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推薦合格が決まっていた人のセンター試験

私は高校に入学した後にセンター試験について知った。

大学受験をする人には避けては通れない試験が
高校三年生一月にあるらしい。

 
私はたまたま、高校入試の相性が良かったらしく
学年1000人がいるマンモス校の中で
最上位クラスにいた。

私の高校は入試の成績でクラスを分けた。
私は傍から見たら
県立入試は失敗したが
校内ではエリート オブ エリートだった。

 
高校入試は国数英の三科目。
自信がなかった問題は僅か1問しかなく
見直しをしても時間は余裕で余り
暇すぎて私はあくびさえしていた。
私は三科目共90~100点の自信があった。

 
だが、私が頭が良いのではなく
この時の入試とたまたま相性が良かっただけだ。

 
実際、私は高校入ってすぐの抜き打ち学力テストや中間テストでズタボロだった。
進学校エリートクラスの落ちこぼれになるまで
あっという間だったのだ。

 
クラスの皆は国公立大や有名大を狙えるレベルだし
そうなるとセンター試験は必須だが
私は国公立は早々と諦めた。

私は得意科目と苦手科目で偏差値が20違った。
国公立大は5教科がバランスよくできないと話にならない。

 
更に、私は福祉や心理学を大学で学びたかったし
父親から一人暮らしを反対されていた為
通える大学が限られていた。

通える範囲の国公立大に、福祉や心理学を学べる大学はなかった。

 
国公立大と私立大では、試験が変わる。

センター試験でも私立大は受験できるが
センター入試はメインでは決してない。
(指定校)推薦入試の後
センター入試があり
その後に、各私立大独自の試験がある。
A入試である。

 
私は高校一年の終わりには
私立大の指定校推薦を狙っていたし
それに落ちたら、A入試を頑張るしかなかった。

国公立大を受ける気がない私にとって
センター入試はあまり眼中になかった。

 
 
高校三年生になり、センター入試申し込みを一斉に行った。
私の高校はどんな進路であろうと、普通科は全員センター試験を受けなければいけない。
試験料は確か1~2万円。
めちゃくちゃ、高い。

 
中学生までは知らなかったセンター試験だったが
高校生になり、毎年一月のセンター試験のニュースを見ては唾を飲み込んだ。

やがて、私もこの受験生の一員になる。

ゾクッとした。
他の受験生と同じように中間期末試験を頑張り、また赤本を買い、受験勉強をした。

 
高校三年生の頃、日曜日や夏休みはほとんど図書館で勉強していた。

 
 
推薦入試を目指して内申点を気にして頑張っていたが
センター試験申し込みの後に、推薦入試を受けられるか否かが決まる。

 
だから、第二志望と第三志望大学なら指定校推薦が受けられ
第一志望なら推薦入試が受けられると担任から言われたのは
センター試験申し込み後だった。

 
指定校推薦は、ほぼ100%の合格率だが、受かったら必ずその大学に行かなければいけない。
推薦入試は合格率がまばら。
当時は、私の第一志望大学は7倍で、推薦入試の中では高い倍率だった。

 
担任は当然、第二志望指定校推薦を薦めてきた。
受ければ、受験とおさらばほぼ確定だ。
生徒の進路が決まれば、担任として肩の荷も降りる。

 
だが、私は第一志望大学になにがなんでも行きたくて
推薦入試を希望した。
7倍なんて賭けの賭けだし、模試判定はE判定だ。
担任はもちろん止めた。

 
だが、私は曲げなかった。
第二志望と第三志望、その他希望大学は
全てAかB判定だった。
絶対どこかしら受かる。

だが、第一志望はE判定だ。
推薦入試で失敗したら、合格はまずできない。
推薦入試に賭けるしかないのだ。

 
更に、私には勝機があった。
通常、推薦入試は面接と小論文試験なのだが
私の第一志望は小論文試験のみだった。
面接は、容姿や受け答えがいい生徒が有利になりがちだと
数年前から廃止にしてくれたらしい。
まさに、容姿が悪く、受け答えもしどろもどろな私にはありがたい配慮だ。

 
私は模試はE判定だが
推薦入試が小論文なら話は別だ。

 
私は国語の偏差値が一番高く、昔から作文が得意だった。
賞状をもらったり、クラスや学校代表で選ばれたり、新聞に載ったこともあった。

 
小論文ならば、E判定の私にも勝機はある。
今に見てろよ……!

