平坂のカフェ 第4部 冬は月(12)
何かが大きく変わった訳ではない。
相変わらず一緒に授業を受け、相変わらず一緒にお昼ご飯を食べ、3年間変わらない朗らかな笑顔で「せんぱ〜い」と言ってきた。
しかし、何かが変だった。
うまく言えないが身体はここにあるのに心がどっか別なところに向いているような気がした。
そんな彼の様子を見て私が出した結論は、"飽きた"のだろうということだ。
それはそうだ。
私みたいに暗くてつまらない女をいつまでも相手にするはずがない。
最初は、流行りの漫画みたいに興味を持つかもしれないけどいつかは飽きる。違うことに興味を示す。
彼も同じだ。
その証拠に高校最後の夏休みに彼からの連絡は一本もなかった。1年の時も2年の時も毎日毎日嫌になるくらいSNSを送ってきた癖に、"あ"の文字一つない。
だからと言って私から連絡することも出来なかった。
怖かった。
なんで連絡してきたの?
もうしてこないで!
嫌いだ!
彼から絶対に出るはずもない言葉が彼の声色に乗って何度もリフレインする。
殴られるよりも遥かに怖かった。
私は、絵を描くことすら忘れてスマホを握り、そして何も出来なかった。
スマホが鳴ったのは夏休み最終日の前日だった。
ベッドの中でもはや習慣になっていたスマホの画面確認をしていたら唐突に着信が鳴り響いた。
画面に出たのは彼の名前。
私は、震える手でボタンを押す。
「せ〜んぱ〜い!」
それはまったく変わらないお日様のように明るい彼の声だった。
そして彼は唐突に言う。
「明日、デートしましょう!」
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