あたまの中の栞 -文月-
どうやら7月は旧暦の名の通り、手紙を認めたくなる月らしい。以前イースター島で出会ったアンドレイという青年と気がつけば文通を交わすようになり、久しぶりに彼に宛てて手紙を書いた。心を鎮めてゆっくり丁寧に文字を綴っていく。不思議と気持ちが落ち着く。誰かに読んでもらうというだけで手が震える。
ようやく1年の折り返し地点。でもなんだかあっという間だった気もする。どこか遥か彼方で起こっている出来事のように感じても、今まさに私が住んでいる家の近くで各国がしのぎを削っている。そしてきらりと光るメダルを目指して戦っている。そう思うとどこか不思議な気持ちになってくる。
ようやく簿記検定の試験を真面目に勉強せねばと重い腰を上げる。とは言いつつも、先月はのんびり自分の好きな本を読んでいた。ということで、早速先月読んだ本について振り返っていく。
1. 木曜組曲:恩田陸
恩田陸さんの作品と出会ったのは確か私が小学校に入ってすぐのことだった気がする。NHKで放送されていた鈴木杏さん主演の『六番目の小夜子』。結構何度も再放送していたのに、果たして最後まで見たのだろうか。一体どんな結末になるのだろうとわくわくしたことだけは覚えている。
…いつ放送していたのかな、と思ってたまたまサイト見たらなんと一昨日から再放送しているらしい。でも今日で終わりか、残念。
割と頻繁に恩田陸さんの作品は読んでいて、どこかミステリアスな雰囲気を放つ文章に思わず引き込まれている自分がいる。今回読んだ木曜組曲というのはどちらかというとミステリー寄りの本で、物書きがひとつの家に集まってかつての大作家の死にまつわる真相を解き明かしていくという話。
結末はうーん、なるほどといった展開。恩田陸さんの作品は最後読者の創造にゆだねる作品もあったりするのでそういう意味だと自分の中では内容を消化できたかなと思う。ちなみにほかにも恩田陸さんの小説で忘れられない作品を挙げると、本屋大賞を受賞した『蜜蜂と遠雷』や『チョコレートコスモス』など。『チョコレートコスモス』は個人的に続編書いてもらいたいなと思っているのだが、難しいだろうか。
木曜日が好き。大人の時間が流れているから。丁寧に作った焼き菓子の香りがするから。暖かいストールを掛けて、お気に入りの本を読みながら黙って椅子にもたれているような安堵を覚えるから。(徳間文庫 p.113)
2. センスがないと思っている人のための読むデザイン:鎌田隆史
たまたま図書館に行ったときに返却されていて目についた本。全体的にライトな感じで読みやすかった。この時ちょうどなけなしのボーナスでiPadを買ったばかりだったので、よしこれからデザインをきちんと腰を据えて勉強してみるか!という気持ちになっていた。
今『ブルーピリオド』というマンガを並行して読んでいる。これまで成績優秀だった青年が突然絵を描くことに目覚めて、芸大の道を目指すという話。その中にスクラップブックを作ることを習慣にする、というエピソードが出ていてまさに今回読んだ本と同じことが書いてあった。先日読んだ『げいさい』といい、やたら最近アートに縁がある。
「デッサンとは自分の目を疑うことなり」という言葉を心に留めておきましょう。(p.92)
3. 小説家になって億を稼ごう:松岡圭祐
先日「monokaki」さんの記事で紹介されていて気になった本。キャッチーなタイトルとは裏腹に、けっこう石橋叩いて渡るようなしっかりとした指南書だった。読み終わった後に後ろから読み返すことで表現の誤りや構成の見直しを図っていくというテクニックは早速取り入れている。
まあ億万長者になるかはさておき、小説家になるといってもそう易々となれるものではないなと思う今日この頃。いろんなものを見て聞いて経験して。その中で自分の血肉にして、しっかりと考えていく。この繰り返しでしか新しい世界って広がっていかない気がする。去年から始めたnoteを通じて確実に文章を書く行為が自分の中で習慣化されたし、これを機に少しずつ自作品を形にしていければと思う。
「書く喜び」だけはいつでも忘れないようにしよう。
何かを得るためには、まず自分から何かを与えねばなりません。(p.151)
4. 五分後の世界:村上龍
村上龍さんの世界観ってまた独特だ。文章的にはおそらくはっきり好き嫌いが分かれるように思う。初めて読んだ『コインロッカーベイビーズ』ではその世界観にとても圧倒された。それ以来折につけて読んではいるものの、かなり癖が強くてそのストーリーの持つ読後感に引きずられることもしばしば。その名の通り肉体の中に龍を飼っているのではないかと思うくらい。