 
推薦入試組以外は引き続きセンター試験に向けて勉強し
推薦入試が決まった人達は、学校で面接の練習が始まった。
そして私は家庭教師の先生と共に、小論文の特訓が入った。

 
推薦入試が決まってから推薦入試までの一ヶ月間
小論文を20本書きつつ
受験勉強と期末試験勉強をこなした。

 
推薦入試の次の日から期末試験で
期末試験では一科目落として追試になったが
私は見事推薦入試で合格を決めた。

 
大学が決まった私に、追試はなんてことなかった。

一年生の時に一度追試を受けたが
追試は期末試験と内容が丸かぶりだったからだ。

 
だから追試日までに答えを丸暗記すればいいと私は分かっていた。
推薦入試に受かり、期末試験が赤点はネタでしかなかった。

追試は無事クリアした。

 
 
推薦入試の合否は11月に分かり
推薦入試合格組は、後は卒業を待つだけだった。

私のクラスは1/3~半分の人が推薦合格を決め
浮かれモードになっていた。

郵便局のバイトをしたり
車の免許を取ったり
趣味に燃えたり
友達や彼氏と遊んだ。

 
一方、国公立組にとっては最後の追い込み時期で
非常にピリピリしていた。

 
クラス内の雰囲気はバラバラだった。

 
更に、私のクラスよりレベルの高い国公立クラスは
推薦合格者は少なく
ほとんどの方が国公立や有名大受験予定だった。
ピリピリ感は私のクラスの比ではなく
ピリピリギスギスしていた。

 
 
そんな中、いよいよセンター試験の日がやってきた。

推薦合格組も申し込みをしたし、受験料を振り込んだので、センター試験は受けなければいけない。
何人かはセンター試験を休んだようだが
一生で一度しかないセンター試験だし
私はどうせなら受けようと思った。

完全に記念受験だった。

私は推薦合格後、教習所に通っていたので
もはやセンター試験より免許を取れるか否かが大切だった。

 
確かセンター試験の日は寒いがよく晴れた日で
私は受験会場の某大学まで父親に送ってもらった。

私は何か大きな行事があると
緊張して眠れなかったり、ご飯が食べられなくなるが
その日は特にそんなことはなかった。
記念受験だったからだ。

 
 
父親と別れ、大学の正門から中に入り、受験会場を目指した。
空気がピリピリしていた。

受験会場はピリピリなんてものじゃなく
空気が肌に突き刺さるくらい
受験生の気が鋭かった。

 
記念受験組はいたたまれない。
大半の人が今日の受験で、人生が大きく変わるのだ。

 
そんな時に、友達がやってきて、私に声をかけた。
私達は一旦部屋から出た。

私「……会場の空気、ヤバくない?」

 
友達「私の方も、教室ピリついていて、すごく居心地悪い。」

 
私「浪人生とかもいるし……推薦合格組とは教室分けるべきだよね。温度差がひどい。」

 
友達「ね。早く三科目だけ終わして帰りたい。ともか、これ、誕生日プレゼント♡」

 
私「ありがとう♡」

 
友達「クッキー焼いたんだ。後で食べてね♡じゃあお互い、センター試験頑張ろう。」

 
 
 
友達は立ち去り、自分の席に戻った。

そう…私の誕生日は、その年のセンター試験の日だった。

全くもってタイミングが悪く
お祝いムードにも
浮かれ気分にもなりにくい中
この友達だけが、誕生日にプレゼントを渡してくれた。
しかも手作りクッキーだ。
センター試験後に見たら、お洒落な小物や手紙も同封されていた。

