![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141305859/rectangle_large_type_2_a45b3b72297b23c5904bbc7cb0173ae9.jpg?width=1200)
ジャノメ食堂へようこそ!第5話 私は・・・(15)
「気がついたら白蛇の国は瓦礫の山と化してました」
崩れ去った城下。
半壊した白い城。
泣き叫ぶ声。
倒れ、血を流し、命を失ったたくさんの人々。
そして眠るように倒れる巨大な白蛇。
「すまなかった」
白蛇は、声を絞り出し、泣くように言葉を紡ぐ。
「気づいてやれなくて……すまなかった」
そして白蛇は深い眠りについた。
「そこからは皆様のご存知の通りです」
巨人を解放し、白蛇の国を半壊させた挙句、それを止めた白蛇を深い眠りにつかせた罪でアケは半壊した城の座敷牢に閉じこめ、その罪を償わせる為に、白蛇を失った国の最大の脅威とも言える猫の額に住む金色の黒狼を滅する為にアケは捧げ物としてここにやってきたのだ。
全てを、罪を終わらせる為に。
「その……」
ウグイスは、唾を一度飲み込んでから声を出す。
「幼いナギは結局なんだったの?」
「……邪教の刺客の放った幻術だったそうです」
アケが巨人を解放した場所の周りには数人の邪教の信徒が死に絶えていたらしい。
「人間が……魔法を?」
家精が驚愕する。
人間にウグイスたちのような力はない。
それは能力が劣るとかではなく、純粋な種としての違いだ。
「恐らく催眠術とかの類だろうとのことです。あと、薬とか……私の心の弱さにつけ込まれたんです」
アケは、ぎゅっと手を握る。
その手の上にウグイスの手が重なる。
「だったら尚更、ジャノメのせいじゃない。ジャノメは敵の罠にかかっただけなんだから」
ねっと言うようにウグイスはぎゅっと手を握りしめる。
アケは、ウグイスの優しさが心に沁みて泣きそうになる。
しかし、アケは首を横に振る。
「それでも……私の罪は消えません」
ウグイスの緑の目が大きく揺れる。
家精は、目を伏せ、オモチは何も言わずに鼻だけ動かす。
「確かに思ったことはありました。なんで私が全部悪いの……って。悪いのはこの目の……私の中に棲んでる巨人のせいなんじゃないか……って。でも私があの時、ナギの幻影に唆されてなかったら、白蛇の民が傷つくことはなかった、白蛇様が眠りにつくこともなかった、お父上様に再び捨てられることもなかった…」
蛇の目から涙が溢れ出す。
「主人の命を奪うつもりなんてなかった」
アケは、涙に嗚咽しながら話す。
「主人に私を殺して欲しかった」
アケの告白にウグイスの表情が青ざめる。
「きっと主人なら巨人になんて負けはしない。巨人を倒して元凶である私を殺してくれるはず。いや、封印を解かなくても私が主人を殺しにきたと伝えれば怒って殺してくれるはず。何も起きず、巨人も出てこないで静かに死ねるはず……そう思ってた……願ってた……でも……でも……出来なかった……」
アケは、テーブルを叩く。
「みんなと……みんなと一緒にいたいと思ってしまったから」
アケの涙に濡れた告白にウグイスたちの顔が驚愕に震える。
「みんなのことが大好きだから……幸せを感じてしまったから……生きたいと思ってしまったんです!」
アケは、顔を両手で覆い、泣きじゃくる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
生きようなんてわがままを言ってごめんなさい!
罪を忘れてごめんなさい!
一緒にいたいなんて思ってごめんなさい!
幸せを感じてごめんなさい!
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
アケは、止めどなく溢れ出る負の感情を抑えることが出来ずひたすらに謝り、ひたすらに深い闇の中に堕ちていった。
もう這い上がることも出来ないほどに。
その時だ。
「大丈夫だよ」
温もりがアケを引き戻す。
「ジャノメは……もう大丈夫」
ウグイスがぎゅっと……ぎゅっとアケを抱きしめる。
「そうですよお嬢様」
家精がウグイスの逆側からアケを抱きしめる。
その身体からは熱は感じない。なのに凄く温かい。
「お嬢様はここにいらしていいんです」
家精は、ぎゅっとアケを抱きしめる。
「白蛇の国でとうだったか……何があったかなんてここでは関係ない」
オモチの柔らかい温もりが背中に当たり、大きな手が首に回る。
「ジャノメはジャノメ……僕たちの大切な仲間だ」
アズキが窓の外でふぎいと大きな声で鳴く。
みんなの意見に同意するように。
大丈夫だよ、と言うように。
ウグイスは。にっこりと微笑む。
「ジャノメは、ここにいていいんだよ」
その言葉は優しく、力強く、そして芯を持ってアケの耳と心に届く。
それでもアケは聞き返してしまう。
「本当に……?」
アケの声は不安に震える。
「本当に私はいてもいいの?」
こんな私が?
罪深い、みんなを騙してきた私が?
ウグイスは、優しく、力強く頷いてもう一度、アケを抱きしめる。
強く……強く……。
「ジャノメは……ここにいていいんだよ」
アケは、大声で泣き崩れた。