今回のお話は幻冬舎創立時に上梓された本。平凡な日常に生きる青年が突如として、もうひとつの並行世界である日本にワープするという話である。その世界では日本は列強国に分割されながらも地下にゲリラを組織して、支配国に対して牙をふるっている。正直こうした戦争とかゲリラとかの話は苦手分野なのでちょっと客観的な視点で読むようにした。
中には村上龍さんが感じる今の世の中へのアンチテーゼみたいな内容も含まれていて、それは読んでいてなるほど確かにと思いもした。
何も知らないあんたに説明するのは難しいが、子は親の言いなりになってるし、親は子供の言いなりになってる、みんな誰かの言いなりになってるわけだ、要するに一人で決断することができなくておっかねえもんだから、あたりを窺って言いなりになるチャンスを待ってるだけなんだよ(p.121)
5. 「いい写真」はどうすれば撮れるのか? ~プロが機材やテクニック以前に考えること:中西祐介
常日ごろから自分にとっての「いい写真」ってなんだろうなと思いながら日々暮らしている。気が付けばカメラを持ち歩くことが当たり前になって、行く先々で自由気ままにシャッターを押していたのだけど、最近コロナを挟んだこともあって猛烈に撮る機会が少なくなってしまっている。
たぶん「いい写真」という定義自体は結局のところ自分自身の中で答えを見つけるしかないのだと思うのだが、一方できっとインスタグラムなんかで人々の心に訴えかける写真にも統一性があるんではないかと思ったりもする。これも文章を書くことと同じで、結局自分の中で経験を積んでいくことでしか「良い作品」は生まれてこないんだろうな、と思っている。
6. 働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは:中原淳
最近になって自分のこの先の未来についてぼんやりと考えることが多くなった。そして当然その道筋の中には今働いている場所から違うところへ行こうかなという気持ちもふつふつと湧き始めている。
昨年noteで少しずつ日がな投稿するようになってから気がつけば1年余りの月日が経った。その中でだんだんだんだん何か表現する世界にもう少ししっかり地に足つける形で取り組んでみたいなと思うようになったことも大きいのかもしれない。
ただ職場を変えるとなると、考えなければならないことがたくさんある。どうしても私自身、ついつい今とは異なる場所に行きたいという気持ちが先行してしまっていた。それを「いや、待て。こういう考え方もあるぞ」と教示してくれた本。かなり考えさせられた(というより一旦思い止まった)。
青い鳥症候群……。笑
7. デートクレンジング:柚木麻子
気がつけば歳を重ねるにつれて得られたこともあるけれど、一方で失ってしまったものも意外とたくさんあることを思い知らされる。昔は何をやるにしても誰と付き合うにしても怖いもの知らずでひたすら突き進むことができたのに、不思議と忖度してしまっている自分がいる。
結婚したり子供を産んだり引っ越したり。そうやって一つの人生におけるライフイベントを友人が進んで行くにつれて、なぜか会うことが遠のいてしまう。どこか躊躇してしまう自分がいる。それはきっと世間の先入観に知らず知らずのうちに踊らされてしまっているんだなと思った。
感情に従って何かに心ゆくまでのめり込むことが、理不尽な世の中に対抗する唯一の手段なのだ、と。(祥伝社 p.26)
8. 才能をひらく編集工学 世界の見方を変える10の思考法:安藤昭子
図書館にて思わずタイトルに惹かれて手に取った本。割と今の世の中ロジカルシンキングが持て囃されているけれど、最近はデザインが持つ力というのも再び見直されている。ひとりのアイデアによってもたらされる世界って実はとんでもない可能性を秘めているのではないかと思っている。
そしてその側から見たら突拍子もないと思えるような思考法は、実はきちんとした方法論があるんだなとちょっと目から鱗だった本。聞いたことのある思考法もあったけれど兎にも角にも一つの本にまとめたことはすごいと思う。比較的文章も平易でわかりやすい。
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蝉の鳴き声にようやく耳が追い付いてきた気がする。夕方に鳴り始めるふひぐらしがどこか愛おしい。この季節はどうしても海に行ってボーっとしていたいな、と思うのだけどしばらくは人が多そうだからクーラーで涼む生活が続きそうだ。
夏休みも例年に比べると比較的ゆったり過ごそうかなと思っているので、これを機に溜まっている作業やら執筆作業やら、そして積読状態の本を読むこともいろいろやることができたらな、と思っている。そう、暑い夏は今まさに始まったばかりだ。