【文化財紹介】昭和のはじめのモダンビル ~長瀬産業本館ビル~
【2023年12月1日/大阪歴史倶楽部】
大阪歴史倶楽部です。今月は大阪市西区にあります、昭和初期に建てられたモダンなビル「長瀬産業本館ビル」(長瀬産業旧館とも言われます)をご紹介いたします。
この長瀬産業本館ビルは1928(昭和3)年に建てられました。設計したのは初代通天閣を設計した設楽貞雄氏(設楽建築工務所)です。1921(大正10)年に行われた大阪市による第一次都市計画事業に基づいて拡幅された四つ橋筋に面して、当時のままの姿でいまも建っています。
長瀬産業の大阪本店は、もとは1918(大正7)年に大阪市西区立売堀で木造の建物として完成していたのですが、その5年後の1923(大正12)年に発生した関東大震災によって耐震・耐火構造の重要性を考慮し立売堀の木造の大阪本店を廃止して現在地の西区新町に鉄筋コンクリート造り4階建てのビルを新築して本店を移しました。その新築移転した本店ビルがこの長瀬産業本館ビルです。
この本館ビルの南隣には、本館とデザインを揃えた10階建ての新館が1982(昭和57)年に完成しました。
外観の写真
以下は長瀬産業本館ビルの外観の写真です(2023年11月 大阪歴史倶楽部 撮影)。
建物の特徴
この長瀬産業本館ビルは、窓の面積と比較して当時(昭和初期に)流行していた黄褐色のスクラッチタイル貼りの壁の面積が多く、全体として重厚感のある印象で周りの景観に対して圧倒的な存在感を放っている建物だといえます。
この建物の外観は、基本的にはシンメトリー(左右対称)なファサード(建物正面)を持ち、玄関周りに集中して凝った装飾を施しています。モダンな印象を与える建物3階まで伸びたアーチ型の窓、玄関まわりの石製の門と全体に装飾を施した大きな背の高い扉、さらにはその玄関上部に設けられたバルコニーが建物全体のアクセントとなっています。
この建物は、大阪市が近代史上最も繁栄していた(大正時代後半から昭和初期にかけての)いわゆる「大大阪時代」の雰囲気をよく伝えている建物だと思います。
この長瀬産業本館ビルは大阪市西区の都市景観資源に登録され、また「生きた建築ミュージアム大阪セレクション」にも選定されています。
長瀬産業本館ビルへの行き方
長瀬産業本館ビルへは、大阪メトロ四つ橋線の「四ツ橋」駅1-A出口から北へ約300m(徒歩約5分)です。※地下鉄の路線名は「四つ橋」線で駅名は「四ツ橋」駅(地名と路線名とで平仮名と片仮名を使い分けます)。
行き方の目安は簡単です。「四ツ橋」駅1-A出口を出てそのまま四つ橋筋沿いに真っ直ぐ北へ300m(徒歩約5分)ほど行ったところ(四つ橋筋を挟んで向かい側)にあります。
おわりに
今回ご紹介した長瀬産業本館ビルは、大阪を代表する老舗商社であり、日本の最先端の科学技術を支えていると言っても過言ではない長瀬産業さんが、100年近くも使ってこられた(しかも今も現役バリバリの)大大阪時代を象徴するような建物です。
非常に綺麗な良い状態の建物で、この建物が大切に使われていることが良く分かります。かつてこの本館の南側にある新館を建てる際には、この本館を解体して全面的に新しいビルに建て替える案が設計者さんから出されたそうですが、当時の社長さんが本館を残すことを希望されたと伝わっています。
大阪の人たちの「古くても良いものは残して大切に使い続け次世代へと引き継ぐ」という気質が、この話にもよく現れていると思います。
なお、長瀬産業本館ビルの建物を見学したり写真や動画などを撮影されるときには、所有者さんや管理者さん、周辺の方々に不快感を与えたりご迷惑にならないよう充分なご配慮をお願い致します。
また許可なく他の人の敷地内に入ったりしないようお願いいたします。とくに建物内部は企業さんの建物ですから、撮影はご遠慮ください。どうしても撮影を希望される際にはセキュリティの関係もありますので必ず所有者さんや管理者さんなどの許可を得てくださいますようお願いいたします。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
【長瀬産業さんの公式サイト】
【参考にした資料】
◎高岡伸一 他『大大阪モダン建築』青幻社 2007年
◎『生きた建築ミュージアム事業による建築文化の振興』大阪市都市整備局 2015年
◎「現代へ継承された歴史的建築・・・長瀬産業株式会社大阪本社ビル」(都市を生きる建築(43))『産経新聞』2015年9月21日
◎『長瀬産業株式会社』TOTO株式会社 2015年
◎『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2020開催報告書』大阪市都市整備局 2020年
(『大阪歴史倶楽部』第2巻 第12号 通巻20号 2023年12月1日)
©2023 大阪歴史倶楽部 (Osaka Historical Club)
剽窃・無断引用・無断転載等を禁じます。
※次号は2024年1月1日に投稿する予定です。