私の両手には友達からの誕生日プレゼントで、ぬくもりや甘い香りでいっぱいだった。
まさか今日はお祝いされると思っておらず
私はジーンと嬉しくなった。

 
その友達は本命大学に指定校推薦で合格を決めていた。

 
心が華やかになり、一人受験会場に戻った。

突き刺すような視線やヒヤッとした空気が
途端に私を襲った。

 
うぅぅ………やはり居心地悪い。
誕生日プレゼントの中身が気になるが、絶対ここでガサゴソできない。
そんなのはKYだ。

 
 
私は早く試験が始まり、終わることを願った。
早くここからいなくなりたかった。
誕生日プレゼントにホクホクしている私は
あまりにも場にそぐわない。

 
私は国数英の三科目受験だった。

現国と数学は大好きなので真剣に取り組んだが
私の年は数学がハズレ年で
難易度が高かった。
問題を見た瞬間に

…………はい?

と、首を傾げたくらいだ。
解けなくて悔しかった。

 
国語と数学で力を使い果たした私は
英語のやる気が下がり
最初は真面目にやっていたが
途中から適当に好きな数字をマークシートに塗りつぶし
時間を潰すことにした。

 
あ~!終わった終わった! 
さて、帰ったらゲームしよう~!

 
私は父の車に乗り、自宅に帰った。

友達からの誕生日プレゼントを開けて
わぁかわいい♡とプレゼントにはしゃぎ
わぁ美味しい♡とクッキーを食べた。

私は気楽そのものだが、受験会場の空気がどんよりしていたことには
もちろん気づいていた。

 
 
週が明け、恐怖の自己採点の日になった。

「お誕生日おめでとう!」

と、私は何人もの友達から後祝いをされた。
受験組みんながピリピリしている中
誕生日祝いをされる私は
またしても場にそぐわなかった。

 
お祝いは嬉しかったし、プレゼントも中身が気になったが
自己採点をまずは終えなければいけない。
それが進学校の生徒の義務だ。

 
現国はいつも通り安定の点数
数学はやはり点数がいつもより低い。

英語は自己最低点数の76点だった(200点満点)。

 
ちょうど私の年は英語がラッキー問題だったらしく
平均点は高かった。
文系クラスの為、高得点は相次いだ。

 
い、いくら適当にマークしたとはいえ、76点……。
おふざけが過ぎたな………
よりによって、英語が簡単な年に文系クラスの分際でこんな点数を叩き出してしまった。

 
「76!?ちょっとともか、それはヤバいよ…。」

 
周りの友達にもガチだったり、冗談だったりで言われている中 
いきなり怒鳴り声が遠くから聞こえた。

 
「嘘だっ!!!」

 
男性の声と勢いよく走る音が聞こえた。
どうやら、国公立クラスの男子が自己採点で想像より点数が低く
机をバンッと叩き、叫び、教室から飛び出していったらしい。

国公立クラスの空気は淀んでいたし
私のクラスの国公立組も
非常にピリピリギスギスしていた。

 
記念受験をした挙げ句
英語のマークシートで遊び
誕生日プレゼントでヘラヘラしている私は
本当に邪魔な存在だったと思う。

 
センター試験組は二次試験が待ち構えていたり
念の為、私立大入試に備えたり
大学が決まり次第バタバタと住まいを探したりと
非常に慌ただしい日々を過ごしていたようだ。

高校卒業後
なかなか進路が決まらなかった親友は
引っ越し準備の兼ね合いもあり
仲間内の卒業旅行をキャンセルした。

 
私は余計なことは言わなかった。言えなかった。

秋に推薦合格し、今は免許を取得した私と
彼女らとは分かち合えないものが確かにあった。

 
 
推薦合格組は本命に受かったが
私の特に仲が良い子ほど、本命に落ちた。

私より頭が良いのに
私の大学より偏差値が低い大学に進学が確定したり
浪人や予備校の道を選んだ友達も複数いた。

 
世知辛い世の中だと思った。

そりゃあ私だって内申書の為に中間期末は頑張ってきたし
推薦入試の時は小論文対策をバカみたいにやった。
センター試験の英語はまだしも
推薦入試資格を得る為に、そして推薦入試合格の為に
私は私なりに頑張ってきた。

 
 
