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聖母さんの隣の高橋くんは自分の心臓とお話ししてます 第十二話

「昨日はごめんね。高橋くん」
 マリヤは、申し訳なさそうに肩を小さくして謝る。
 高橋は、気怠げな目をマリヤに向けてチキンとサラダを突っ込んだピタパンを齧る。
 二人がいるのは学校の屋上に続く階段。
 マリヤは、持参のお弁当を、高橋は妹の手作りのパンをお昼ご飯に食べていた。
 本当は今日は妹と一緒に食べる予定だったのだがどうしてもマリヤが話したいことがあると言うので休み前のように二人で並んで昼食を食べていた。
「まさか……寝不足で貧血で気を失うなんて……」
 マリヤは、はあっとため息を吐く。
 休日に高橋とキャッチボールの約束をし、公園で待っていたはずのマリヤは気がついたら自室のベッドで横になっていた。
 母親が言うには公園で待っている時に貧血で意識を失い、高橋が介抱して家まで連れてきてくれたと言うのだ。
 マリヤは、少し頭がぼうっとして肩に小さな痛みはあったものの当然だがまるで覚えていない。何かとんでなく怖いことがあったような気もするがそれがなんなのかも分からない。
 分かっているのは、せっかく約束したのにそれをフイにし、さらに高橋に多大な迷惑をかけてしまったことだ。
「本当にごめんなさい」
 マリヤは、もう一度大きく頭を下げて謝る。
「そんな気にしなくていいよ」
 高橋は、ピタパンのソースで口元をこれでもかと汚しなが言い、気怠げな目でマリヤを見る。
 ブラウンの髪、ブラウンの目、艶のある綺麗な肌、痛みなさそうに動く手足、そして豊満な胸……。
「胸が減らなくて良かった」
「そこは怪我がなくて良かったじゃない⁉︎」
 マリヤは、思わず声を上げる。
「私の体の九割が胸みたいな言い方しないで⁉︎」
「違うの?」
 高橋は、気怠げな目を丸くする。
「違うから……!」
 マリヤは、叫び……叫んだ後、唐突に笑いが込み上げてくる。
 高橋は、唐突にマリヤが笑い出したことに驚く。
「ああっごめんね突然……」
 マリヤは、笑いすぎて浮かんだ涙を指先で拭う。
「なんかね……さっきまで不安だったの」
「不安?」
 高橋は、首を傾げる。
 マリヤは、頷く。
「なんかね……昨日目を覚ましてからずっと気持ちが落ち着かなかったの。なんて言うか……もう今までの生活が戻ってこなくなるんじゃないか……そんな気がして……」
 マリヤは、不安そうな表情を浮かべ、ぎゅっと箸を握りしめる。
 高橋は、気怠げな目でじっとマリヤの横顔を見る。
「大丈夫だよ」
 高橋は、ぽそりっと言う。
聖保せいほさんに何かあったら……また助けるから……。そんな怖がらなくていい……不安にならなくていい……聖保せいほさんは……」
 高橋は、左胸に手を置こうとして……止めた。
 気怠げな目がマリヤに向く。
 小さな熱が気怠げな目に灯る。
「俺が……ちゃんと守るから」
 高橋の言葉にマリヤはブラウンの目を丸くして驚き、そして微笑む。
「ありがとう……高橋くん」
 高橋は、気怠げな目を細めてピタパンを齧る。
「キャッチボール……いつしよっか?」
 マリヤがお弁当を食べながら聞く。
「いつでも。休日は大抵空いてるから」
 高橋は、ピタパンを食べ終え、口を拭かないまま袋からクリームパンを取り出す。
 マリヤは、拭いて上げたい衝動を抑えながら小さく笑う。
「そんじゃ次の日曜に。あっ高橋くんとこのパン屋さんにも行きたいなあ。日曜って空いてるの?」
「今週は空いてる」
「それじぁ、高橋くんとこでパン買って近くの公園でやろう」
「いいよ。わざわざ買わなくて。奢るから」
「私が買いたいの」
「……分かった」
「今度は、具合が悪くならないよう体調整えておくからね」
 そう言ってマリヤは両手で力瘤を作る真似をする。
「そうなったら胸を押して血を送るよ」
「私の胸は輸血パックじゃないからね⁉︎」
 マリヤの叫び声が飛ぶ。
 そうしてお昼時間は騒がしくも穏やかに過ぎていった。

※お付き合いありがとうございます!
 現在、続きを書きてますのでもうしばらくお付き合いください!

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