若きウェルテルの悩みが面白すぎる!【読書感想文】
はじめに~感想を書こうと思った理由~
湊かなえ『告白』を読むと、キーパーソンに『若きウェルテルの悩み』を元ネタにしたキャラクターが登場していた。
そのすぐ後に読んだ、村上春樹『スプートニクの恋人』では、作詞ゲーテ、作曲モーツァルトの「すみれ」という曲について描かれていた。
そして、今やろうとしているゲームの『リンバスカンパニー』では、ゲーテの作品(ファウスト)が元ネタになっているキャラクターが登場する。
これは読むべき流れが来ている、ゲーテを読むなら今しかない!
さすがに海外の古典文学なので、ハードルが高く、翻訳されていても読みづらいかな?と思っていたが、読み終わってみると
「17世紀からこんな現代若者の病みツイやキモいLINEみたいなことしてる男が主役の作品があったのか!!!」といたく感心した。
そこでこの作品の魅力を、分かる範囲で、ざっくり現代語訳っぽく読書感想文にしておきたいと思ったわけである。まちがっている部分があったらご愛嬌。
大まかなあらすじ(ネタバレ有り)
ひょんなことから地方の町で暮らすことになった上流階級の青年、ウェルテル。感受性豊かな彼は、そこで豊かな自然や人々の暮らしに触れ、感動に包まれた生活をとても満喫していたのだった。
ある日、ウェルテルは舞踏会に誘われる。
その際「舞踏会にロッテという若くてめちゃカワな子がくるけど、婚約者がいるから絶対惚れちゃいけないよ」と注意されていたにもかかわらず、出会うや否やありえん速度で雷に打たれるような恋に落ちてしまう!出会って2秒で即ガチ恋。
「この人こそ自分の生きる意味である!」と病的な恋をすることになる。
婚約者がいる相手にガチ恋してしまった抑えきれない気持ちを地元の親友ウィルヘルムに宛てに送りまくったクソ迷惑な書簡をまとめた形にしたものがこの『若きウェルテルの悩み』という作品だ。
ロッテと仲良くなったウェルテルは清く正しい友人関係を続けながらも、
「この恋心をどうしたら良いだろう!」というような内容のメンヘラポエムを事細かに親友ウィルヘルムに贈りまくっていた。
そんな生活を続けていたある日、ウェルテルはロッテの婚約者アルベルトと出会う。しかし彼は、まさにロッテの婚約者にふさわしいめちゃくちゃイイ奴であった。仕事もでき、教養も社会的地位もあるスパダリだったので、ウェルテルは憎むことすら出来なくなってしまう!
親友ウィルヘルムの助言もあり、ウェルテルはロッテを諦めるために、町から離れて司法書士的な仕事をすることにする。最初はなんとか仕事をこなしていたが、感受性豊かで、癇癪持ちHSP気質なウェルテルは、非効率的で権威主義的な上司と折り合いが悪く、仕事をやめてしまう。
次にウェルテルは地元に帰り、公爵家の狩猟館に世話になっていた。
しかし、自然や芸術を型に嵌まった芸術用語で語る理論派の公爵と馬が合わず、ふたたび無職になってしまう。
こうして再びロッテのいる町に返ってきてしまったウェルテル。
そこでは静かに応援していた知人の農夫が、雇い主の未亡人を恋しく思うあまり、恋敵を殺してしまう事件が発生していた!
その恋に自分の悲愛を重ねていたウェルテルは、どう考えても悪いことをした人殺しの農夫をアツく弁護してしまい「ヤバい奴」認定され、さらにはロッテと思い出の地の木がいつのまに切り倒されてしまっていたことを知り、いよいよ頭が完全におかしくなってしまう!
