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看取り人 エピソード6 来世に繋がる失恋(2)

 パパに見送られて学校に向かうと肩まで伸ばした派手な金髪の女子の後ろ姿が目に飛び込んできた。
(えっヤンキー?)
 私は、思わずたじろぐ。
 自分も金髪の癖にと思われるかもしれないが私のはあくまでお仕事。半年もすれば黒に戻すか違う色になっている。だから、本気でケバく髪を染めた人を見ると怖気付いてしまう。
 この辺りはうち以外の学校なんてないはずなのに……と思ったがよく見ると金髪が着ているのはうちの制服だった。
 えっ嘘でしょう?
 私以外に髪を染めることが許されてる生徒がいるの⁉︎
 私は、興味に駆られて早足して彼女の前を通り過ぎ、バレないように少しだけ首を向ける。
 ぎょっとする。
 赤い筋の入った派手に染めた金髪、卵形の輪郭に白く塗りたくった肌、赤い唇、耳にはクリスマスツリーのように様々な種類のピアスが隙間なく開けられている。
 注目すべきは目だ。
 刃物でピッと裂かれたような切長の右目、そして分厚く、大きな白い眼帯で覆われた左目。
 典型的な痛女だ!
 厨二丸出し!
 世界は自分を中心に回ってると本気で勘違いしてる類の人間だ!
 こんな奴に目を付けられたらヤバい!
 私は、急いで学校に逃げようと前を向いた時だ。
 目の前がチカチカする。
 えっ嘘……こんな時に?
 世界が回る。
 気持ち悪い……。
 立っていられない。
 私は、身体を支えることが出来ず、そのまま地面に倒れ込みそうになる。
「大丈夫?」
 柔らかな感触が私の身体を支える。
 切長の右目が心配そうに私を見る。
 私は、くらっとする頭で周りを見る。
 どうやら金髪の彼女が倒れそうになった私を支えてくれたみたいだ。
「大丈夫です」
 私は、息をふうっと吐いて身体を起こす。
「本当に?痛いところはない?」
 彼女は、右目を震わせて私を見る。
 その目も、この声も見た目とはまるで違う。弱くて……しかし、とても優しいものだった。
「はいっ本当に大丈夫です。ありがとうございました」
 私は、ぺこりっと頭を下げる。
「そう……それならいいんだけど……」
 彼女は、右手を胸下に当ててきゅっと握る。
 その姿はまるで怯えるウサギのよう。
 私は、最初に抱いた印象とはまるで違う彼女に唖然とする。
「何かあったら保健室に行ってね。無理しないで」
 彼女は、それだけ言うと学校に向かって歩いていく。
 私は、去っていく彼女の背中を見送った。

