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死にきれないおばけたちの夢みたいな話 映画メモ『マルホランド・ドライブ』

先日、デヴィッド・リンチ監督の訃報を知りました。私が観たことがあったのは『エレファントマン』の1本だけ。これを観た時はまだ記録をつけていなかったため何を感じたか細かく覚えていないのが残念。体のかたちが普通と違ったがために見世物になったりして辛い人生を送った人のお話でしたよね。つらい…悲しい…と思ったような記憶があります。ちょっとこれも見直したい。

亡くなったことを機に、というのもおかしな言い方ですが、どんな作品を遺した人なのだろうと改めて興味を持ち、今回『マルホランド・ドライブ』を観てみました。

この作品、難解!複雑!という声が多くて、逆に安心して観ました。みんな分かんないならいいか!って。実際すべて理解したかと言われると全くそんなことないんですけど、私はこれ、めちゃくちゃ好き。感覚に刺さりました。

今回の感想記事、何回も書いては消してわけわからんになっております。できるだけシンプルに、今まで通り「わたしの感想」を書いてみたいと思います。ネタバレみたいな記述も出ちゃうと思うので、見る予定があって、なんにも情報入れたくない方はご注意ください。24年前からある作品にネタバレもなにもだとは思いますが一応。

でもこの話、展開に触れずに話すのって…どうしたらいいの……?!観ていない友だちに勧めてみたいけど、なんて言えば良いのだろう…と答えが見つからないままこのnoteを書いています。難しい。とにかく観てくれ。

あらすじ

ある真夜中、ロサンゼルスのうねうねした山道〝マルホランド・ドライブ〟で交通事故が起こる。事故で生き残った女性(演:ローラ・ハリング)は記憶を失っていた。彼女はある家に身を潜めるが、そこに下宿にやってきた女優志望のベティ(演:ナオミ・ワッツ)と鉢合わせに。名前を聞かれとっさにリタと名乗る。ベティはリタの記憶を取り戻す手伝いをすることになるのだが……

おばけの話だ

私の感想を一言で言うと、おばけの話だ。です。

何を言ってもネタバレみたいだし、かといって思い切り説明しようと思っても、私には難しい。だからいまいち伝わらない気はするんですが、死にきれないおばけたちの夢みたいな話だと思いました。

心残りしかなくて、作中に出てくる全部の場所、ハリウッドのスタジオにも、あの人の家にも、あの店にも、〝マルホランド・ドライブ〟にも、おばけというか、思いが、残ってる感じ。染み付いちゃってるんだ、きっと。そこに染み付いた思いが見せてる映像みたいな。辛く苦しい記憶を見せられている。

でも、幽霊は出てこないです。おばけの話じゃないので。人間じゃなさそうな存在もちらほらいたけど、でもそれの話じゃないので。人間のぐちゃぐちゃの心の話。

好きなところをつらつらと

ナオミ・ワッツの涙。観た人だったらもうこれだけでどのシーンか伝わるだろう。伝わってくれ。というくらい印象的なあの涙。
悔しかったね。悲しかったね。なんか全部ポッキリいっちゃったよね。そのあとの決断も、まあ分かるよ…と思いたくなっちゃうほど、全部が詰まった涙。映画で好きな涙のシーンランキングを作るとしたらTOP3に入れたい。

一瞬の幸せ。『マルホランド・ドライブ』は前半と後半にざっくり分かれているんですが、これは前半の最後。ネタバレごめんなんですが、ベティとリタが結ばれるシーンです。ここ、美しいですよね。最後まで見て思い返している今、このシーンの美しさが本当に悲しい。彼女は、ただこれが欲しかったんだよね。ジェットコースターで言ったら、多分ここが頂点。ここからものすごいスピードで最後まで駆け抜けていくイメージ。

ナオミ・ワッツの変貌ぶり。前半と後半とで、ナオミ・ワッツがもう別人です。いや、別人なんだけど、同じ人でもあって、なんていうか。この構造もまずめちゃくちゃ好きなんですけど、とにかくキャラクターの変わりようがすごい。女優を夢見て田舎から出てきて、実はずば抜けた演技力ももっている理想の「これからスターになる女優の卵」と、後半で見せる姿とのギャップがすごくて、これも悲しい。感想が全部「悲しい」になっててひどいんですけど、悲しい。後半で見せる姿、彼女は、ハリウッドを夢見て、華やかな世界の近くで、どんな暮らしをしてきたというのだろう。荒んでて、淀んでて、鋭くて、だるくて……やっぱり悲しいよ。

ラストシーン。ナオミ・ワッツがね、発狂しちゃうんですよね、ネタバレしてごめんですけど。ここもすごく悲しくて苦しくて。ハリウッドで女優になる夢を素直に応援してくれた人たち、きれいな心で田舎から出てきたばかりの自分。その記憶が確かにあるのに、現実の自分は明らかに人として超えてはいけないラインを超えてしまった。特別変なダメな人だったわけじゃなくて、こんなの誰でもそうなっちゃうよと思いました。まったく現実的じゃないシーンなのに、他人事とも思えないような、不思議な気持ちになった。悲しい。

リンチさん、優しい人説

この作品、時系列とか構造が複雑だと話題なのですが、公開当時にリンチ監督から直々に「謎を解くための10のヒント」というのが出されています。親切だ。

いろんな小物とか、出てくる言葉とかから推測してここは何を表している…!ってのが分かるようになっている、らしい。
確かに、「灰皿めちゃくちゃ映すじゃん…」みたいな違和感ある画が差し込まれていたかも。
私はこういった謎解きは得意じゃないので、実際なにがどうなのかというのは、ちょっと置いておきます。

監督の中にははっきりとした答えがあるのだと思いますが、受け取る側がどう解釈するかは自由だとも監督や俳優陣がコメントしていました。

私はナオミ・ワッツが演じたキャラクターの夢かなあと思いました。後半が実際に起こったことで、前半は「こうだったらよかったのになあ」という夢とか願望とか。前半に出てくるベティ、あまりにも理想的なんだもの。全部手に入りそう。でも夢だから、その手前で終わっちゃう。

いろんな記事や感想を読んでみたところ、他の人物たちの夢だと解釈する人もいるみたい。そもそも夢なのかどうかとか。どの考えもすごく面白い。何回も観たくなっちゃう。
20年以上愛され続け、人生のベストに挙げる人がいるのも納得だなあと感じる作品でした。私もかなり上位に入れたい感じです。

これを機に、リンチ監督の他の作品も観てみようと思っています。一覧を見ると怖そうな作品が並んでいるのですが、その中に1つだけある『ストレイト・ストーリー』がとても気になっています。
あらすじを見ると、おじいちゃんが兄に会いに行く道のりを描いたロードムービー。多分、めちゃくちゃ優しい話。

『エレファントマン』を観たかすかな記憶と、今回『マルホランド・ドライブ』を観てあれこれ考えた結果、私は、リンチさんってとても優しい人なんじゃないかと想像しました。優しくて、人間の弱いところも知っている人だから出せる怖さとかイヤさなんじゃないかな。
だから怖い要素がなさそうな『ストレイト・ストーリー』はシンプルに心温まる作品なのではないかと楽しみ。最後にとっておこうかなと思ってます。

あとホドロフスキーが「失敗だ!!!!!!」と大喜びしていた『DUNE 砂の惑星』も観なくっちゃ。これも、きっとこれはこれで好きな気がするんだよなあ。ワクワクです。


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