いよいよ婚約者アルベルトも「あいつとはマジで関わらんほうがいい」的なことを言い出し、ロッテも「(この人は私と関われなくなったら死ぬかもしれないな)」と思いながらも、ある冬の日、しばらく合わないでくださいまし!せめてクリスマスまで!と宣告する。
それでもロッテに会いたすぎて頭がおかしくなってしまったウェルテルは、約束を守れず、ロッテの家に行って唇を強引に奪い「もうこれで会うことはないです!これを今世での最後の経験として死をもって永遠にします!」「あなたのために死にます!どうかアルベルトと幸せに!」
的なことを言って、婚約者アルベルトの銃で頭を撃ち抜いて自殺。
全体的に憎めない登場人物たちの魅力
・基本的には憎めない奴、ウェルテル
やや身分が高く、とんでもなくナルシストで自分に酔っているが、
貧富の差、老若男女問わず公平に接することができる。
感受性豊かである故に、その生活から何か輝くものを見出したり、地位ではなく、行いや人間性で評価することができる知的でイイ奴なのだ。
自然に感動し、平民の心に寄り添い、老人を敬うことができる。
基本的には「いいヤツ」であるからこそ、一度思い込みが激しくなると
もう取り返しがつかないし、誰にも止められない。
周りの人も「またはじまった……でも悪いヤツじゃないからな……」
と、発作のような思い込みの暴走が収まるのをやんわり注意するくらいしか
できない、ある種一番厄介なタイプ。
他人の美学に共感し、理解できたり、理解しようとする代わりに
自分軸の美学への傾倒が圧倒的すぎる。しかも躁鬱傾向あり。
鬱の日は、親友ウィルヘルムへの手紙に「昨日のあれ、やるべきじゃなかったな……今後はやめなきゃ……」みたいなことをポエりつつ、
躁の日は「あれ、やっぱやめられねンすわ!」「おお!神が作り出したもうた大いなる自然はロッテとこの恋心のためにある……」みたいなことを深夜テンションでガチポエムして送る。
そして次に冷静になった日には、ガチ一人脳内反省会のお気持ちを親友のウィルヘルムくんに贈りつける。
ウェルテルくんマジでSNSのない時代に生まれてよかったね……
これ全部1人で見せられたウィルヘルムくんマジでかわいそうだけど、ウィルヘルムくんもコイツのこと憎めはしなかったんだろうな……
・スパダリ婚約者、アルベルト
こいつがもう少し悪い奴だったら、真剣にロッテを無理やり奪うことも考えただろうに、常識人で愛想も人柄も良く、シゴデキのスパダリである故にこのお話は余計にこじれてしまう。認めざるを得なくなってしまったが故に、ウェルテルの中では「ロテ×アル尊い……」という気持ちと同時に「ロッテたんは俺の嫁!!!」という相反する厄介すぎるオタクになってしまう。
知恵深い故に、ウェルテルが仕掛けた「自殺は悪であるか?」という題材のラップバトルに一般論のマジレスをしてしまい、「例外はあるだろ!もしこういう場合だったらどうなんだよ!」というウェルテルに「それって藁人形論法ですよね?今日のあなたは冷静ではないようです、ゆっくりお休みください」とか言えてしまう。
あんまり面白みはないけど、コイツがどこもズレてない完璧エリートだからこそ、美しい感性も醜い部分も人間臭くて面白みの塊であるウェルテルとの対比が際立つ。
・悪意なき魔性の女、ロッテ
彼女もまた優しくいいヤツなので、ウェルテルの無謀な好意を十分に理解していながらも無碍にすることができない。
ウェルテルに対して、趣味もセンスも合うし友人以上に好きではあるから、失いたくないとも思っており、無謀な恋心だけはしまっておいてそばに居てほしいと感じている。
以下はロッテがウェルテルをどう思っていたかを記す残酷すぎる一文
・ある意味最大の被害者、ウィルヘルム
この作品はウェルテルからウィルヘルム宛ての書簡をまとめた形式で語られていくが、こんな病みツイ手紙を大量に書かれ、時にアドバイスを求められ、母を慰めてほしいと書かれた遺書を渡され、ウェルテルの死後には関係者や現地の人の成り行きをまとめたウィルヘルムくんがある意味では一番かわいそうかもしれない。
ウェルテル名言・迷言集
個人的に「これ現代でも通じるところあるな……」とか、「はえ~面白いこと言うやんけ!」と思った部分を引用したもの。場面の流れと所感はページ数の後の引用にて。
おわりに
すげえよゲーテ……スゲーテ……
1774年に刊行された『若きウェルテルの悩み』はヨーロッパ中で大ヒットし、あのナポレオンの愛読書でもあったそうだ。
その影響力は凄まじく、当時は「精神的インフルエンザの病原体」とも呼ばれ、当時のヨーロッパにはウェルテルのようなファッションをして、ウェルテルみたいな話し方をする人が続出し、自殺する青年が爆増したらしい。
わかるぜ……17世紀ヨーロッパのウェルテルのファンボーイ……
僕もTwitterのアイコンを俺ガイルの比企谷八幡にしていた時期があったし、
Twitterで比企谷八幡みたいなこと言ってたし、なんなら己こそが比企谷八幡だと思っていたまである。
俺ガイルとかいう「精神的インフルエンザの病原体」も絶対に10代で読んじゃいけない、いや読むべき。
冗談はさておき(まあ冗談でもないのだが)。
こんなにも主人公が持つ独特の美学に対して、
「わかる……わかるぜ……お前の感性が大好きだ……」と思って読んだのは本当に比企谷八幡ぶりかもしれない。
おいおい比較対象がラノベかよ……と思ってしまう人もいるかもしれないが、1700年代に、2010年代の現代ヒット作品に通じる「共感の根っこ」みたいなものを持ったものすごい作品である。ぜひ一度読んでみてほしい。
参考、おまけ
ヒットした時代背景など込みで作品の魅力紹介動画。
あらすじも分かりやすく、この作品の魅力を「時代の制約を超えた普遍性」とまとめているのが素晴らしい。
あの、お口の恋人「ロッテ」はこの作品のロッテから取っているそうだ。
公式HPの経営トップのコミットメントに書いてあるってすごいな。