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【文化財紹介】昭和初期のレトロビル ~天満屋ビル~
【2024年4月1日/大阪歴史倶楽部】
大阪歴史倶楽部です。今月は大阪市港区海岸通(築港)にあります、昭和初期に建てられたレトロでモダンなビルヂング「天満屋ビル」(旧・天満屋回漕店本社ビル)をご紹介いたします。
天満屋回漕店とは
天満屋回漕店は、大阪の海の玄関口である大阪市港区築港で港運業を営んでいました。回漕店という業種は貨物運送の窓口となる仕事で、荷物の発送者と海運業者(貨物船の運航管理会社)との間に入って様々な連絡や調整をし、船の荷物の積載量の管理や調節などをする貨物運送にとっては欠かすことのできない取次事業者のことです。今回ご紹介する天満屋ビルは天満屋回漕店の本社社屋として、いまから89年前の1935(昭和10)年に建てられました。
天満屋ビル
天満屋回漕店の本社社屋であった天満屋ビルは、鉄筋コンクリート造り地上3階建てのビルです。現在は地上2階、半地下1階の建物のように見えますが、それは1950(昭和25)年に大阪市によってこの地域一帯を高潮などによる浸水被害から守るために大規模な土地のかさ上げ(盛土)工事が行われたため、建築当時の1階部分は半地下になってしまいました。
その後、天満屋ビルは1960年代の後半からテナントビルとなって現在に至ります。したがって現在の天満屋ビルの入口は、建築当初の2階部分の一角を改造して入口としています。
なお、上記の1950(昭和25)年の大阪市による港区と大正区の広範囲におよぶ大規模な土地のかさ上げ(全域にわって最大約2メートルに達する盛土)事業は、当時としてはわが国では前代未聞の大工事でたいへんな難工事であったと伝わっています。しかしそのおかげで現在この地域一帯は浸水被害から守られています。
外観の写真
以下は天満屋ビルの外観の写真です(2024年3月 大阪歴史倶楽部 撮影)。
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建物の特徴
天満屋ビルは鉄筋コンクリート造りの地上3階建てで、外壁には全面に当時流行していた黄褐色のスクラッチタイルが貼られています。そして当時のモダニズム建築の特徴である大きな庇やバルコニー、建物の角をアール(曲面)に仕上げているデザインや丸窓などが見られます。
全体的に直線と曲線を組み合わせた洗練されたデザインで、アール・デコ様式の雰囲気を持っています。
第2次世界大戦中には爆弾がこのビルの屋上に直撃しましたが、このビルはびくともせず奇跡的に火災も起こらずに済みました。1945(昭和20)年の大阪大空襲では周囲が焼け野原になった中で、多くの人たちがこのビルに避難してきたと伝えられています。
なお、この天満屋ビルは大阪市の補助により2020(令和2)年度に修景(建物全体の洗浄・破損箇所の修復・できるだけ建築当初の姿へ復元・その他建物周囲の景観保全等の)工事が実施されました。現在この天満屋ビルは「大阪市都市景観資源」に指定されています。
【豆知識】
スクラッチタイル
おもに黄褐色や褐色のタイルの表面に多数の細い溝すなわち「引っかき傷」(スクラッチ)を施したタイル。大正時代の終わり頃から昭和初期(昭和10年代前半)にかけて全国的に流行しました。
その流行のきっかけは、明治時代の洋風建築は木造または煉瓦造りがほとんどでしたが、それらは1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災によりことごとく焼失・倒壊し壊滅的な被害をもたらしました。
このことにより日本における大きな(または背の高い)建物には木造や煉瓦造は向いていないということが認識され、とくに煉瓦造の建物はこの関東大震災以降、全国的に急速に数を減らして行きました。
ですから現在残っている古い煉瓦造の構造の建物(外壁表面だけに煉瓦を貼った建物等は除く)や煉瓦の塀などは1923(大正12)年の関東大震災よりも前のものと考えて良いかと思います。
そしてこれら木造や煉瓦造りに替わる(地震や火災に強い)新建材として鉄筋コンクリート造りが関東大震災以降、急速に全国に普及しました。
この鉄筋コンクリート造りで外壁にスクラッチタイルを貼っていた東京の「帝国ホテル」の建物が関東大震災でもビクともしなかったことから、大正時代の終わり頃から昭和初期にかけて鉄筋コンクリート造り+スクラッチタイル貼りというスタイルの建物が全国的に大流行したのだと言われています。
天満屋ビルへの行き方
天満屋ビルへは、大阪メトロ中央線の「大阪港」駅(高架駅)の1号出口から南西へ約300m(徒歩約3分)です。天満屋ビルにはカフェ「ハaハaハa」さんが入居されています。
行き方の目安は簡単です。「大阪港」駅1号出口の階段を降りて、国道172号線沿いに真っ直ぐ南西へ進むと右側(北側)に天満屋ビルがあります。
国道172号線はたいへん大きな国道で、その中央分離帯には大阪メトロ中央線が走っています。天満屋ビルの正面はちょうど大阪メトロ中央線の電車が高架駅の「大阪港」駅から「コスモスクエア」駅へ向かって一気に下って海底トンネルへ入る入口にあたります。
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【文化財データ】
天満屋ビル
大阪市港区海岸通1丁目5-28
1935(昭和10)年 竣工
鉄筋コンクリート造り地上3階建
設計:村上工務店
大阪市都市景観資源 指定建築
写真:2024年3月 大阪歴史倶楽部 撮影
おわりに
今回ご紹介した天満屋ビルは、大阪の海の玄関口である築港にあり、いまから約90年前の昭和初期すなわち「大大阪時代」の繁栄や当時のモダンな雰囲気をいまに伝えてくれている建物です。
2020(令和2)年度には大阪市の補助によって修景工事が行われ、当初のモダンな姿がよみがえりました。
この天満屋ビルにも、古いものでも良いものは残し、丁寧に手入れをして大切に使い続けるという大阪の人の「古いものを大切にし新しい時代に活かす」という気質がよく現れていると思います。
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なお、この天満屋ビルの建物を見学したり写真や動画などを撮影されるときには、所有者さんや管理者さんや周辺の方々に不快感を与えたりご迷惑にならないよう充分なご配慮をお願い致します。
また許可なく他の人の敷地内へは入ったりしないようお願いいたします。
この建物はテナントビルでカフェも入居していますが、建物内部の撮影はセキュリティの関係もありますので所有者さんや管理者さんの許可を得てくださいますようお願いいたします。また建物内の立入禁止の区画には絶対に立入らないようお願いいたします。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
【参考にした資料】
◎高岡伸一 他『大大阪モダン建築』青幻社 2007年
◎「特集 都市を物語る建物」『あんじゅ』91号 大阪市立住まい情報センター 2022年
◎『オオサカマガジン』ジェイ・ライン 2023年
◎「修景事例紹介 天満屋ビル」大阪市 2023年
◎「天満屋ビル」『生きた建築ミュージアム』一般社団法人生きた建築ミュージアム大阪 2023年
(『大阪歴史倶楽部』第3巻 第4号 通巻24号 2024年4月1日)
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※次号は2024年5月1日に投稿する予定です。
《次号予告》
【文化財紹介】
(内容未定)
いつものように近代の文化財をご紹介させていただきたいと考えています。