「それ話さない女サイレント・ガールだよ」
 お昼休み。
 みんなで机を並べて昼食を楽しんでる時にたまたま朝が怠いと言う話しになったので今朝の話しをしたらクラスメイトの一人がそう言った。
話さない女サイレント・ガール?」
 何それ?
 そんな厨二的な呼び名、現実の世界であるの?
「ああっその人、私も知ってる!」
 もう一人のクラスメイトが嬉しそうに声を上げる。
「その人、部活の先輩と同じクラスなんだ!」
 えっ上級生なの?
 てっきり同級生かと思ってた。
「結構有名だよ。その先輩」
 また、違うクラスメイトが口にする。
 三人も同じ話題が出ると言うことは本当に有名なのだろう。
「入学初日から髪を金髪に染めて、ピアスだらけで現れて全校生徒の度肝を抜いたんだって」
「いや……それなら私もそうだけど……」
「貴方は似合ってるし可愛いからいいのよ」
 そう言ってクラスメイトは笑う。
 いや、それは理屈としてはあってないと思うけど……。
「先生達が注意しても何も話さず睨みつけるんだって」
「クラスでもずっとムスッとしてるみたい。話しかけても睨みつけるだけで完全無視」
「だけど、何故か勉強だけは真面目に取り組んでるらしくて学年でも成績は上の方とか……」
「でも一番の逸話はあの生徒会副会長に喧嘩打ったってやつじゃない?」
「副会長に?」
 私は、驚く。
 生徒会副会長といえばこの学校の有名人だ。下手したら私よりも知られている。
 入学試験では学校始まって以来のトップの点数で首席入学。その後も学年一位をキープし、全国模試では小学生の頃から常に三位以内に入っている。容姿端麗で小柄だが和的な雰囲気はまさに大和撫子。下手したらモデル仲間よりもずっと魅力的な美人だ。
 しかも性格は恐ろしくクール。
 そんな完璧超人に喧嘩を打ったと言うのか?
「確か……おみそ汁って呼んだのよね?」
「おみそ汁?」
 私は、首を傾げる。
「おみそ汁じゃなくてオミオツケよ!」
 訂正したクラスメイトはおみそ汁と言ったクラスメイトの肩をバンっと叩く。
「副会長、みそ汁嫌いみたいでさ。大喧嘩になったらしいよ」
「もう二年生の間じゃ伝説よ。みそ汁だけに溶け合うことはないだろうって」
 自分で言って爆笑し、周りが「うまい!」「おかず一品!」と盛り上がる。
 しかし、私はその話しを聞いても釈然としなかった。
 あのクールで知的な副会長が嫌いな言葉ワードを言われたくらいで大喧嘩に発展するほど激昂するだろうか?
 それに金髪の彼女だって見た目は厨二だけど話した感じはとても喧嘩するようなタイプに見えなかった。
 しかし、そこまで考えて私は"どうでもいっか"と思った。
 正直、話さない女サイレント・ガールになんて眼帯陰キャに興味もなければ交わろうとも思わない。スゴデキ副会長だって問題でも起こさない限りは始業式か終業式の挨拶で顔を見ることぐらいしかないだろう。
 そんな縁もゆかりも出来なそうな上級生達のことを考えるのに力と時間を費やすならもっと別なことに費やしたい。
 そう……。
 私は、窓側の席に座る彼を目を見る。
 彼は、地元で有名なシウマイ弁当をつまらなそうに突きながら窓から差し込む日差しを灯りにして文庫本を読んでいる。
 ただ、それだけのことなのにこの世のどんな絵画よりも美しく見えるのは恋ゆえのことなのだろうか?
 私が彼のことをじっと見てるとクラスメイトの一人がにやっといやらしい笑みを浮かべて私を見る。
「ミステリアスだよねえ。彼って」
 クラスメイトの言葉に私は弾かれるように振り返る。
 頬が熱くなるのを感じる。
 そんな私の顔が面白かったのか?彼女はニヤニヤをさらに深める。
「彼と話したい?」
「えっ?」
 私は、どきんっと心臓が鳴るのを抑えられない。
「クラスだと話せないよね。あんたが男の子と話したら学校中が混乱カオスになるから」
 その通りだ。
 別にコミ障でもない私が人を寄せ付けない雰囲気があるとはいえ男子生徒一人に声を掛けれないのは私が異性に声をかけることによって起きる二次災害スキャンダルだ。
 そこまで顔が売れてる訳ではないが流石に学校のような狭いコミュニティではリスクが高過ぎる。
「そんなあんたに朗報です」
「朗報?」
 私は、眉を顰める。
「彼ね。放課後は近くのファーストフードに寄ってパソコンを弄ってるの。しかも誰も目を向けないような端っこの席で」
 私は、目を大きく見開く。
「なんで知ってるの?」
「たまたま見たのよ。少し前かな?彼が古文の……ほら声の低くて美人な先生と一緒にハンバーガー食べてるとこ?」
「なんで先生と?」
「さあ?進路指導とかじゃない?」
 一年生で?
 進路指導?
 私は、釈然としなかった。
「それ以外の日にも何度か目撃してるの。同じ席で同じようにパソコン弄って……ルーティン的に使ってるのかもよ」
 確かに……それは朗報だ。
 雑踏な店の中なら少し変装すれば顔バレすることはないだろう。
「ありがとう」
 私は、にこっと微笑んで礼を言う。
「お礼は〇〇君のサインでいいよ。一緒の雑誌に写ってるから知り合いでしょ?」
 それが狙いか。
 まあ、いいわ。
 性悪エロ男のサインで彼と話せるなら安いもの。
 あわよくば電話番号も教えてやろう。
「商談成立ね」
 私は、にっこり微笑んだ。

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