【文化財紹介】大正時代のハイカラ商店 ~清水猛商店~
【2023年2月1日/大阪歴史倶楽部】
今月は大阪市中央区にあります大正時代に建てられたハイカラな商店をご紹介いたします。
清水猛商店
清水猛商店は、大阪市中央区の古くから「船場」と呼ばれてきたエリアの中にあります。この船場地域(概ね現在の北浜から心斎橋あたりまで)は近世以来、伝統的に大阪の商業の中心地であり明治以降の近代大阪においても大阪経済の心臓部でした(いまも同様に大阪経済の中心地です)。
外観の写真
以下は清水猛商店の外観の写真です(2023年1月 大阪歴史倶楽部 撮影)。
この清水猛商店は大正時代の後半、大阪市がもっとも繁栄していた「大大阪時代」に建てられた、お洒落でユニークな商店の建物です。
建物の特徴
清水猛商店は、建物から直角に飛び出すように設置されたその重厚な看板に「家具・装飾」とあるように、家具や室内装飾を取り扱っている老舗のお店(会社)です。この建物は1924年(大正13)年に建てられました。設計者は住友ビルディングの設計も手掛けた建築家の小川安一郎氏です。
小川安一郎氏がこの清水猛商店の設計をした経緯は、当時の清水猛商店の当主が住友銀行に出入りしていた関係でこの店舗の設計を小川安一郎氏が担当することになったと伝えられています。この設計を通じて小川安一郎氏は色々と新しいデザインを模索したそうです。
建物全体はファサード(正面部分)をみると洋風(ルネサンス様式風)の鉄筋コンクリート造りのような印象を受けますが、じつは木造3階建です。また店舗よりも奥(北側部分)は中庭を挟んで和風の居住棟が続いています。
ですから全体の構成をみると、洋風の店舗棟と和風の居住棟からなる町家の表屋造となっています。このことから、清水猛商店は船場地域の商家が純和風の町家から西洋建築へと移行する過渡期を示す貴重な事例だと言われています。
店舗部分の正面は煉瓦積みの両角とスペイン風の洋瓦を載せた小さな庇。中央部には4本の太いワイヤーで吊り下げられた大きな庇。そしてその上の左右に設置された洋灯などが特徴的です。店舗側面の外壁は新しくなっています。
店舗棟は1階が店舗、2階が商品陳列室と応接室、3階は当初は住み込み従業員の部屋として使われていたということです。
清水猛商店への行き方
清水猛商店へは、大阪メトロ御堂筋線「本町」駅1号出口から北へ約300m(徒歩約5分)です。
行き方の目安は、大阪メトロ御堂筋線「本町」駅を出て、御堂筋沿いにまっすぐ北へ進み「淡路町3」の交差点を東へ入ってすぐ(約30m)のところにあります。
おわりに
今回は大阪・船場にある大正時代に建てられた清水猛商店さんをご紹介いたしました。伝統的な木造の町屋建築を基本としながらも、店舗部分はとてもハイカラな洋風の意匠を持っています。これは、いわゆる安価な「看板建築」とは一線を画す一流の建築家によって設計された当時としては最新・最先端のユニークな建築です。この清水猛商店は「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」に選ばれています。
なお、ここで紹介いたしました清水猛商店さんの建物を見学したり写真や動画などを撮影されるときには、所有者さんや管理者さん、周辺の方々に不快感を与えたりご迷惑にならないよう充分なご配慮をお願い致します。
また許可なく他の人の敷地内に入ったりしないようお願いいたします。とくに建物内部の撮影はセキュリティの関係もありますので、必ず所有者さんや管理者さんなどの許可を得てくださいますようお願いいたします。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
【謝辞】
今回ご紹介いたしました清水猛商店さまの写真は、清水猛商店さまからのご厚意により許可を得て撮影させていただきました。営業中だったのですが快く許可をしてくださり、店舗内の人が写らないように配慮してカーテンを閉めてくださいました。ここに記して感謝の意を表します。
【おもな参考資料】
◎山形政昭「建築家 小川安一郎について」『デザイン理論』関西意匠学会 1994年
◎『大阪府の近代和風建築』大阪府近代和風建築総合調報告書 大阪府教育委員会 2000年
◎『清水猛商店 ~商都船場の商家が今でもそこにある~』大阪市(リーフレット)
◎高岡伸一 他『大大阪モダン建築』青幻社 2007年
◎『清水猛商店』大阪文化財ナビ 大阪府建築士会 2023年版(WEB版)
◎「清水猛商店」『生きた建築ミュージアム・大阪セレクション』大阪市 2022年版(WEB版)
◎「清水猛商店」『船場navi』船場倶楽部・集英地域活動協議会 2022年版(WEB版)
など。
(『大阪歴史倶楽部』第2巻 第2号 通巻10号 2023年2月1日)
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※次号は2023年3月1日に投稿する予定です。