『ベルファスト』は、社会問題と人の優しさを世界の縮図の様に見せてくれる"想い出"の物語
もうね、この映画が始まってずっと泣いてました。
泣いてたというのは大袈裟ですが、眼に涙を溜めた状態でほぼ鑑賞し、所々で落涙してました。
僕は2022年の今年で誕生日がくると36歳になるんですが(マジかよ)、この映画は僕のオール・タイム・ベストに食い込みましたね!ブッち切りの最高傑作です!(今のところ今年の暫定一位です!)
いや、この年齢で観るには最高の映画だったのかもしれません。
それなりに人生のアップダウン(いや、あまりアップだったことはない気がするが)も経験し、可能性としては奥さんがいて子供が居てもおかしくない年になり(アレ?いま隣には誰もいないよー!汗)、結婚もしてないし子どももいませんが(笑)、両親の苦労もそれなりに想像ができる歳にも差し掛かったこのタイミングで、観るのはバッチリというか、痛みが想像できてツラいというか、とにかく魂を突き刺す映画になりましたね。
この映画はストーリー自体、全然大したことはないんです。
北アイルランドは造船で有名なベルファストを舞台に、激化する宗教対立(これには本質的にはもっと多くの歴史的問題が絡んでますが)による紛争の中で、それでも続いていく生まれも育ちもベルファストの一家の団欒と葛藤、そして旅立ちの始まりまでを描いています。いわばよくある一家のドタバタものなわけです。
んなワケなんですがッ!
その描き方が始まりから終わりまで全てがどれも愛おしく、掛け替えのないほどに尊く、何よりも今現在のコロナ禍の世界、あるいは今現在進行中のロシア・ウクライナ問題に代表されるような地域紛争の諸問題に準えられても見れる/考えられるような切実さをもって魂を揺さぶってきます。
たしかにコメディーだし、社会派ドラマだし、人情モノで主に喜劇として描かれますが、同時に現実に横たわる切実な問題、それは宗教や世代間の差別であり、貧困問題であり、移民の抱く不安であり、紛争によって奪われる命が描かれています。
いや、だからこそこの『ベルファスト』の中に登場する人々は皆、現実味のある存在として実感ができ、彼らの愚かな行いも、また誰かへ向ける愛情に満ちた視線にも共感ができるのです。
僕らはベルファストという土地を知らないし、行ったこともないけど、彼らの心の中にある悪意、嫉妬、悲しみ、喜び、そして友人や恋人、家族に向けて幸せを願う心は分かる。そう感じさせてくれる映画です。
この映画のキモというかテーマのひとつに“想い出”という要素があると思うんですが、かなり近しいテーマを扱った映画ではつい先日まで演ってたウェス・アンダーソンの『フレンチ・ディスパッチ』があります。
そっちは想い出というパーソナルなテーマに対して、登場人物の感情や心理描写よりも“想い出”の瞬間(=感情)を、映像手法というか絵画的構造を用いて閉じ込めようとしていた気がします。
言い換えれば『フレンチ・ディスパッチ』は、登場人物の感情を映画のスクリーン全体に広げて(まさに絵画のように)描こうという試みだったのだと感じます。
その『フレンチ・ディスパッチ』も『ベルファスト』もほとんどのシーンはモノクロなわけですが、モノクロ映画がカラー映画よりも勝っているのは人物描写における感情の伝達力の強さです。
登場人物の心情や葛藤を観客に自然にかつダイレクトに伝達するために、色彩をあえて殺して情景に観客の気を注視させなくすることで、人物の表情やそのリアクションの変化がより明確に示されるようになり、心を誘導できるのがモノクロの強みです。
そういったモノクロ映像の演出に関して、その秀逸さは『フレンチ・ディスパッチ』より断然このケネス・ブラナーの今作に軍配が上がってますね。
あー!イカン、イカン!
この場で何行でもかけて、この映画に対して語りたい気持ちは山々(イングランドとアイルランドの終わりなき対立関係、1969年は人類史上も映画史上も特別な年です問題……etc)なんですが、それは次回のYoutube生配信にてお喋りします。
それ以外にも、この『ベルファスト』は実は本質的には『ダンケルク』に近い物語なんじゃないか?という暴論も展開してみようかと思います!
是非とも、遊びに来てくださいね―!