冷たい男 第8話 冷たい少年(4)
痛みは大分治ったもののまだ少しふらついてある担任を職員室に送ってから昇降口に向かうと少女と副会長が立っていた。
珍しい組み合わせに冷たい少年は訝しげな表情を浮かべる。
「誤解しないでよ」
少女は、むっとした表情で隣に立つ副会長を睨む。
「私が待ってたら急に現れたのよ。貴方を待ってるなら一緒にとか言って」
少女は、明らかに不機嫌そうであった。
副会長に隣に立たれるのが嫌と言うよりも冷たい少年に誤解されるのが嫌と言ったところだろう。
確かにボブショートに可愛らしい作りの制服に身を包んだ少女と。柔らかい印象の制服を堅苦しく着た、背の高い品行方正な副会長のペアはとても目立つ。少女と冷たい少年の関係性は学校内でも周知されているもののこれは誤解を生むかもしれない。
副会長は、少女に目もくれず、眼鏡越しに冷たい少年を見る。
「先生との話しは終わったのか?」
「ああっ」
「先生は?職員室に戻ったのか?」
「戻ったよ。具合悪そうだったから一緒に付きそ・・」
冷たい少年は、次の言葉を告げることが出来なかった。
副会長の顔が自分の指先が触れてしまったのではないかと勘違いしてしまう程に固まったからだ。
「先生は・・・?」
「大丈夫だって・・、病院にもこれから行くって・・」
「そうか」
副会長は、短く答えると眼鏡越しに冷たい少年を睨む。
その目には腹の底が痛くなるような怒りが滲み出ていた。
「先生に迷惑をかけるな。自分のことくらい自分で決めろ!」
そう言って副会長は、冷たい少年の前を通り過ぎ、去っていった。
冷たい少年は、去っていく副会長の背中をじっと見る。
「何なのよあいつ!」
少女は、両手を組んで憤慨する。
「勝手に待って、勝手に怒るって自分勝手すぎでしょう!」
石でも持っていたら投げつけそうな勢いの少女を冷たい少年は「まあまあ」と宥める。
「きっと心配してくれただけだよ」
「どこが⁉︎」
少女は、冷たい少年のあまりにもお人好しな意見に呆れる。
「あんなの嫉妬からくる意地悪に決まってるじゃない!」
少女の言葉に冷たい少年は、眉間に皺を寄せる。
「嫉妬?副会長が?」
品行方正、成績だって高校でもトップレベルの副会長が一般人レベルの自分に嫉妬?
冷たい少年は思わず鼻で笑ってしまう。
冷たい少年の反応に少女は、小さくため息が漏れる。
「気づいてなかったんだ」
「へっ?」
「彼ね・・・チーズ先輩が好きなのよ」
少女の言葉に冷たい少年は目を剥く。
「そうなの⁉︎」
「生徒会長に副会長が恋慕してるって一時期話題になったでしょ?本当に知らない」
冷たい少年は、首を横に振る。
少女は、冷たい少年の鈍さにため息しか出なかった。
「だから副会長は嫉妬してるのよ。君に」
「なんで俺に嫉妬?」
「チーズ先輩と仲良いからに決まってるじゃない。数多い男子生徒でも気軽に話しかけてたの君だけだったんだよ」
少女から語られた事実に冷たい少年は、驚愕する。
「そうだったんだ・・・でも、小中一緒だし、親同士も付き合いあるし仕方なくないか?それに君だって話してたじゃないか」
「私は、同性だからいいの!とにかく誤解を生む行動は慎みなさい。でないと・・」
「でないと・・?」
冷たい少年に聞き返され、少女は、頬を赤くして口籠る。それだけで何が言いたかったのか分かって思わず笑みを浮かべる。
「分かった。気をつけるよ」
普通なら安心させる意味でもここで手を握ったりするのであろうが、手袋をしていても躊躇いが出てしまう。
「帰ろっか」
冷たい少年の言葉に少女は頷くと2人で仲良く靴を履き替え、昇降口を後にした。
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