平坂のカフェ 第4部 冬は雪(17)
個展開催が決まってから私の生活は目まぐるしく過ぎていった。
友人の会社とアパレル会社とのコラボレーションが決定した事はネットニュースで小さく取り上げられた程度であったがはその反響は凄かった。
アパレル会社は、高級ブランドでこそないが若者の間ではかなりの人気で10代〜20代の若者なら必ず1つは服でも小物でも持っていると言われていた。
友人の会社も新進気鋭の企業として何度か雑誌に取り上げられており、その斬新なデザインが評価を得ていた。
会社を立ち上げてからそんなに日が経っていないのにそこまでの規模になってあることに「凄い」と友人の前て呟いた時、「母のアドバイスのお陰さ」と言って照れくさそうに笑った。正直、意味が分からなかったが成功者とはそんなものなのかもしれないと気にしなかった。
そんな会社の"専属アーティスト"として"KAnA"がコラボ商品の全ての絵を担当するなんて取り上げられ、しかも個展を開催するなんて話しが出たものだからプライベートもSNSもとんでもなく騒がしくなった。
両親は大騒ぎ、友人は大興奮、SNSではコメントがパンク寸前で返信することも出来なかった。
"専属アーティスト"なんて聞いてないって私は友人に文句を言ったが、彼女はしれっと「契約したんだから嘘じゃないでしょ?」と悪びれもなく笑う。
「貴方の創作に口出しすることはないから安心して」
私は、ぐうの音も言うことが出来なかった。
それに確かに嘘は付いてない。
私が規模を想定出来てなかっただけだ。
それに私のやる事は変わらない。
絵を描く事だ。
Tシャツに使われるのは元々描いていた絵を4枚、そして数量限定の書き下ろしを2枚。個展用に今ある絵では枚数が足りないからとさらに2枚追加となった。
計4枚の新作を描くことになったのだがこれに関しては出来上がってからで良いと言われた。
確かに今から4枚の絵を描くのは厳しい。
正直、締め切りに追われて中途半端な絵は描きたくない。
それでも私は出来る限り描きあげたいと思った。
私にとって絵は人生で初めて褒めれて、生きる希望となったものだから。
私の脳裏に彼の姿が浮かぶ。
彼は、あの太陽のような笑顔で私を応援してくれた。
私は、色鉛筆を手に取った。
#平坂のカフェ
#短編小説
#樹木アーティスト
#個展
#太陽
#彼