冷たい男 第6話 プレゼント(2)
少女は、カバンから財布を抜き、千円を取り出すと2人の前に置く。
「これで何か買ってきなさい」
「「えっ?」」
2人の声がハモる。
ここまで同調するのはやはり双子だからなのだろうか?
それとも人とは違う何かだからなのだろうか?
「お店に来て何も頼まない訳にはいかないでしょ?それともこういうところの物は食べれないのかしら?」
「いえ」
「そんなことは」
2人は、おずおずと答える。
「じゃあ買ってきなさい」
2人は、お互いの顔を見合わせる。
その顔には困ったように眉間に皺が寄る。
横顔も皺も羨ましいくらいに美しい。
2人は、少女の方に向き直り.「「ありがとうございます」」と言ってお金を受け取り、注文に向かう。
少女は、疲れたように小さく息を吐く。
「私の周りって・・・なんでこう変わった人が多いんだろう?」
ファッション雑誌がエアコンの風に小さく揺れる。
2人は、それぞれ飲み物を買ってくると席に座り、お釣りを少女に返した。もっと良いものを買ってきてもいいのにショートは、リンゴジュース、ロングは、アップルティーを購入してきた。
先程、叱ったからか?身体をモジモジさせながら上目遣いにこちらを見ている。
「・・・もう怒ってないよ」
そう言うと2人の顔は花火のようにぱっと明るく輝く。
そして風に揺れた蒲公英のように身体を揺らして喜びを表現する。
小さい子と一緒だな・・・。
少女は、胸中で呟き、少し緩くなったカフェラテを飲む。
正直、この双子のことをそんなに知っているわけではない。と、いうよりも出会ったのもつい最近のことだ。
冷たい男が親友と言い張るピンク髪の売れない芸人に巻き込まれた事件の首謀者と思われていたのがこの双子なのだ。
しかもこの双子には誰にも言えないような秘密があることも聞いた。
しかし、紐解いていくとこの双子もまたとある病気に罹っていた被害者でそれに気づいた冷たい男に助けられた・・・それ以来、冷たい男に憧れと尊敬を持って懐いてしまったのだ。
そして恋人である自分にも同じ反応をするようになった・・・。
思い返せば返すほど頭が痛くなる。
「それで奥様・・・」
ショートがおずおずと口を開く。
「奥様はやめて」
少女は、ピシッと言い放つ。
ショートは、びくっと身体を震わせる。
「では何とお呼びすれば・・・」
ロングが飼い主の顔色を伺う子犬のように身を縮こませてこちらを見る。
そんな2人の様子が不覚にも可愛らしく見えてしまい、胸がキュンと絞まるが、それをおくびにも出さぬよう努めて冷静に対処する。
「・・・彼のことはなんて呼んでるんだっけ?」
「「おにい様です」」
2人は、同時に声を出す。
とても澄んだ歌うような声だ。
少女の胸が再びきゅんっとするが、それを表情に出さずにうーんっと顎に手を当てて考える。
「じゃあ、おねえ様でいいわ」
本当に自分が年上かは分からないけど取りあえず高校の制服を着ていて明らかに幼い態度をとっているのだから構わないだろう。
案の定、2人は頬をそれこそ飲み物と同じ林檎のように赤くして表情を輝かせる。
「「ありがとうございます!おねえ様!」」
そう言って2人は頭を可愛らしく下げると少女に買ってもらった飲み物に口を付ける。
少女は、胸がキュンキュン鳴るのを抑えるようにチョコクロワッサンの端を齧った。
「ところでおねえ様は、何でここにいるんですか?」
ショートは、何度もしたかった質問をようやく口に出すことが出来て嬉しそうだった。
「欲しい本があったから購入して読んでたの」
そう言ってテーブルの端に置いた雑誌の表紙を指で叩く。
「ああっその雑誌知ってます!」
ロングが身を乗り出して雑誌を見る。
「毎回、表紙に載ってるアイドル達が美味しそうで私も興味があったんです」
ロングは、ウキウキと言う、
"美味しそう"と言う言葉が非常に気になったがここは触れないでおく事にした。
「・・・貴方たちは何でここに?」
少女は、話題を変えようと2人に話しを振る。
「私は、同じクラスのお友達の誕生日プレゼントに本をあげようと思って」
ショートは、可愛らしい笑みを浮かべて明るく言う。
「私は、数学の参考書を探しに」
ロングは、恥ずかしそうにはにかみながら言う。
どちらも何とも言えず可愛らしいが気になったのはそれではない。
「・・・貴方たちって学校行ってるの?」
確か制服は、カモフラージュだ、とピンク頭の悪友が言ってたはず・・・しかし、その質問に双子は、同じ顔できょとんっとしながら首を傾げる。
「・・・見たまんまですけど・・・」
何を咎められているのか分からないといった表情でショートが恐る恐る言う。
確かに有名な女子高校の制服を着ている。
少女達世代でも可愛らしいと大人気だったのでよく知っている。
「ひょっとして・・・不良かなんかに見えました?」
ロングが慌てて自分の髪型や身だしなみを気にしだす。
とんでもない!
