうで、映画内でも「自分が人間なのか、キルドレなのか」と三ツ矢が問うシーンが印象的です。自分でも分からず、記憶も曖昧で、いつ終わるかわからない同じ生活を続ける苦痛というのは計り知れないでしょう。
でもたぶん多くのキルドレは一年行くか行かないかで死んでしまうんでしょうね。その中で8年も戦闘機パイロットとして生活している草薙はあの精神状態になってもおかしくはないというか、それでも生き残ってしまったという感じが強いです。映画の中でもティーチャーに挑んで不時着(というには慢心創意すぎる)状態で帰ってきましたが、ある種死にたかったんじゃないかなと私は思っています。
さて、もうここからめちゃくちゃネタバレですがキルドレ達の生まれ変わりシステムが私はえぐくて大好きです。主人公函南ももとはこの基地にいた仁郎であるというのをじわじわと気付かせて来て、答え合わせをしたうえでラストシーンに持って行くという……。
物語が難しい分アニメでは視線誘導による伏線が分かりやすくていいんですよね。特に新聞をきっちり畳むシーンは何度も長尺で写されるので、「ここがヒントですよ」と言わんばかり。そうするとだんだん函南が捨てたマッチを草薙が見ていたのが気になってきたり、フーコが仁郎を函南と似てると思い出話をしたりという点が繋がってきて……でもみんな気付かないフリをしている、という世界観というか、暗黙の了解の粋さと重さが効いてきます。
キルドレは結局死んでもまた別の人物としてキルドレとなり、戻って来る……あのパーティの中にいるパイロット達は「似たようなやつばっか」ではなく「彼ら彼女らしかいない」んでしょうね。それをさらっと流せるように会話してくる土岐野、かっこいい男だよ……。土岐野みたいな男、好きですね。
冒頭でもお話しましたが「夜中にバイク2ケツでダイナ―に行くシーン」、パトレイバーでも泉と篠原がやってましたね。可愛いんだよなあ……
あと同じ戦闘機パイロットだからというのもありやはり『トップガン』もちらつきます。オレンジ色の街、行きつけのダイナ―、パイロット達を支える街の人々……もしかしたら基地がある周辺はみんなこんな感じなのかも知れないですが、なんかこの閉じた街の雰囲気と言うか時間が止まっている感じと言うか、それが好きなところでもあります。
キルドレは見た目が子供なのに煙草を吸い酒を飲み、ワンナイトもするし妊娠出産も可能です。周りに本物の大人達はいるけれど彼ら彼女らを咎めるでもなく、そういう存在として扱っている。これもえぐいです。
我々は主人公の函南目線で見ているのでわかりませんが、たぶん大人達はこれまで死んでは戻って来るキルドレを見続けて、「そういう存在である」と割り切って自分達と切り離さないと精神が保てなかったのだと思います。「自分達は大人になっているから違う」という認識がぎりぎり大人達を人間であると裏付けているだけなので、そりゃ子供の状態でパイロットをやっている三ツ矢は疑心暗鬼になりますし、「自分だけ人間なんて都合いいこと」と言いますよね。やっぱりこの発言からもキルドレは人間とは別カウントされていそうです。
これって、キルドレはわかりやすい特徴があるからそう割り切れるかもしれないですが、ちょっと前までは(もしかしたら今でも)同じことを同じ人間に思っていた人たちがいて、それが当たり前だった時代があるということを思い起こしました。黒人、ユダヤ人、少数民族、部落差別……などなど、平和な地域にいるから分かっていないだけで、このキルドレというのは遠い世界の存在ではなく現実のメタファーだと思っています。だからこそこの作品を見る度に心が締め付けられるし、思うことがある。そこも含めていいところだと思っています。
最後に
『スカイ・クロラ』は決して「死なない戦闘機パイロットエモい~」だけでは終わらないところがやっぱり好きなところで、世界観とかその裏にあるメッセージ(私が勝手に行間を読んでいるだけかもしれませんが)から何を思うかが大切だと思っています。
そしてそれを言葉を重ねて説明するのではなく、少ない会話で場面を見せて伝えて来る押井監督のことがやはり大好きで尊敬します。分かりづらいと良く言われる監督ではありますが、私はこういった考察が楽しいタイプなのでこれからも彼の作品を楽しみにしています。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
次回の映画語りは1982年公開『E.T.』の予定です!
変更の可能性もありますがお楽しみに!では!