「あなたはわたし」 【ひと色展 フタロブルーイエローシェード】より
頭が痛い。
体中どこを絞っても、一滴の水分も出てこない。
もう何時間こうしているだろう、今日は晴れなのか、曇りなのか、それさえも分からない。
でも、雨は降っていないのだろう。
雨なら、音で分かる。匂いで分かる。
でも、締め切られた窓の向こうからは何の音も聞こえない。部屋の空気はつゆほども動かず、重く、そして乾いている。
目が開かない。
乾き切ったまぶたは、動かされることを拒んでいる。
ふと、気づいたことがあった。
目を閉じている時、まぶたの裏にある色は、こんな色だったろうか?
目を閉じる時に見えるのは、暗闇の中で乱暴に明滅する光の残像ではなかったか。
もし私が目を開けているとしたら、こんなに長いことまぶたを閉じることなく、何かを眺めることができるだろうか。
もし目を開けているのなら、私が見ているこれは一体、何の景色なのだろう?
もしまぶたを閉じることなく、ずっと何かを見つめることができるとしたら、そこはきっと水の中だ。
瞳が乾くことなく、目を閉じる必要のない、
水の中に生きる魚のように。
そこに広がっているのは、青の世界だった。
青、青、青。
薄い青、濃い青、深い青。
透ける青、揺らぐ青。浮かぶ青、沈む青。
私は青の世界の中にいた。
ここはどこ。
声に出さない私の問いに、こたえる声があった。
「ここはあなた」
ここは、わたし?
「ここは、あなた。あなたの中」
「あなたの流した涙から、ここは生まれた。
あなたのためていた涙から、わたしは生まれた。
だから、わたしはあなた。
そして、あなたはわたし」
青い光が揺れる。
揺れながら、散らばりながら、いちばん遠くまで進んでゆく青い光がどこまでもどこまでも私を満たしている。
「あなたはここで、ここはあなた。
だからあなたは何もしなくていい。そのままでいい。
私はいつもここにいるし、ここはいつでもあなたの中にある」
青い光がゆらめいた。
思わず目を閉じた。
目を、閉じた?
再び、目を開けた。
そこは、私の部屋だった。
窓の外では音もなく雨が降っていて、
部屋の空気はひんやりと、湿った匂いがしている。
ゆっくりと体を起こしてみる。
頭の痛みは消えていて、心地よい怠さだけが残っている。
つぅと頬を流れていったものがあった。
手の甲でそれをぬぐう。
あなたはわたし。
あなたはこのままでいい。そしてわたしも。
きっと昔からそうだったのだ。気づかなかっただけで。
喉が渇いていた。
私を水で満たそう。
私はゆっくりと立ち上がった。
#イシノアサミ さん、ありがとうございました。
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