誰もが羨む美しい顔立ちで清楚さが滲み出ている。
双子は、不安そうに、怯えた子犬のようにこちらを見る。
次に少女に何か言われたら人魚姫の如く命を絶つのではないかと連想させるほどに目が震えてている。
少女は、思わず頬を引き攣る。
「ご・・・ごめんなさい変な言い方して。大学とバイトしてると曜日感覚分からなくなって・・今日日曜日と勘違いしちゃった・・・」
自分でも何言ってるか分からない言い訳をして乾いた笑いをする。
そんなんで納得する訳ないだろう!っと思ったが双子安心したように表情を緩めて笑う。
「なんだ。そうだったんですね!」
「やっぱ大学生って忙しいんだ!私も見習わないと!」
双子は、安堵から嬉しそうに身体を横に揺する。
どうやらこれがこの双子の嬉しい時の癖らしい。
可愛い!
そしてなんていい子たち!
ウザいっと思っていた双子の印象が少しずつ変わっていく。
そして改めてこの双子が要注意人物たちであると理解した。
こんな可愛らしい子たちに攻められたら流石の冷たい男でも・・・。
少女は、頭によぎった嫌な考えを頭を振って吹き飛ばす。
その仕草に双子は、首を横に傾げる。
「それでおねえ様もそのアイドルが好きなんですか?」
ロングの発した言葉の意味が分からず思わず「えっ?」と返す。
「その雑誌です。友達は大抵、アイドル目当てで買ってるから」
「ああっ」
少女は、テーブルの隅に置いた雑誌に目をやる。
確かに高校生であることが本当ならアイドル目当てであることは頷ける。
「おばさんみたいな答え方だけどアイドルになんて興味ないわ。見たかったのはこれに載ってる特集ページよ」
「何の特集ですか?」
ショートが好奇心に目を輝かせ聞いてくる。
少女は、躊躇いつつも雑誌のページを開く。
特集ページに風船のようなポップな字体でこう書かれていた。
"恋人が喜ぶプレゼントとは?ファッションのプロが選ぶ今年のトレンド!"
双子は、お互いの顔を見合わせ、そしてにんまりと笑う。
今度は少女の顔が林檎のように赤くなる。
「なるほどなるほど」
「これはもう奥様になるのも秒読みですね」
年下?達のからかいを少女は、「うるさい」と左手を振って鎮めようとする。双子は、それ以上、何も言わないがニヤつきは止まらない。
「それで・・・」
「どれを選んだんですか?」
双子に促され、少女は渋々ページの中から一つを指差す。
それはチャコールグレーの薄手だがシックな手袋だ。
冷たい男にとてもよく似合いそうな・・・。
「今、付けてる手袋が痛んできてたから・・・」
少女が恥ずかしそうに身を縮める。
「ステキー!」
「おにい様にとても良くお似合いです」
双子は、天真爛漫に目を輝かせる。
「それじゃあこれを買ってプレゼントするんですね!」
ショートが心と声を弾ませて言う。
しかし、少女は、首を横に振る。
双子は、予想外の反応に目を丸めて唇を尖らせる。
少女は、小さく笑みを浮かべて言う。
「作るのよ」