きまぐれ読書感想文

それぞれ全く系統の異なる3作品を読んだので、
感想や考察をたまには文章として残しておこうと思いました。

『何者』/朝井リョウ

読むゲロ 精神的グロ 場合によっては死人が出る

就活に励む大学生5人の現代・リアリティ・グロテスク・サイコホラー小説。
冷笑系主人公、キラキラ系友人、素直な就活ガチ勢女子、意識高い系女子、意識他界系(笑)男子の5人が就活を進めていく様子を冷笑系主人公の視点から描いた作品。

面白い作品書く作家はいっぱいいるし、
「桐島、部活やめるってよ。」も「正欲」もめっちゃ面白かったけど
こんな吐き気のする読み物はそうそう読んだことない。
朝井リョウがここまでの天才だとは思ってなかった。
読んでるだけで逆流性食道炎が再発して、読み進めるに連れ、口から心臓が出てくるかと思った。

現代を生きていれば誰もが少なからず共感できるポイントを用意し、そこに食らいつき共感してしまったが故に、自分にはさほど当てはまらなくても、その共感してしまった部分において、自分自身の浅ましさが断罪されるような気分にされるやり口があまりにも「読者になりすりつけて責めるテク」として完成されすぎている。
最悪のバーナム効果で読者を悪者に仕立て上げるテクがエグすぎる。

こんな超ドS作家モンスターがまだ若干30代半ばなのが恐ろしくてたまらない。この作者が歳を重ねてその年代の"我々のリアル"が更新されていくたびに、こんな精神的グロ小説が生まれる可能性があると思うと、表現の自由とか横に置いといて死人が出る前に早く法律で取り締まったほうが良いと考えてしまうレベル(褒めてる)

ラスト◯◯分衝撃の展開!とか言う作品よくあるけど、
文字を読んでてここまで気持ちの良い気持ち悪いどんでん返しを食らったのは始めてかもしれない。

"自分が人を殺して、バレて逮捕される直前"の夢を見て飛び起きた時の気分に近い読後感。主観的すぎて分かりづらいなこれ。
口から胃をそのまま出してゲロ吐くカエルみたいな顔して読んでた。
これ読み終わった後も作中人物の人生も、俺の人生も続くのが
最悪過ぎるんだよな……オェ……
マジで最悪な気分になりたい人におすすめです。
特にかつて大学生で就活したことある人。

『薬指の標本』/ 小川洋子

左手の薬指を事故で無くした女性の主人公が"なんでも"標本にして保管する
技術士の元で事務として働くお話。

内容は語れば、余地のエッセンスが失われていくタイプの読み物なので、
あえて考察、というより素直に感じたことだけを感想として。

浅く読めばモラ男とそれに惹きつけられてしまうことを善しとする女性の話。
少し深く読むと、靴は女性的自立のシンボルで、それを束縛され、されど拒めず、拒む理由も見つからないまま、自分の過去の核であり、女性の"選択の自由"たる薬指さえも奪われ、
彼に履かされた靴と共に、男性性の象徴たる試験管の中で、籠の中の鳥のように、彼に見つめられて過ごすことを、あくまで自分で選択したという話だと解釈した。
選択の自由として、"お姫様"的、"女性性"的に好きな男性に身を任せ、囚われ、支配される事を善しとした女性のお話なのかなと感じた。

"束縛される不自由"自分の自由意志で選択して愛されることを選ぶロマンチシズムと考えると、良いですね……

すべてが隠喩的で正解がないタイプの読み物なので、読後感がいろんな解釈が浮かんできて読んだ後が楽しいタイプの作品。
女性作家の作品の、ヒールとかパンプスとか女性的なファッションを身に着けた時の表現、自分では感じたことがなくとも絶対的なリアリティがあって、その感触が素敵だなと思うことあります。
読書体験として"本を読んだな~"と素敵な湿度を持った読後感を得たいならぜひ。

『若者よ、マルクスを読もう』/内田樹×石川康宏

2人の学者の先生がマルクスの考え方について
ああだこうだ言いながら書簡をやり取りする形でマルクスの魅力を
わかりやすく語ってくれる作品。

「マルクス主義とはこうだ!」ではなく
「マルクスはこういう時代だったからこう考えたんじゃないかな?」
「天才マルクスはなぜそのように考えたんだろう?」

というふうに、マルクスの問題に対する向き合い方の姿勢や、
考え方のフローなどを考察する一風変わったマルクス入門本。

"共産主義は、資本主義がもつ問題のひとつひとつを解決していったその先に、結果として現れる"

資本主義の先にこそ"真の共産主義"が勝手に現れるのである!
プロレタリアートよ、団結せよ!

マルクスはどのような時代背景で生まれ育ち、
そのように考え、共産党宣言を書くことになったのか?

マルクスの天才さ、面白さ、そして人間らしさの観点から
マルクスに興味を持つ第一歩としてとても良い一冊。

これを読めば、あなたもマルクス主義者間違いなし!(?)

つまり・・・!ポルポトやレーニンは"共産主義の設計図"を描いて、
計画的に共産主義を樹立させようとしたから失敗しただけなんだ!

まだ"真"の共産主義は世界中のどこにも出来ていないのです!
しかしもう資本主義の競争を止めることはできない!
そこで世界中どこでも実施されていない、ベーシックインカムを導入し、
新しい資本主義、いや、「シン・共産主義」により、国の監視下の元でGAFAM等に生産を任せ、莫大な法人税を徴収し、それによって我々はベーシックインカムを受給し彼らの製品の消費をすることで、経済を回すべきである!!!そして産まれた余剰時間で、我々はクリエイティブで喜びに満ちた
真に幸福な労働を模索すべきである!

まあ、僕の思想の話はともあれ、読書感想。

"特定の職業に縛り付けられる時、その労働は、かれにとって疎遠な、対抗的な力になる"自分が作っているものが自分とはかけ離れた製品になっている

その昔「労働」とは、自分で労力を費やしたモノに対して、
消費者が自分自身だったり、自分の手の届く範囲の人であったため、
自分がなんのために「労働」をしているのかが明白だった。

発展した資本主義社会において、仕事は細分化され、より専門性を持った
分業が進み「自分がなんのため、誰を喜ばせるために働いているのか」が非常に分かりづらくなってしまった。

もしマルクスが今の時代に生きていたら、
いろんな仕事をできるタイミーとか、スキマバイトとか、
分業の先にある専門性の低い労働をどう見ていたんだろう?

確かにいろいろな職種の労働に従事して、労働者として何者にでもなれるけどそのこで働く人たちにとって、資本主義の余剰はとことん搾取されていて、余剰で様々な労働をするどころか、「余剰ではなくその仕組みで労働をしなければ生きていけない」体系になっているので、やっぱりマルクスが理想として掲げていた自由な分業、自由な労働とは正反対の性質なんだろうな……

現代に生きる僕が、マルクスだったらこの時代をどのように考えるのかなと考えている時間は非常に有意義で楽しかった。

・おわりに
というわけで、珍しく読書感想……というにはお粗末だけど、
読んだ時の感情を忘れないように、雑でもいいから思ったことを
書いておくことで少しでもアウトプットの形を取っておきたいなと
思ったわけでした。麻疹のようなものです。

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