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エガオが笑う時 第6話 絶叫(3)
「くだらない」
聞き覚えのある声が耳に入る。
空気を劈く音と同時に獣達の悲鳴が飛ぶ。
魔法騎士と騎士崩れ達の表情に驚愕が走る。
私を襲おうとした獣達の身体に銀色の矢が突き刺さっている。
矢の先端は、矢尻ではなく針になっており、その後ろにはガラスの管のようなものが付いており、中に液体が入っている。
矢が刺さった瞬間、獣達は叫び、のたうち回る。
「たかが獣相手に何をしているのです隊長?」
私は、声の方を向く。
板金鎧をまとった大勢の戦士達がこちらに向かって弓矢を構えていた。
メドレー。
その中心にいるのは金髪を刈り上げた凛々しい顔の青年、イーグルであった。
イーグルは、ゆっくりとした足取りで私に近寄り、侮蔑の目を私に向ける。
「その大鉈はもう飾りになってしまったのですか?」
小馬鹿にするように鼻で笑う。
私は、イーグルの侮蔑の目をじっと見る。
そして小さく頭を下げる。
「助けてくれてありがとう」
イーグルは、口をぽっかりと開けて間抜けた表情を浮かべる。
お礼を言うのがそんなに変だったかな?
「・・・なんで貴方がここに?」
「別に貴方を助けに来たわけではありませんよ」
拍子抜けしたように彼は言ってマナと魔法騎士を見る。
「用があるのは彼女とあの魔法騎士ですよ」
彼は、ポケットから数枚の帝国銀貨を取り出す。
「これが実に有意義に彼らを見つけ出してくれましたよ。使用された場所や換金された場所を割り出し、隠れ家まで教えてくれました」
イーグルの言葉に魔法騎士の顔に初めて動揺が走る。
「貴方のお仲間は全て捕まえましたよ」
そう言ってイーグルは、嘲笑する。
「貴方のお仲間はそこにいる騎士崩れと女王と呼ぶ彼女だけです。神妙になさい」
建物の影に隠れていたメドレーの戦士達が飛び出し、騎士崩れ達を包囲し、拘束する。
魔法騎士は、左手を掲げて魔印を輝かせる。
マナの首筋が輝く。
しかし、獣達は反応しない。
イーグルは、小さくため息を吐く。
「だから無駄です」
変化が起きる。
石畳の上で悶えていた獣達の身体が小さく、形を変えていく。獰猛な爪と牙が縮み、固い体毛が抜け落ち、獣から人の姿へと戻っていく。
「特効薬ですよ」
イーグルは、冷徹に言う。
「100年前に絶えた伝染病ですからね。当然、薬の処方も残ってました。医師達に大量に精製してもらい襲われた獣人達に接種し、武器にも使えるよう改良しました」
イーグルは、右手を上げる。
弓矢を構えるメドレーの奥から白衣を着た救護班が現れ倒れている獣人達の手当てを始める。
「準備はしておくものです。まさか今日で一網打尽に出来るとは思いませんでしたが」
イーグルは、腰に刺した長剣を抜く。
「邪魔だから動かないでくださいね」
イーグルは、横目で私を見ながら長剣の切っ先をマナに向ける。
その瞬間、無数の弓矢がマナの身体に突き刺さる。
「マナ!」
私は、叫び飛び出そうとするのをイーグルが長剣で横に伸ばして制する。
「ただの注射です」
「だからと言って!」
私は、イーグルを睨みつける。
マナは、巨大な身体を揺らして地面に伏せ、苦しげに小さく唸る。
「さあ、終わりです」
イーグルは、長剣の切先を魔法騎士に向ける。
「雷獣のヌエ」
イーグルの言葉に魔法騎士の細い目が小さく開く。
「帝国でも名の知れた魔法騎士が騎士崩れの首領とは落ちぶれたものだ」
「・・・うるさい」
魔法騎士・・ヌエは、唸るように言い、イーグルを睨みつける。
「天才と評され、若くして魔法騎士の師団長候補に上がったのに戦い方があまりに非道で新たな時代に相応しくないと除隊にさせられたのでしょう?」
「黙れ・・」
しかし、イーグルは口をと閉まることはなく、見下すようにヌエを見て嘲笑する。
「哀れですね。時代遅れの遺物は」
「黙れ!」
紫電が乱れ飛ぶ。
私は、大鉈を振るい迫り来る紫電を全て薙ぎ払う。
身体中に電気が走り、私は小さく呻く。
イーグルは、表情一つ崩すことなく冷徹にその様子を見る。
「ありがとうございます」
イーグルは、短く礼を言う。
「意味のない挑発はしないで下さい」
私は、イーグルを睨む。
イーグルは、何も答えずただ口の端を釣り上げた。
「帝国の奴らには俺の・・我々の遂行な戦いが分からないだけだ・・・」
ヌエは、肩で息を切り、私達を睨む。
「戦争の立役者をなりがしろにし、偽りの平和に現を抜かす連中を俺は許さない!」
左の魔印が激しく輝く。
「無駄です」
イーグルは、鼻で笑う。
「貴方達が襲った獣人には全員治療をしたと申し上げたでしょう。病気を発症する者はもういません。それにその娘だって・・・」
イーグルは、言いかけた言葉を飲み込み、石畳に伏せるマナを見る。
マナには、何の変化も起きていない。
苦しげに呻き、獰猛な双眸で私達を睨む。
首筋の魔印がヌエの魔印に呼応して激しく光る。
次の瞬間、苦鳴が迸る。
私とイーグルは、声の方を振り返る。
何人ものメドレーの戦士、救護班、騎士崩れ達が身体を捻り、悶え、頭を抑えて苦しみ出す。
ついさっきまで一緒に戦っていた仲間達が苦しみ出したことに他の戦士達は動揺する。
「本番まで取っておくつもりだったが・・・」
ヌエは、喉を震わせて笑う。
マナがゆっくりと身体を起こして立ち上がる。
針が皮膚に突き刺さるような感覚が再び私を襲う。
まさか・・・。
マナの双眸が青く光る。
その瞬間、苦しみ悶えていたメドレーの戦士が、救護班が、騎士崩れ達の身体が爆発するように膨れ上がる。
筋肉が暴走するように膨れ上がり、肌は血管を浮かび上がらせて青暗く変色する。唇が捲れ上がって歯を剥き出し、目が飛び出さんばかりに剥ける。
私は、額と背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「鬼」
巨大な異形へと変貌したメドレーと騎士崩れを見て私はそう呟く。
「だから言ったでしょ?」
ヌエは、喉をぐぐ漏らして笑う。
「禍だって」