だが、友達だって頑張ってきたことを知っている。
私より頭が良く、成績が良かったことも知っている。

でも、本命には届かなかった。
そして経済的事情等がある人は、私よりランクを下げた大学に進学が確定した。

 
センター試験には魔物がいる。
良くも悪くも人生を変える魔物がいる。

 
私の姉は姉で私より頭は良く
センター試験の結果で、家から通えない国公立大ならば合格範囲内だった。
国公立大に手が届く範囲の成績なのは
私からしたらめちゃくちゃすごい。

だが、姉は蹴った。
姉は自宅から通える範囲の学校しか興味がなく
ランクをかなりかなり落とした。

 
私も家族も周りの友達すら、あそこの大学に行くのは勿体ないと言ったが
姉は全く動じなかった。
姉は野心がなかった。マイペースだった。

大卒の資格と仕事に活かせる資格がとれて
自宅から通えればいい。

姉はそういう価値観だった。

 
 
私は姉にずっとコンプレックスがあった。

勉強で歯が立たなかった。
姉が受かった高校に私は落ちたし
いくら勉強しても姉には勝てない。

だが、私が合格した大学は、姉の大学より偏差値が高い。
ようやく、姉に勝てたと思ったのに
姉のマイペースさを前に、私は再び敗北感を感じた。

成績や偏差値にとらわれている自分が小さい器だと痛感した。

 
有名大学や国公立大のブランド力は確かにあるし
有名な教授がいたり
設備や講義が優れていたりする。
資格取得も関わるし
卒業後の進路も左右される。
選択肢が広がることは否めない。

それは分かっているし
大学ならどこでもいいわけではないとも思うし
大学が全てではないとも思う。

 
ただ、どんなに真面目に頑張っても
全員が全員、第一志望大学には受からないのは確かだ。

センター試験には魔物がいる。
それまでの努力だけでは倒しきれない魔物が潜んでいる。

 
高校三年生で大学進学組にとって
センター試験は三年間の集大成であり 
特別なことであることには間違いない。

 
センター試験が人生の全てではないが
センター試験が人生を左右するのは間違いない。

少なくとも、受験生にとってはそうだ。

 
 
 
 
 
私がセンター試験を受けてから、10年以上の時が流れた。

私の時代は三科目受験もありだったが
後に受験科目数が増えたりと
センター試験は少しずつ形を変えた。

  
毎年一月になると、センター試験のニュースが流れ
「受験生、みんな、頑張れ。」という気分になった。

 
 
2021年からはセンター試験が共通テストと名称が変わった。
当事者ではない私は、中身がどう変わったかはよく分からないが
去年からのコロナ禍で、例年より大変だったのは間違いない。

 
学校休校等で受験勉強にも支障は出ただろう。
先の見えない不安に、モチベーションも下がっただろう。
受験会場側もコロナ対策に追われたはずだ。

「受験生、みんな、頑張れ。」

私はテレビを見ながらエールを送る。

 
 
これから大学受験を目指す高校生に伝えたい。

大学は楽しいよ。
様々な出会いがあり
世界は広がる。
受験勉強よりも専門分野の勉強の方が楽しい。
仲間との飲み会やオール
旅行も存分に楽しんで
恋に遊びにバイトにサークルに
色々な経験が
あなたをより魅力的な人にする。

 
本命大学に落ちた人や浪人生は気持ちが落ち込むかもしれないが
どう生きるか、何を成すかが大切だ。
有名大や国公立大や第一志望大学が全てではない。

きっと予想とは違う道を歩いても、たくさんの出会いがある。
それはそう、悪くはない。

 
 
………………と、コロナ禍でなければ
胸を張って言える。
人生の先輩として言えるけど
あまりに今は先が読めなくて
無責任なことは言えない。

 
やる気はあっても夢を諦めなければいけない。
進学を諦めなければいけない。

そんな若者が
今年はどれだけいるのだろうか。

 
 
どうか、と思う。
このコロナ禍の時代を生き抜いた先に希望があってほしい。

あの頃はコロナで大変だったけど
でも
あの日々があったからこその今だし
今は幸せだと
未来で若者が言える世界であってほしい。

 
 
ひとまず、共通テストお疲れ様でした。
受験生、引き続き、体調に気をつけて挑んでください。

 

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